高石真梨子のお耳のトリセツ vol.3 どうやって音楽を楽しんでいるの?|2024.清明・虹始見
■ 虹始見(にじはじめてあらわる)
冬の終わりのグズグズしたお天気はいったいどこに行ったのかしら……と思わず空に尋ねたくなるくらい暖かい、というよりもちょっぴり汗ばむ日が続く今日この頃。
せっかく買った春物のコートが思いのほか活躍しなさそうで、実は少しいじけている4月の真梨子です。どうしても着たいからと夜のお出かけに着ていったら、パシャリと切り取ってもらえました。
今か今かと開花を心待ちにしていた桜も、気付いたら散ってしまい、木々が少しずつ濃い緑に移りゆく日々。桜を撮り始めたら「そういえば、わたしはお花が好きだったのかもしれない」と気付いていそいそとカメラを持ってはお花を撮っています。
・倉敷の四季のお花情報、募集中です
ツツジにアジサイ……それからそうそう。倉敷の市花であるフジがそろそろ見頃を迎えるのだとか。倉敷のお花情報、ありましたらコメントやDMにて教えてください。
倉敷で過ごす初めての春。どんなお花に出会えるんだろう、と毎日ソワソワとネットサーフィンをしています。
■ 高石真梨子のお耳のトリセツ vol.3 どうやって音楽を楽しんでいるの?
「聴覚障がいがあります」というと、「じゃあやっぱり、音楽とかは楽しめないの?」と尋ねられることが、往々にしてある。
倉敷とことこでわたしが取材させていただくイベントは「音楽と食」をテーマにしたものが多いのだけれども。
わりとあちこちで「でも実際、音楽のことどう思っているの?」と尋ねられることがあるので、今日はそのお話を。
・わたしは、音楽が好きです
結論から言ってしまうと、わたしは音楽が好き。
お耳の仲間の中には「音楽は分からないから好きになれない」「音楽は聞こえないから興味がない」と言う人もいるけれど、わたしは好きなほうだと思う。
音の世界の人も聞こえるからみんな音楽が好きなわけじゃないでしょう?「聴くのは好きだけど歌うのは好きじゃない」とか「普段はあまり音楽を聴かない」みたいな人もいると思うので。
だけど、聴覚障がい者だから音楽の話はタブーみたいなのはちょっと違うなって思っている。
・わたしのiPhoneには、Spotifyが入っています
わたしの補聴器は、iPhoneとBluetooth接続ができる。だから、iPhoneで流した音楽やYouTubeの音は補聴器で直接聞き取っている。音の世界の人たちがイヤホンで音楽を聴くような感覚で、わたしは補聴器とiPhoneのBluetooth接続をしているんじゃないかな。
それで、電車に乗っているときとかリラックスしたいときに音楽を流す。
・ただし、聴き取れるのは聴く練習をしたことのある曲だけです
とはいえども、補聴器から入ってくる音は決して明瞭ではないのでだいぶ歪みがある。
だから、聴き取れる曲は聞いたことのある曲だけ。そんなこともあって、わたしのプレイリストは何年たってもあまり更新されない。
新しい曲は、音の世界の住人に教えてもらったり次に行く予定のライブのアルバムからインプットすることが多い。インプットするときは、静かな場所でiPhoneと補聴器をBluetooth接続して、歌詞カードを目で追いながら何度も何度も聴く。
歌詞をソラで歌えるようになると、やっと聴こえるようになる。
・学生時代は吹奏楽部でクラリネットを吹いていました
こういう「聴く」術を身に着けたのは、学生時代に所属していた吹奏楽部での経験。わたしは、中学と大学でクラリネットを吹いていた。
特に大学生で吹奏楽部に入るような子たちはみんな音楽がとても好きで、わたしのいた大学が教育大学だったこともあって、周りの仲間が誰かに「教える」ことに慣れていた。
おかげで、同じパートの仲間が私の聴き取れない音域を個人練習で聴いてくれたり、スコア譜(全パートの動きが載っている楽譜)を見ながら同じ動きをしているパートの練習にお邪魔して音を聴かせてもらったり。それから、合奏のときにはみんなが隣で要約筆記をしてくれた。
そんなこともあって、音の重なりを理屈で教えてもらって、何度も何度も聴く練習をして、ある程度みんなと合わせることの楽しさを味わせてもらった経験を重ねてきた。
「聴覚障がいがあるからできないよね」ではなく、「どうやったら真梨子ちゃんが聴きとれるだろう」と仲間が一緒に模索してくれたからこそそれに応えたいと思ったし、分かる実感を少しずつ積み重ねてもらったからこそ「聴く練習をすれば、分かるハーモニーもある」と思えるようになったことはすごく大きな経験だったと思う。
・カラオケにも行きます
そんな吹奏楽部時代、音楽が好きな人たちの集まりなので、飲み会の締めは毎度カラオケだった。
カラオケは音の響き方が特殊でなかなか自分の声が聴きとれないので、音程が分からない。だから、音程もリズムも正確に取れないからちょっと苦手。
でも歌うことは好きだから、音のない世界の仲間同士で行くのが一番気楽だなぁと思っている。だって、みんな聞こえないから誰が音痴か分からないんだもん(笑)
音の世界の人たちにとって、不協和音や音痴が耳障りなことは知識としてよく知っているので、キコエル人たちと一緒に行くのはとっても緊張するのだけれども。でも、歌うこと自体はとっても好き。
・ライブにも行きます
実はオトナになるまでずっと「ライブとか行っても聴きとれないし、お金の無駄」だと思っていた。だから、好きなアーティストさんがいても自分のペースで音楽が楽しめればそれでいいし、ライブとかコンサートは自分にとって無縁のものだと思っていた。
でも20代前半の頃に、同じアーティストが好きな友人から「このライブのチケット2枚当たったんだけど一緒に行かない?」と誘いを受けて。
最初は「聴覚障がいのあるわたしをライブに誘うって正気?」とさえ思ったけれども、当日は友人が隣に座ってくれてMCの内容はほぼ全部手話通訳してくれて、曲が流れるとその曲の歌詞カードを検索してわたしに手渡してくれた。
すると、MCではその曲に込めたアーティストさんの思いとか、なんでこのタイミングでこの曲を歌ったのかとかという思いを知ることができて。普段何度も耳にしているはずの曲も、生の音で聴くと心がざわっと震えて、涙がツーっと頬を伝ったりして。
吹奏楽をやっていたときも、みんなの音が一つにまとまる感動みたいなものを味わってきたけれども。それと近しい、生の音楽だからこそ心が動かされる体験は、ライブならではの感覚なんだろうな、と知った。
・藤原さくらとハンバートハンバートのライブは、毎年行っています
それからは、何度も「聴く」練習を重ねたアーティストさんのライブに年1~2回行くことを楽しみに生活している。お気に入りは、シンガーソングライターの藤原さくらちゃんとフォークデュオのハンバートハンバート。どちらもだいたい年に1回ずつライブに行っている。
ハンバートハンバートは、お耳の仲間も「聴きとりやすい!」という人が多い印象。それこそ、二人の声が重なり合った瞬間は毎度涙がこぼれてくるから、本当に不思議。ライブに行くきっかけを作ってくれた友人にも本当に感謝だなぁ。
ちなみにハコが大きすぎるライブはやっぱりきこえに不安があるのでまだ行けていない。アリーナツアーとか、憧れるけどね。どうなのかな。聴覚障がいがあっても楽しめるのかな。
■ お耳の仲間と下津井酒場に行ってきました
3月の末は、わたしの活動している倉敷市の海側の町「下津井」で地域おこし協力隊をしている中臣さくらさんが主催する「下津井酒場」というイベントへ足を運んだ。
このイベントのコンセプトは「お酒と音楽、そして会話でつながる酒場」
・実は、お耳の仲間同士でも「音楽」についてはなかなか話題にしにくかったり
最初はお耳の仲間と一緒に行こうと思っていたのだけれども「音楽かぁ……」と思うとどうもやっぱり誘いにくくて。そう。聴覚障がい者同士でもお互いに「音楽が好き」という了解が取れていないとなかなか誘いにくいんですよね。音楽イベント。
だから、聴者がわたしと話すときに音楽について触れるのを避けようとしてくれるのを感じるたびに「そんなことなのよ~!」という気持ちと「でも、気を遣わせてしまっているよね……」という申し訳なさでいっぱいなのだけれども。(でもわたしは音楽イベントに誘ってもらいたいから、ここまでつらつらと音楽が好きなことを語ったのです)
・お耳の仲間と一緒に行けて、本当に本当によかったな
で、今回もやっぱり誘うのやめとこうかなぁ……と思っていたのだけれども、さくらちゃんが「せっかくならお耳の仲間と一緒においでよ。騒がしいところだし、まりちゃんもお喋りしやすい仲間がいたほうが気が楽だろうし」と背中を押してくれたので、えいやっと誘ってみたわけ。
そしたら「下津井のご飯食べてみたい!」と二つ返事できてくれることになって、一緒の酒場を楽しんだ。カラオケ大会中は、わたしがいつも周りの人たちにしてもらっているように、聞こえてきた曲の歌詞カードをスマホで検索しながら一緒に画面を見たりして。
まぁ、半分くらいはわたしもどんな曲か分からなかったから、その時間は食べて飲むことに徹したのだけれども、どのお料理もお酒も美味しかったのでそれはそれで良し。
なんなら、あの日を思い出すたびに「みんなわたしたちが聞こえにくいと分かると、口の形を見せてくれたり分かりやすく話しかけてくれたりして、わたしたちもここにいていいんだ!と嬉しくなったよねぇ」と嬉しそうに語ってくれるので、一緒に行って本当によかったなぁと思っている。
あの日、えいやっとわたしの背中を押してくれたさくらちゃん、そしてあたたかく迎え入れてくれた下津井の方々に感謝でいっぱい。
こうやって、周りの人たちと一緒に「音のある生活の楽しさ」を積み重ねる経験を重ねていけたらわたしの、わたしたちの世界はもっと広がっていくんだろうな。なんていう、虹始見の備忘録。