スケールを超え続ける音と、揺るぎない人の核 ー UVERworld 28th Sg『I LOVE THE WORLD』に寄せて

※(株)ロッキング・オン「ロッキング・オン・ジャパン」掲載 2015.11.30.
※「音楽文」掲載 2017.3.23.



 10年という時間には、様々な事物を大きな変化へと導く力がある。何も手を出さずとも自然に変化していくものもあるが、意図した行動に努めることで理想や展望に近づいていくことも可能だ。

 UVERworldは一昨年7月にデビュー10周年を迎えた。デビュー当時から現在に至るまで彼らは“UVERworld”という世界の更新に専念し続け、その新たな更新を10年目の第一歩として28th Sg『I LOVE THE WORLD』で証明した。電子音で彩られたダンスミュージック「I LOVE THE WORLD」、音にも言葉にも豊かな表情を含んだ「PRAYING RUN」。この、今現在の彼らが詰め込まれた2つの新曲と共にパッケージされたのは、Memorial Trackと称される「CHANCE!04」だ。10年前、2nd Sgとしてリリースした「CHANCE!」の元の姿が、レコーディングから12年の時を経て、今この時空で解かれる。

 このリリースから12年前、デビュー前の彼らは訪れたレコーディングスタジオで門前払いを食らったそうだ。“60万用意できたらレコーディングをさせてもらえる”という約束のもと、6人は半年でそれを果たしこの「CHANCE!04」を音源化した。聞いてしまえば一瞬の物語だが、その時間と労力を注ぎ込んだ彼らの熱意を考えると容易でない。


どうしたって 叶わない絵空事だろうが
胸を燃やす火は誰にも消せやしない
空から降る黒い雨が この身濡らし降り止まなくとも
まだ消させはしないこの胸の火 それが「プライド」
「CORE PRIDE」


 自分たちが描いた理想を具現化するために人生を注ぎ込むその信念の堅さこそが、現在のUVERworldを形成する核なのだと感じる。

 相違点探しや優劣をつけるつもりなど一切ないが、「CHANCE!」へ変わる時に欠落した間奏で現れるサックスに気付く。その艶を含んだフレーズは、この曲に詰め込まれた様々な要素の一つとして絶対的な存在感を放っている。デビュー時このフレーズと共に、公式メンバーから欠落した誠果に改めて思いを巡らせた。


そしてあれを言ったのは誰だ?
『一人減らしてデビューさせろ』
言葉に出来ない悔しみも
音楽で表現してみよ ほら
「誰が言った」


 他のメンバーと一緒に夢を見このサックスを吹いている誠果はまだ、一度公にUVERworldが5人とされることを知らない。2014年公式メンバーへ復帰を果たしてからは、ライブ中サックスを手に意気揚々とお立ち台に上がる。彼の悔しさや努力は計り知れないが、本来のこの姿に戻ることができたことを心の底から称えたい。

 「CHANCE!04」は改良され「CHANCE!」へ変化したのだろうか。もちろん、歌詞や曲の流れなど整備されたように思うが、必ずしもそれが正解ではないのではないだろうかと思えた。生々しい躍動や拡がりを感じ取れる「CHANCE!04」には、終わりのない無限さえ感じる。デビュー前でありながら、現在の新曲と肩を並べられるほどの多彩な音色を弾かせるこの音源は、当時の彼らもこの音のように輝き自由に飛び跳ねながら、音楽という夢を現実へ描いていたのだと想像できる。壮大な夢が詰まった音源だ。

“死なへん曲をつくりたい”
 デビュー当時、TAKUYA∞はそう言っていた。いつまでも色褪せない曲を作りたいと。人物や時代は次々と変化を遂げていくものだが、「CHANCE!04」は紛れもなく当時の彼らの温度をしっかり纏ったまま、これからも鮮やかに生きて行く曲だと確信した。


Makin’ sound with beats.
Shakin’ Dancin’ UVERworld.
「CHANCE!」


 歌詞カードを手にした際は、この曲のスペースに綴られたTAKUYA∞のメッセージを是非自分の目で読んで欲しい。

ピースをしているTAKUYA∞を見たことがあるだろうか。私の記憶にその姿は、デビュー前のUVERworldが6人揃ってどこか駐車場のような場所で撮影された、そのたった1枚しかない。いつも写真の中の彼は、手を広げたり何かを持っていたり…ピースなど、全くと言っていいほどしていない。

“本当にピースな時にしかしない”
 先日彼は自身のブログで1枚の写真と共にこう綴った。その写真には〈JAPAN〉編集長・山崎洋一郎さんに肩を組まれ、ピースサインを作る彼の姿があった。


Start! Just keep! Lastは楽勝でピース
「CHANCE!」


 デビュー当時にはROCK IN JAPAN FES.への出演を断られ、つい数年前まで〈JAPAN〉にその姿を現すこともなかった。携えた反骨精神で彼らは、世間からの様々な勘違いや偏見と戦い続け、UVERworldという確固たる信念を貫いてきた。しかし、その途中出会う自分たちを愛してくれる人に対しては、心の底からの敬愛の念を露わにしている。その一つとして、この山崎さんから理解を得てからは、本当にそうだ。

 歌詞カード裏、“No UVERworld today without him”に続き記されたのは神田仁史(よしふみ)さんの名。3年前上映されたドキュメンタリー映画『THE SONG』にも登場した彼は、UVERworldの故郷・滋賀県に所在するライブハウス・B-FLATの店長だ。映画の中でも語られているが、神田さんはインディーズ時代の彼らにとってとても重要な存在だったという。今回、当時の音源をパッケージするに当たり、こうして改めて神田さんへの感謝を示している。

 UVERworldはとても愛に満ちた人物だと感じる。作品からもそれは窺えるが、熱意や愛情など人の内側の部分を本当に大切にしている。彼ら6人を奇跡的なメンバーの集まりだとも思うが、こういった概念を共存し合えている仲だからこその絆なのだろう。


なにお前 愛出し渋ってんだよ
無い愛を作って叫んでみろよ
「I LOVE THE WORLD」


 野性味を帯びたバンドサウンドから逸脱する近代的な音色、エフェクトを通して連ねられたFemale voiceとTAKUYA∞の声が新境地を啓示する「I LOVE THE WORLD」。そのダンスフロアを連想させるサウンドには、例えるなら初めて飲酒した時の緊張感のような、大人の色気や危険さが混在しているように感じる。

 曲中何度も反芻される≪I LOVE THE WORLD≫。素敵さを持ったとても容易い言葉だが、それゆえに安易に用いれば薄っぺらな存在価値のない言葉になり得る。彼らはいつも世界を歌う時、世に蔓延する負の存在をしっかりと認識し、真正面から対峙する。そして、負を知ってこそ見つけることができる愛を、欠かさずに教えてくれるのだ。そんな彼らが発するからこそ、この言葉は濃厚な意味を持つ。

 大胆に叩き込まれる重厚なソリッド感が、明快なリズムを極める。そして、時々大きく緩みを見せ訪れようとする静寂を、コブシの効いたTAKUYA∞の≪Rock!≫が切り裂いていく。この音が触れる空気全てを余すことなく整列させ、それでいて自由を得たグルーヴ感を持ったこのロックミュージックは、間違いなくライブ空間も制することになるだろう。

 曲の後半で炸裂する信人のベーススラップが、曲へ更なる重みと弾みを与えている。この信人のスラップ音は唯一無二のものだと思う。音色的なものもそうなのだが、その個性を確立した音のスイング感や硬さなどから明らかに信人の音だと感じるのだ。今回このディスクで、初めて彼はプログラミングのクレジットを掲げた。普段は主にTAKUYA∞と彰、時々は克哉も共に担当していた。近年では「23ワード」や「DEJAVU」などの作曲も手掛ける信人が、UVERworldに今後及ぼす影響を楽しみに思う。


その幸せは誰かに勝つためじゃなくていい
僕らの笑う理由は 誰を見返すためじゃなくていい
「I LOVE THE WORLD」


 彼らは、“負けたくない、勝ち負けがあるのなら勝ちたい”という精神を持っている。しかし、その勝敗に相手がいるのならそれは己自身なのだと言っているように思う。一本道を何人ものレーサーで競争し隣のライバルを睨みながら走るのではなく、自分の好きな場所に好きな形に笑いながら積み上げて行くのがUVERworldのスタイルなのだろう。自分と向き合う行為は、隠し事や言い訳が一切無効になり完璧な正直者にならなければならない。彼らが強さを増し続ける秘訣は、これなのかもしれない。
走る音が聴こえる。そのテンポで地面を蹴る音と、それに合わせた上がった息の音。その呼吸は、リズム・メロディー・ハーモニーを帯びて音楽へと変身を遂げる。「PRAYING RUN」、日々ランニングを行う彼らの生活・人生がそのまま音楽に昇華したように感じる始まりだ。


意味があるのか無いのか 結果が出るか出ないか
もっかいやっても無駄か 全部やって確かめりゃいいだろう
「PRAYING RUN」


 これを前にして、やらないという選択肢にどんな言い訳も通用しない。全てが≪全部やって確かめりゃいいだろう≫で悉く一刀両断されてしまう。しかしこれは、突き放しではなく鼓舞に聞こえる。このラップを使いサウンド的にも言葉的にも強気なAメロは、一人称が“俺”で歌い抜かれる。しかしそれはBメロで“僕”に変化し表情の推移を見せた後、僅かな切なさを纏うサビへと誘う。そこで明かされる、彼の心の内の告白は驚くほどリアルで柔く、大切に受け止めたいと思わせられた。≪水になって目からこぼれてゆく≫という一節には強さと弱さが共存している。二つは表裏一体であることを表現するこの言葉は、胸が締め付けられるほど純度が高い。


いつか誰もが驚くような奇跡が
この身に起きたとしても
きっと僕だけは驚きはしないだろう
起こるべき奇跡が起きただけさ

祈りよ届け
「PRAYING RUN」


 夢や絵空事という類のものは、輝く憧れの的のような存在でもある一方で、現実を打ち付けてくる残酷さを兼ね揃えている。故に、予め努力をしても報われないことを恐れ、何もせず神頼みという賭けは誰にでもできること。しかし、いつでも奇跡を受け入れられるほどの努力を費やした者には、祈るという権限が与えられるのではないだろうか。その眩しさからは、共に祈りを支えたい気持ちと、喝を入れられた気持ちで、心に温度が灯される。

“今までUVERworldが嫌いだった人でも、好きだと言ってくれる日が来たらその時は両手で握手できる準備ができている”
 彼らは言う。それぞれがいつ彼らに魅了されるかはそれぞれのタイミングがあると思うが、もしそれが今だとしたら真っ先にこの1枚を聴くことを勧める。他に類を見ない確立された世界に、新しい自分自身を見つけ出せるだろう。
歌詞カード裏に表記された“Additive-free!”がそれを保証する。



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