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1か月間、先生のいない学校の入試を受けてみた。piscine合格体験記

1か月寝不足が続くとか、仕事辞めなきゃいけなかったとか、ついていけなくなって脱落する人が続出するとか、調べるとやたらタフな試験だという記事ばかりが出てくる。piscineのことである。

piscineとはフランス語でプールのことで、42Tokyoなるパリ発のソフトウェアエンジニア養成機関の入学試験がそう呼ばれている。溺れないように必死で泳がなければならないプール。水遊びは大好きだから、飛び込んでみることにした。

piscineは完全オンラインで1か月行われた。あんなにオンラインは嫌いだみたいな記事を書いたのに、結構楽しかった。たぶん楽しめたから合格したのだ。楽しいと思わずにはいられない仕組みがきちんと作られている、そんなお話。

42Tokyoってなんだ?

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(六本木の校舎。行ったことはない。https://42tokyo.jp/から拝借。)

42Tokyoは学歴不問・学費完全無料のスクールである。本家パリのエコール42は2013年に非営利型プログラミングスクールとして開校し、現在は世界12か国で展開されている。海外での評判は上々らしく、Googleなど名だたるIT系企業に就職する卒業生も多いらしい。

入学後はC言語を中心にして自分の興味の赴くままに好きな分野を学べる。公式サイトにはUNIX、セキュリティー、オブジェクト指向開発、WEB、グラフィックなどが紹介されていた。

最大の特長は「先生がいない」こと。課題を解いたら他の生徒にレビューしてもらうのである。生徒同士で教え合うピアラーニングによって、教科書がなくても自力でググって人に聞いてなんとかする力を身に付けられるという触れ込みだ。

なんで急にプログラミング?

そもそもなんで急にプログラミング?っていうと、技術こそ力だという気持ちが強くなってきたからである。インターンでサイトを作って微妙なものしかできなかったのが発端だ。メディアアートも作ってみたい。

技術がないと、そもそも発想すらできないから、とりあえず学んでおこうというのは大事だ。日々のちょっとした作業を知識で楽にすることはもともと好きだから、そういうところで役に立ったらいいなという気持ちもあった。

そういえば学園祭やっていた時も、システムを触れることは力だった。システムさわれる委員は重宝され、わたしも手作業でやっていたことを楽にしてもらえた。もう辞めちゃったけど、クエリ書けるように努力しなかったのは心残りかもしれない。

作りたいのに作れないものがあるのが悔しくて、手持ちのカードを増やしたくなった。

42Tokyoをわざわざ選んだ5つの理由

というわけで、プログラミングになんとなくの関心を寄せていた。しかし今やprogateやドットインストールで学べちゃう時代である。時間を割いて42Tokyoにチャレンジしようと思ったのには相応の理由がある。

①先生がいない学校を見てみたかったから
最近の子は受け身で情報が入ってくるのに慣れていて、ググることすらできないみたいな話を聞く。学校では講義、帰ればタイムラインとにらめっこなら、まあ不思議ではない気もする。ならば先生に全部教わるのではなくて、なんにも教えてもらえないほうが生徒のため、かもしれない。
しかしながら、「先生に言われたからやる」「先生に怒られるからきちんとしなくちゃ」が、多かれ少なかれ学校の力学を成り立たせている。先生の存在を欠いた学校をどういうシステムで学校たらしめるのか、体験してみたかった。

②他人と学ぶことが、習得の近道だと思ったから
高校生まで学校の勉強は得意だったしもちろん好きだったが、先生の鼻を明かしたいとか、順位を落としたくないとか、そういうモチベが多分にあった。グループワークで伸びるのも高校の数学の授業で体験済みだ。デザインも、委員会でわいわいやって伸びた。やっぱりわたしは他人に助けられて学んでいる。

③新しいことを学ぶ時、最初は一気に学ぶのが性にあっているから
piscineに1か月拘束されて夢中になって取り組むのが魅力的だった。思えばイラレの使い方も友人がみっちり講習してくれたし、缶詰になって制作物を作る時期に一気に能力が伸びた。逆にちまちまやってても面白くなるまで時間が必要でなかなか続かない。Hello World!を表示させるのに毛が生えた程度で飽きてしまうものだ。

④面白い人が多そうだから
1か月も予定空けて、出来立てホヤホヤの先生がいないプログラミングスクールに通おうなんて人間が面白くないわけがない。休学生活、面白くなくっちゃね。

⑤今を逃したら一生やらなそうだから
休学するといっても春からの予定は決まっているので、1か月空けられるのは今しかないと判断した。

参加するまで

①事前にオンラインテストを受験
②合格すれば参加日程を選択→1か月piscineを泳ぐ(C言語メイン)
③これもまた合格すれば本科生として入学できる。

わたしは2021年2月のpiscineに応募した。緊急事態宣言下で完全オンライン実施で通学の負担がなかったのでだいぶ楽だったと思う。

経歴不問なので、C言語初心者でもOK。半分くらいはプログラミング未経験、わりと他の言語の経験者は多いという印象。
(ちなみに東大生はめちゃくちゃ多かった。)

わたしはCはおろか、JavaScriptの初歩の初歩をやったことがあるくらいでほぼ未経験。それでも食らい付いていくことは十分に可能だ。

本科生としてどれくらい本気でコミットするか、ふわふわしたまんまとりあえず受けてみた。それでも大丈夫。piscineは受験生が42をジャッジする機会でもあると思う。泳ぎながらゆっくり見極めればいい。

どちらかというと、1か月きちんと時間をさけるかを気にしたほうがよい。
色々で1か月フルコミットとはいかなかったので、もどかしかった。一方で、ある意味用事がガス抜きになっていたかも。

結論からいえば、いい仕組みだった

守秘義務があるので詳しくは書けないのだが、飛び込んでみてよかった

ちなみに、前述の目論見でアテが外れたものはない。満足度が高い。
高満足度を獲得した理由はこんな感じである。

・没頭せずにはいられないゲーム的仕掛け
他人の課題をレビューしたら手持ちのポイントが増えたり、課題クリアしたら経験値が増えたり、自分の相対的な位置がわかったりする。目新しい仕掛けではないが、やっぱりスコアを上げるのは楽しいものだ。レビューの貢献が反映されるのがミソである。これが積極的にコミュニケーションを取ろう!というマインドセットを作り出している。これがゲーミフィケーションかあという感じだ。ハリーポッターが好きだった人には垂涎の仕組みもあってアツい(ぼかして書いているがわかってほしい)。

・レビューの妙
課題を複数人に見てもらわないと機械採点にかけてもらえない
仕組みになっている。しかも、見てもらうためには、その分自分も他の生徒の課題をレビューしなければならない。一回で合格に達さなければ何度もリトライする羽目になるから、そりゃあもうたくさんのレビューをする必要がある。
マッチングは自動的に行われるので、交流を広げる役割もあった。レビュワーとレビュイーにレベル差があっても否応なしにマッチするのがポイントかもしれない。できる人はわかりやすく説明しないといけないし、できない人はそこで最大限学ぼうとしなければならない。

・他人と学ぶことが時短になる、はマジ
レビューの他でも多くの人が自主的に、Discordのボイスチャンネルを利用して人と作業していた。「なんでか知らんけど動かない」みたいな時に人に聞けるのは本当にありがたかった。ひとりで格闘すると1日つぶれることもしばしばだったから、聞ける人がいるだけでぐっと楽になる。こういうところで初学者は嫌になると思うし、ありがたい話である。

・評価基準がわからないから人と協力する
ほんとに何見てるのかわからんし、課題の意図もわかりにくかったりして謎が多いので、自然と人と議論したり協力したりする。連帯感も生まれてくる。ちなみにチーム課題もある。
最初に述べたように、経験値やらトロフィーやら様々な数値によってある程度相対的な位置はわかる。それでも唯一絶対の指標がなくて、複数の数値が示されているのは、評価基準をわからなくするためかもしれない。
(普通の学校の平常点も配分不明にしたら面白いのでは、などと思った)

・恥を捨てることができる
みんなわからないのでなりふり構ってはいられない。自然と人に聞くことができる。初心者が多いことはみんな承知しているし、経験者などの強い人は聞いたら教えてくれる。
自分でやれよとか、こんなのもできないのかみたいな嫌な雰囲気を感じたことがほとんどない。心理的安全性の高いコミュニティだ。

・何よりシェルスクリプトとC言語の上達
正直レベルよく分かってないけど、終わってみて数独解くプログラムを書こうと思ったら、書けた。ここまで来れば他の言語の習得楽だよ、と有識者に言われたので、とりあえずの目的であるレベルまでは到達したことになる。

オンライン嫌いなわたしが、オンライン教育に初めて希望をもてた

大学のオンライン授業でオンラインには辟易していたし、塾講師としてオンライン指導をやってみても対面には敵わないな、と思っていた。そんなオンライン懐疑派のわたしでも、piscineは楽しかった。

思うに、オンラインのネックは自発性の着火にある。リアルで顔をあわせていればはずむような何かが、ちょっと嘘くさくなったり、めんどくさくなったりする。前のめりになりにくい、これはわたしの怠惰だろうか?積極的になる気にならないのが怠惰だったとしても、難があるには違いない。

完全オンラインだったので、Discord上ですべてが行われた。ボイスチャットが仮想キャンパスという状況である。1か月もオンラインで熱中できるのかなあと半信半疑だったが、杞憂であった。

レビューを中心とした制度設計がうまく機能していて、いやでも自発的にならなければならない。それから、Discordは案外ストレスの少ないプラットフォームだった。

コーディングがオンラインで学ぶのに向いているというのは多分にあるだろうが、少なくともオンライン教育の成功例とみていい気がする。

合格の要因を考えてみる

合格体験記と銘打っておきながら受験生向けTipsが少なすぎるので書いておこう。

・課題の進度は常に中の上を意識
先頭集団に混ざろうとはハナから思っていなかったが、試験である以上相対的に課題を多く解いている必要があると思った。先行する人の知恵を享受できる意味でも、初心者は追随する他ない。最初様子見て後で追い上げればいいという説もあるが、コミット具合を見ているとしたらそれは得策ではないし、同じ進度のひとが減って質問しにくくなる。

・手強い問題に立ち向かうための仲間をつくれた
たまたまできる人とお友達になったので、歯が立たない問題を相談できた/一緒にやれたのが大きい。死ぬほどわからない問題でも提出する意欲があるかどうか問われているかもしれないから、提出するモノを存在させるために、少しでも課題を前進させられるような仲間をつくるべき。同じレベル感だとにっちもさっちもいかない。誰もが格上と仲間になりたいと思うので、いかに信頼関係を築くかが考えどころである。

・仲間は広く浅くより、狭く深く
もちろん広く深くに越したことはないが、受験生は200人超なのでどだい無理である。ならば、狭く深くがよいと私は思う。困ったらいつでも聞ける人、雑談ができる人がいるのが大事だ。自主的にチームを組む課題の時に、この人ならわたしとチーム組んでくれる!と思える信頼関係が必要だからだ。もちろん、広いネットワークを駆使して情報を集めるのに長けていた人もいたので知り合いは増やしておくとよい。

・毎日コンスタントにレビューを入れた
一気にやると辛いし自分の進捗に影響するので、毎日コツコツやるとよい。ちなみに、毎日コツコツやる方がいいと気づいたのは2週目以降でわりと遅い。なるたけレビューは必要最低限に抑えないで積極的にやるべきだと思った。自分のレビューをしてもらうためもそうだし、まだ仲良くなってない人と出会ったり、課題についての情報収集の最も有効な手段だったりするからである。

つらかったこと

楽しかったとはいえ1か月引きこもりはキツかった。

・実家暮らし自室なしは、やっぱりオンラインに向いてない
これは完全にわたしの問題なのだが、実家暮らしで自室なしなので、リビングでDiscordを使わざるを得なかった。家族が帰ってくる夕方以降や休日はDiscord上で活動しにくい。グループで取り組む場合は生活リズムが多種多様なので尚更。
きっとオフラインだったらもう少しオンオフはっきり分けてやりやすかっただろうなあと思う。

・予定の立て方がわからない
予定がちょこちょこ入っていたのだが、いつ何が催されるかわからないのがpiscineだ。リサーチ不足もあってか、やっちまった〜という予定の入れ方をしたので、できれば土日は避けた方がよい。まあ情報がないというのがpiscineの良いところではあるので、予定を入れないというのが最善だろう。

アドバイス。piscine前は環境整備を

環境整備を怠らなければ解決できた苦しみが多い気がする。オンライン受験する際は以下を準備しておくとよいと思う。

・家族の理解を得る
・自室をできれば用意する
・起きてすぐビデオ通話できる部屋着と色付きリップ(顔色ごまかす用)を用意しとく
・ビデオ通話できる背景のデスクを整える(Discordはバーチャル背景ないのね…)
・ディスプレイを揃える(Macbookの画面だけはつらい)
・耳が痛くならないイヤホン、ちゃんと音を拾うマイクを用意する

オンラインにはオンラインに適した環境がマスト

piscineの辛かったことを振り返ってみると、オンラインの良くないところの大部分は受講環境に帰せられることになる。
「オンラインによって、同居人がいてプライベートな空間である自宅でパブリックな自分をみせる」ことを前提としていない住まいが悪いのである。

オンライン問題と真っ向から向き合った住まいがもしできれば、わたしのようなオンライン不適合人間にも明るい未来が待っている気がする。piscineの話とはズレるが、オンライン嫌い問題について多少の光をみることができたのが個人的収穫。

というわけで、プログラミングの楽しさに触れつつ、仕組みにわくわくしたpiscineであった。4月はバタバタしているので、入学は7月にした。
期待に胸を膨らませて、7月のkickoffを待つ。



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