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腕時計の電池交換で感動した話

まさか電池交換でちょっと泣きたい気持ちになるなんて思わなかった。

あたりまえのようで、あたりまえじゃない。
そういう事ってたくさん転がっていて、きっと気付かないで通り過ぎてきた事もいっぱいあったんだろうと思うけど。

ありがとうって思ってる、伝えきれない気持ちを書く。

受験生の腕時計

家には受験生がいる。
ついこの前まで自分がそっち側だと思ってたのに不思議な気分。(いやもうだいぶ前!)
母です。ポンコツ感のある母です。

もうすぐ受験。電池交換しないと、試験の最中に止まったらまずい。

しかも差し迫ってきたここに来て、交換に2週間かかりますとか言われたら大変!
言われがち。

新しい時計はいらないと言うから、せめて困らないように電池交換をして…。

とちょっと焦り気味で電池交換の店を探す。そんな高い時計でもないし、お古の時計だから、買った店なんてわからない。

大きい時計店とかなら電池交換だけでもしてくれるかな?逆に気軽なホームセンターの方が安い?
とか考えながら、Googleマップさんで探す。

何故かそこだけクチコミの多い時計店

時計電池交換で検索すると、何件もの時計店が出てくる。もちろん大手の所もある。

でも何故か、妙にクチコミの多い時計店があった。
古い通りにある、どう見ても普通の、ちょっとさびれた感じの店の写真。昭和だ。

きっとこれがエモいというやつか。
いやもう私がエモいんじゃない?昭和だし。

割と近かったのと、他にもいくつも用事があるので早く預けていきたくて、深く考えずにそこにする。

ふと、よぎる。
最近店を閉めた、知っている店。そういう店が古い商店街には沢山ある。
大抵は、ずっと夫婦でやっていたとか、何代続いたけどもう継ぐ人がいないとか…。

普段、大手スーパーみたいな所に行く事が多いくせに、そんな店を見たり聞いたりすると何ともいえない気持ちになる。

閉まってたり、しないかな…。

すごく早い電池交換

閉まってなかった!
一周まわって、とってもいい雰囲気の、懐かしい感じの入り口をガラガラと開ける。

店内は、狭くて、時計や腕時計の他にどこかのお土産や写真なんかが飾ってある。

店内には誰もいない様に見えて、こどもの頃の様に
「ごめんくださーい!」
と声をあげると、

「はい、いらっしゃいませ。」
と、思ったより近くの、書類と時計の積まれた作業机から年配の方が顔を出す。
優しそうなおじいちゃんだ。
何故かここでもう涙がでそう。なんでだ。

作業机で、目覚まし時計を修理している最中だったらしい。そういえば、クチコミにも時計修理が丁寧とかって書いてあった。
匠だ。

「あの、電池交換お願いします。受験なんだけど、止まってしまったら困るので、あ、まだ動いているけど交換したいと思いまして」

なぜか言わなくていい事までもたもたと説明すると、匠の時計屋さんは、
「電池交換ね」
と、修理の手を止めてニッコリと腕時計を受けとる。

すぐに時計を開けて、電池の残量を見てくれる。
「まあまだ1ヶ月はもつけど、変えた方がいいねぇ」

1ヶ月!!いや危なかった。試験の最中に止まっちゃうやつじゃんか。ドキドキ。変えてください。

いつ取りに来ればいいかな、2週間とか言われないといいな、と思い、次の言葉を待っていると、もう匠は黙って作業をしている。

帰るべきか帰らざるべきか。

いつまでもボーっと立っているのも何なので、受け取りの日を聞いて帰ろうと思い、

「あの、どのくらいかかります?」

と聞くと、

「ああ、500円ですよ」

と返ってきた。
そう来たか!安い!
じゃなくて…。

うーむ、どうしようかと思っているうち、匠の時計屋さんが言った。

「はい、できましたよ」

早いいいーーーー!
電池交換、終了。

感動してしまった

2週間どころか!匠がその場で交換してくれた!

私の中では匠の株が爆上がり、この匠は異世界でもチート能力でやっていけるとかバカな妄想を脳内で繰り広げていると、

「はい、500円です。」

いいの?助かるけど。
匠の技をそんな良心的な値段で。
もっと価値があるよ!!
日本の社会はこういう人材を大切にしにゃいかん!
とか私の熱い思いを言葉にはできず、素直に500円を払う。

と思ったら一万円札しかなかった…。

なんて迷惑な客!?とモジモジしつつ、細かいのがなくてすみませんと伝えると、逆に嬉しそうに、

「いや、万札は縁起物だからいいんだよ」
と受け取ってくれた。匠!嬉しそうなの可愛い!

そして、縁起物だからね〜。と嬉しそうに何度も言いながら、ピカピカの500円玉のお釣りをくれて、なぜかちょっと間があり、残りのお札のお釣りをくれた。

縁起物だからね?と何度も念を押したように言いながら。

その後、祈願しといたからね、と渡してくれたレシートには、赤い字で合格祈願と書いてあり、匠の時計屋さんが、おじいちゃんが直接書いてくれた字が、アナログで心がこもっていて、気が利いていて、泣きたくなるような気持ちになった。

何故だろう。なんでこんなに。

なんかちょっと感動したんだ。きっと。

ありがとうございましたと何度も言って、もう一度振り返ると、もうさっきの時計の修理に戻ろうとしている空気があった。

匠の時計屋さんにとっては、日常。親切な人柄も、日常。
でもそれって、あたりまえであってあたりまえじゃない。
色々な人がいる。
それがあたりまえの人に、私もなりたい。
そして子ども達も、そういう人達に出会っていってほしい。

今日は、匠の時計屋さんに会って、幸せだった。
ずっと、あそこにあって欲しい。ひとつづつ、閉まっていく店を思うと切ないけれど。
綺麗な空気が流れていた。

クチコミ多い謎が解けた。

それだけじゃなかった

合格祈願のレシートと、腕時計を家の受験生に渡すと、早い!と喜び、ありがたいね、とニッコリした。
反抗期男子にしては良い反応だ。

そして、改めて私はお釣りを見た。
ピカピカの500円玉。そして気付いた。
令和3年!最新の500円玉。そりゃピカピカだ!

匠の時計屋さんの、縁起物だからねと念を押す顔がよぎった。

そういう事かーー!

ごめんなさい。すぐ気が付かないポンコツで。
そして、すごく嬉しい。
ありがとう。

神棚にお供えしました。

そして、伝えられない嬉しい気持ちをここに。

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