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じいちゃん、わたしの選択を聞いてくれ。

つい先日、じいちゃんの誕生日だったのでおめでとうの電話をかけた。帰省ができず会えない年は、小包み(だいたい、好物のお酒)と生電話のプレゼントを贈る。今年の小包みには「お誕生日おめでとう。暑いので身体に気をつけてね。」という、我ながら当たり障りのない、メモのような付箋を貼り付けておいた。それを「ラブレターが付いとったど〜!」ふざけて解釈してくるあたり、まだまだ元気でファニーなじいちゃんである。もう80代も半ばだろうか。

電話ごしに「おめでとう、元気してるー?」「そっちも元気かえ?」と、年始ぶりに会話をしたあと、じいちゃんからサラッと聞かれた質問に、わたしはガイーンと不意をつかれてしまった。

「まりなは、正社員にはならへんのか?」

近ごろ公私共に平和に過ごしすぎてきたからか、相手に言われたひと言が、こんなに残留するのは久しぶりだ。そもそも、誰かに話すと即座にスッキリしてしまう、わりと図太めのわたしである。今回もすぐ夫にしゃべった。だが数日経っても、ザワワザワワとわたしの心がサトウキビ畑と化しているので、(すみません、小ボケです)これはいかん!とペンを持った次第である。

まず、上記の質問を投げかけられたとき、直感的に「あたいは社会的信用を得られてへんやないか!」と切ない気持ちになってしまった。「仕事はどう?」とか、ほかの聞き方もあるだろうに、じいちゃんにとっては「アルバイト」というのが大きな気がかりだったのだろう。齢80過ぎのじいちゃんに正規雇用を促されるなんて、トホホ案件である。

「え〜、だっていまはフラフラしてたいんやもん〜♪へへへ♪」

心配をかけまいと努めてひょうきんに返答したのだが、逆効果の可能性が高い。じいちゃんにとっては、手応えゼロの返しだったろうなと思う。ごめんよ。じいちゃん。会話も盛り上がらず、互いの健康を願って電話は終了。

電話を切った途端、わき上がってきたのは「じいちゃんそれはさすがに越権行為やで!」という怒りの感情だ。バイトか社員か?そんなん自分で選ぶわバカヤロウ!(心の声なので許してください……)

少し前のわたしなら、こんなことを急に言われたら「やっぱ正社員になったほうがいいんかな……」と、子鹿のようにプルプル頼りなく揺らいでいたかもしれない。でも今回はその揺らぎが一切なかったので、自分としては少し自信になった。なんせ仕事先は「コーヒーがすき、学びたい」という一心で飛び込んだお店なのだから。働きながら好きなものに触れられる充実は想像以上で、雇用形態はわたしにとって小さなものさしになりつつある。アルバイトにいろいろ任せてもらえたり、研修やトレーニングがあるのも、ありがたい環境だと感じている。

わたしはきっと、悔しかったのだ。

自信満々で充実のアルバイトをしていたのに、「正社員」というワードを投げかけられ一瞬でも弱気になったこと。「正社員=社会的信用」というものさしでしか、じいちゃんには安心を与えられへんのかぁ……令和やのになぁ……と、及び腰になったこと。

ちゃうねん、じいちゃん。もっと話せば分かる。

わたしは家族の時間を最優先事項に置いたのだ。特に、ごはんを一緒に食べる時間を大切にしたい。なぜならその時間を、ずっと疎かにしてきたから。そのために夫の仕事とのバランスも考えに考え抜いて、いまの仕事、いまの働き方を選んでいる。休日の希望もある程度自由がきくいまのカタチが、とてもしっくりきている。いい選択だ。

仕事内容だって、毎日未知との遭遇である。約1年間勤めてきたけれど、コーヒーの奥深さ、繊細さに興味の幅は広がるばかり。知識のインプットはもちろん、お客さんに出せる商品を作れるようになるまで、何度も練習とテストを繰り返し、技術を習得する期間もあった。壁が高く感じる日ももちろんあるが、学ぶって楽しい。そう思わせてくれたのはこの仕事に出会えたからだ。まことに、いい選択だったと心から思う。

毎日の仕事現場では、オーダーが続けば続くほど「コーヒー、淹れるぜ!」と武者震いしながらウハウハしてくるタイプである。わたしにとっては、この楽しさに正社員とアルバイトなんて関係ないのだ。ウハウハしている自分。コーヒーが大好きな自分。いま大切にしたいのは、これなんだよなぁ。

っていう、わたしなりのお仕事選択の過程と現在地を、あのときじいちゃんにスムーズに淀みなく電話で言えてたらなぁぁぁぁ!!!!!!!

今回は不意打ちをくらってしまい、じいちゃんを安心させるには至らなかったと思う。反省だ。自分で選んだ好きな仕事をする日々は、こんなに生き生きして(ウハウハして)しあわせなのに。今度会うときは、このnoteをまた読み返してちゃんと話すのだ。

あ、ちがうちがう。まずはじいちゃんのために、渾身のコーヒーを淹れてあげよう。これがいちばんの近道かもしれないっ。


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