ボッサ入り口

bar bossaの林伸次さんにインタビューしてみた(その1)

bar bossaの林さんが「なぜ、あの飲食店にお店が集まるのか」という本を出されたのですが、僕はすぐ購入して一気に読みました。僕は同業なので、その視点からおもしろく読ませていただいたのですが、「自分のお店を持ちたい」という方は多いのではないでしょうか。おすすめです。

林さんがこの本についての取材、インタビューを募集していたので応募してみました。せっかく飲食業同士なので僕が気になっていることなどを中心に聞いてみました。


――本日はよろしくお願いいたします。

林さん「お願いします」


――取材をするお店の選び方はどういう基準でしたか?

「はじめ僕が決めてやっていたらワインの店とかカフェばっかりになりそうだったんで、このインタビューは1冊の本になる予定でしたので、編集の人に言われてもっと蕎麦ですとか焼鳥ですとか違う職種のお店を入れたい、いろんなお店がいいという話でした。あまりワインの店に集中するのはやめてくれと言われたので。本当はシノワとかにも取材したかったんですけどね。違う店を紹介されて、何件かお店を回って話を聞いてみたいと思う店に行きました。」


――お客さんとして実際行かれたわけですね。

「そうですね。やっぱり失礼かなと思いますね。」


――決めるテーマみたいのはなかったのですか。

「老舗はやめようという話でした。新しいお店で、いわゆる個人経営というか、オーナーが自分でお金を出したりお金を借りてやってる店にしました。」


――インタビューしたお店で、必ず聞いていた質問などはありましたか?

「これからお店をやりたいと思っている人たちなどに向けての一言と、家賃と、売り上げは、最初ここまで聞くとは決めていなくて、聞いてないお店もあるのでそこはちゃんと聞いておけばよかったなぁとちょっと失敗したなと思っています。」

――(ちなみに聞いていないお店は有名店で、僕もそのお店の売り上げとか知りたかった!)
――そういえば今回の本におそらく初めて林さんもご自身のお店の家賃についても触れていましたね。今まで明確な数字が出ていなかったと思いますが。

「それはやっぱり家賃が書いてあると思ったら、同業者は買いたくなりますよね。」

――なるほど。

「あー、あそこあんなに高い店なんていうのもありますよね。今回麻布十番の店がすごい家賃が高いと知って、銀座と同じ位高いんですよね。そういうことも聞くと面白いなぁと思いました。」


――本の中で、ほとんどの方に聞いていたと思うんですが、お店のグッズとかネット販売ですとか、そういうものに興味があるか、この先考えているかというような質問をされていましたが、林さん自身はどのようにお考えでしょうか?

「昔有名なカフェのオーナーと対談したことがあるんですが、飲食だけではそんなに回ってはいなくて、グッズを売ってそれで結構回してる部分があるというような話を聞いて、なるほどと思ってみんなに聞いてみたんですが、いまひとつやる気はないみたいですね。」

――それはを読んでいて思いました。思ったより反応が薄いなと。僕なんかすごい興味があるのですが。確かに僕もその有名なカフェに行ったことありますが結構なスペースで物販をしていた印象があります。

「結局そのお店はネット販売も始めて、やっぱりファンの人はネットでチェックしていて、新しいものが販売されるとやっぱり買うんですよね。」

――なるほど。ファンになってくれるとお店でもブランドになりますよね。
お店でものを販売するという考えからカフェのお店の方には焙煎という質問もしていたのでしょうか。

「以前にカフェは焙煎もやらないと儲からないという話を聞いていたので、それでインタビューでも聞いていました。」

――でも本の中では焙煎は全くやらないっていう方もいらっしゃいました。

「そうですよね。本の中でも書いているんですけど、西谷(coffeehouse nishiya)さんなどは、450円でコーヒーを出して原価が50円で、1分で出せてこんな儲からないものはないって言ってて、ようするに牛丼屋みたいな発想なんですよね。例えばフレンチなら出てくるのにすごい時間かかりますからね。」

西谷さんのインタビューは特に興味深かったです。今、カフェといえばスペースとしての場所と思っている人がほとんどの中、西谷さんはコーヒーを飲むための場所というのを徹底していて、その思いもすごいです。

――林さん自身は、バーに来てアルコールをほとんど飲まない方、お代わりしない方の対応はどうでしょうか。

「昔は結構シビアでした。でもお店の状況的に、岩間さんは同業ですからわかると思うんですけど僕の店は1人で回しているんで、満席になって全部のお客さんがたくさん注文してくれると逆に回らないんですよ。だから、満席になってすごい忙しいことだけを想定するともう1人必要なんですが、毎日が必ず忙しいというわけではないので難しいですよね。」


――その辺もすごい気になっていたんです。林さんのnoteなどを拝見させていただいて、お店の状況、今日は暇だった、忙しかったということを書かれていますが、忙しかったという時は満席のイメージはありますが、暇だった時は実際にはどれくらいの入りなんでしょうか。

「2,3組しか来ない時もあります」

――え? すごいびっくりです。

「以前朝4時までやっていた時があるんですが、同業者が仕事が終わって午前1時ごろ来たことがありまして、それがその日の営業1組目で、あーよかった来てくれてと言ったら、ボッサさんもそんなことあるんだー、ほっとしたって言われたことあります。」
「ほんとどうしてもお客さんが来ない日っていうのはありますよね。」

――そうですよね。

「全てが整っているのに、なぜか来ないっていう感じありますよね。」


――今まで僕のイメージとしては、ボッサさんは常に賑わっているお店というイメージがあったわけですが、それなのになんで1人でお店を回せるのかなとずっと不思議に思っていたんです。だから今までアルバイト雇っていたことがあったとか、もう1人、人を雇うっていう事は考えないのかなあとずっと思っていました。

「初めから1人でお店をやろうと思ってのこの広さだったんですね。これだったらやれるだろうと。はじめのうちは振りもののカクテルなどもやっていましたが、女の子4人で来店したら4人とも違うカクテルを注文するんですよね。」

――1杯目ですよね。

「はい。で、みんなのカクテルが揃うまで飲まないんで、これは無理だなと。いろいろやり方は変えてきました。ワインなら注ぐだけで良いですし。ブレブレですよ笑」


自分のやりたいことをずっと貫くのもよいですが、やっぱりお店を続けるために変えてきたということですよね。1人でやるんだったら常に1人でできるやり方に変えて、やり方を変えたくないのなら2人でやれば良いという事でしょうか。


――本の中で、林さんの店はちょっと古いタイプのお店とご自身で書かれていましたが、逆に林さんが思う新しいタイプお店っていうのはどういったイメージでしょうか。

「店員がキャップをかぶっていて、シャツが出ていて、スニーカーを履いているお店なのにでも単価は1万円というお店があるじゃないですか。あれがすごいなと思いまして。ネクタイをしてやっている身としまして。」

――新しいですね。そこはやっぱりお客さんは入っている?

「すごい入っていますね。」

――若い方が中心ですか?

「いえ。そんな事はないと思います。多分あっちのほうが落ち着くんだと思います。テーブルクロスするとかもなくて、面倒くさくなくていいんだと思います。ナイフ、フォークなんかも並んでなくて、いちいち考えなくていいから落ち着くんだと思います。」

――なるほど。なんか僕も古いタイプと言う実感が湧いてきました笑

「僕は自分が古いタイプって気づいた時がありまして、ワインバルが出てきたときに、もうワインバーじゃなくてワインバルなんだなって思いました。本にも書いてある、一瀬(三鷹バル)さんとか出てきたときに思いました。その次に思ったのは、ルネッサーンス(髭男爵のネタ)を見たときに、この金魚鉢みたいなグラスを冗談として使ってるわと思った時に、思いました笑」

――すごい大きいグラスはもう冗談でしか使われなくなったと笑

「後は自然派な人たちはグラスを回さないって知ってました?」

――え? 知らないですね。飲む人がですか?

「はい。僕らは出てきたワイングラスは回すというのがクセというか習慣じゃないですか笑。でも回さない人が多いと気づいたときに「あー」と思いました。多分※アヒルとかオルガンとか行ったら誰もグラス回してないですよ笑」 (※「アヒルストア」と「オルガン」自然派ワインを主に扱う超有名店。「オルガン」の紺野さんは本でインタビューを受けている1人です)

――それはもうグラスを回すという習慣がなくなったっということですかね。

「ええ。回すのはバブルっぽいというか古くてかっこ悪いんだと思います。」

――でも、考えたことなかったですけどなんとなくわかるような気がします。当たり前と思っていたワインの飲み方は変わるのかもしれないですね。

飲食で働いていて自分のお店を持つというのは、やっぱり1つの目標というか、目指している方も多いと思います。でも僕は20代でお店を持つ、やるなんてことは考えませんでした。それはやっぱり、自信がないとか、怖いとかいうものであったと思うのですが、林さんはどうだったのでしょうか。


――林さんは20代でお店を始められたわけですが、お店をやっているうちにもう少し修行をしておけばよかった、もっと違うお店で長く働いてから始めればよかったと思われた事はありますか?

「正直にあとで何回か料理はやっておいた方が良かったなと思いました。僕フレンチの面接を受けたことあるんですが、2年間ぐらいしか働けないと言ったら断られてということがあって。そこだったらその2年間ビストロみたいなお店で働いていればよかったなと思ったりしました。」

――それはキッチンとして料理の経験をしておけばよかったということですか?

「はい。やっぱり仕込み方とか食材の扱い方とかそういうのは知っておいたほうがよかったなぁと、お店を始めてから思いましたね。やっぱりお客さんはお酒だけじゃなくて料理も欲しいんだなーて気づきました。」

――そうですね。それは僕も店で実感します笑

「思いますよね笑」

――お店は将来的な誰かに譲りたいという思いはあるのでしょうか。

「僕はお店はすごい辞めたいです笑」

――辞めたいと言うのは結構おっしゃっていますよね笑

――このお店の形を残したいっていうのはあるんでしょうか。

「誰かに任せてっていう話ですよね? 何回もシミュレーションしたんですが、なんか無理なんですよね。かわいい女の子2人雇って、1人がサービスで1人が料理やって、いらっしゃいませーなんて言って、ワインを安く出して、何か気の利いたお料理を出したりするのどうかなと思ったりするんですが、やっぱりそういう店って普通にあるし、てみんなに言われちゃうんですよね。」

――ありそうといえばそうですが笑

「あともう一つはイケメン男子2人雇って1人はスイーツなんかも作れて、ちょっとしたかわいい料理も作って、カクテル等のドリンクをやって、ていうのも考えたんですが実際女の子来るかなーなんて思っちゃうんですよね。この箱でこれだっていうのは思い付かないんですよね。今の状態のまま、例えばシェフなどを雇った場合回らないんですよね。やっぱりお店が小さすぎますし、すごい単価上げるしかないんですよね。単価を上げるとなると、グランヴァンの店などもやったことないのでやり方もわからないといいますか。」

――でもかなり具体的なお話なので相当シミュレーションされたんじゃないですか?

「はい笑 すごいしましたね。」


――かなり前から考えていたと。

「はい、そうですね。3・11の地震の時、売り上げがすごい落ちまして、友達のお店とか潰れたんですね。その時に悩んだりしてランチを始めたりしたんですが。ランチがすごい忙しすぎて。その頃から考えるようになりました。書く仕事もその頃始めましたね。」


僕もこのnoteにお店の事などを書かせていただいてるんですが、お客様にもnoteを読んで来ましたと言われたり、noteを書いている飲食店の店主は興味があるという話を聞いたり、僕自身もnoteを書いている飲食店に行ってみたいなと思うお店もたくさんあったりします。ですのでこれからもnoteの発信をしていきたいのですが、続けていくのにやっぱり不安といいますか、どういうところまで書いていいかと悩んだりしますので、そういったあたりを林さんに聞いてみました。


――僕が初めて林さんの本を読ませていただいた時に、すごいと思ったのは今まで僕が読んできた飲食店関係の本はきれいにまとめられているというか、サービスについて書かれている本でも実際に自分が体験するサービスの事と開きがあるというか、それはその本に書かれていることができれば完璧とは思うのですが、綺麗事すぎるというか、なかなか現実より離れすぎていて自分の頭の中に落とすのは難しいという本が多かったんです。それが林さんの本では身近に感じられるというかリアルに自分の働いてる中に落とすことができて面白かったんです。ただお店のリアルな話に近づけば近づくほど、書くストレスというものはなかったのでしょうか。

「叩かれるという意味ですか?」

――そういう意味も含めてです。怖いというか。ここまで書いてはいいだろうという線引きとかいうのもあるんでしょうか。逆にこういう事は書かないといったことなど。

「一応、お客様との会話というのは書いていいかとは必ず許可を取っています。」

――やっぱり接客をするというのは人それぞれ違うので、答えがないという点で荒れやすい思うんです。実名でなければ好き勝手書いてる人がたくさんいるんですけど、炎上していることも多いですよね。名前が出ている分リスクがあると思うんですが。

「でも誰かが言ったほうがいいということもあるんですよね。昔だったら、例えば居酒屋での水問題(居酒屋でお酒を頼まないで無料の水だけをお願いする問題)ですとか、そういうのはお店には困るんだよというのを誰か教えなきゃいけない。そういう事は書いたほうがいいと思います。後はエンターテイメントとしてですね。昔は、お店の人がこういう変なお客様が来たというような話を綴った本なども出ていましてそれを面白くて読んだりしていたのですが、そういうのがモデルになってるかもしれないですね。今だったら炎上するような内容ですが。」

――特に何か言われたりする影響はないと。

「いえ。時々飲食の人で僕のことが嫌いなんだろうなって思う時はありますね。何か目立っていると同業者に嫌われやすいんですよね。」

――そうなんですか?

「ええ。もう見ないようにはしています。僕以外にも例えばツイッターなどでもっとすごい、ここでは言えないような発言をしている人がいるので、僕はまだかわいい方だとは思います。僕は問題提起をしてそれが良いほうになればいいなというようにもまとめるようにしています。」

「この本でもそうなんですが、やっぱり飲食って楽しいよという思い、もちろん大変なことも多いんですけども、やっぱり面白いんで、そういったことがつながるといいなと思っています。お店を出すのは比較的簡単だし、普通に勤めをやっているより楽しいと思いますのでそういった面も伝えればいいかなと思います。」


――最後に林さんもインタビューで必ず聞かれていた、お店をやってみようと思っている人たちに一言お願いします。

「これからお店をやるならお酒だけに頼るお店はやめたほうがいいよとは言いたいですね。すみません、お互いにこんな業態なのに笑 この前もワインバーをやりたいっていう方に来店していただけたのですが、やっぱりやめたほうがいいですよって言っちゃいましたね笑」

       ◆    ◆    ◆    ◆

林さん、お店はやらないほうがいいとよく言っていますが、なんだかんだと今回の本を書いているんですよね。

お店をやってみたいと思っている人が気になる内容の本を。

しかも個人でお店を始めた方だけをインタビューされていて、一番林さんがこれから飲食店をやってみたいと思っている人を応援しているんだなあ、と実感しました。

今回、林さんの1ファンとして、新刊のインタビューをさせていただきましたが、結局自分が聞きたい事だけを聞いてしまったと、もうこれはインタビュー中にしっかりと感じていたことだけれど、それでもしっかり対応いただいてありがとうございました。

ちなみにこのインタビューは続きがあって、でも林さんの本についてはだいぶ離れてしまったので別にしたのですが、せっかくなので次回も載せようと思っています。多分飲食業の方にはそこそこ楽しんでいただけるのかなと思います。

こちらです。


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