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初めてだらけだから面白い!IPOから一部上場までマネーフォワードのIRを振り返る

こんにちは!
マネーフォワード 経営企画本部のおしおかです。

2021年6月14日、マネーフォワードは東京証券取引所市場第一部へ市場変更しました。改めて、皆さまの日頃のご支援に心より感謝申し上げます。

わたしたちの日頃の業務では、まずユーザーの皆様に価値をお届けして、その結果事業が成長していくことが大切です。他方で、投資家の皆さんから応援いただけるように情報の開示や対話を行っていくことも重要な仕事で、これを行っているのが当社のInvestor Relations(IR)です。

今回は、IPO前の2016年に入社し、約4年間にも渡ってマネーフォワードのIRを経営企画部長、IR責任者として支えてきた石原さんに、これまでの怒涛の歴史を振り返っていただきます!

プロフィール
石原 千亜希(経営企画部 部長・人事企画部 部長)
2010年大学卒業後、公認会計士論文式試験に合格し、有限責任監査法人トーマツに入所。IPO準備企業から東証一部上場企業まで様々な国際的企業の会計監査を担当。
2016年にマネーフォワードにジョイン。IPO準備プロジェクトを経て、上場後はIR、海外資金調達等に従事。直近はIR責任者を卒業して、人事制度変更プロジェクト等を推進。

(聞き手)
忍岡 真理恵(経営企画部)
2009年経済産業省入省、同年司法試験合格。特許法、民法(契約法)等の改正に従事。ペンシルベニア大学ウォートン校にてMBA修了したのち、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社。
2018年マネーフォワードにジョイン。「マネーフォワード おかねせんせい」(ユーザーに最適なお金の行動をアドバイスするサービス)の立ち上げや事業開発、社長室長を経て経営企画部。9月よりIR責任者を石原さんより引き継ぎました!


マネーフォワード資本政策の歴史(IPO後)

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マネーフォワードを選んだきっかけ

忍岡:まず入社の経緯を教えて下さい。なぜマネーフォワードを選んだのですか?

石原:会計士試験に合格したものの、ずっと監査法人にいるつもりはなくて、いつかもっと流れが早い業界に行きたいなと思っていました。

マネーフォワードにはもともと経理の応募枠で面接に来たんですが、経理はやりたくなくて。何か他にありますかとCFOの金坂さんにきいたら、いきなり隣の部屋にいた山田さん(監査法人出身、現マネーフォワードビジネスカンパニーCSO)を連れてきて、「この人会計士だけど経理やりたくないらしいんだけど、何かあるかな?」と聞いてくれて(笑)。

既にあるポジションに人を当てはめるんじゃなくて、この人を​​活かせる仕事はなんだろう、と考えてくれる姿勢がすごくいいなと思ったのを覚えています。

B2BとB2Cの両方あるのも魅力でした。監査法人にいたこともあり、クラウドの便利さは実感をもって理解できましたし、お金の管理はもともと興味がありましね。(石原さんの驚異の予算管理習慣についてはこちら「小学生から家計管理、大学生からずっと予算達成しているけど、なんか聞きたいことある?」)

忍岡:それが2016年の秋頃ですね。入社した時点ではもうIPO準備だぞ、という感覚はありました?

石原:いえ、入るときはインサイダーの関係もあって知らなくて。でも、結果的にちょうどIPOの1年くらい前でしたね。

IPOに向けて

忍岡:IPOの準備はいつ頃から始まったんですか?

石原:書類審査が2017年の年初から始まって、上場の半年くらい前から審査が本格化していきました。私を含めて経営企画2人、CFO、管理本部長、経理部長の5人を中心に協力して進めていました。経営企画は主に東証や証券会社からくる質問集をさばく役目でしたね。

ノウハウもないですし、どの程度ポジティブ/ネガティブに、どの粒度で答えたらいいのか、本当に手探りで進めていきました。気をつけていたのは、きちんとリスクを開示しながらも、それに対してどう対応しているかが伝わることですね。リスク対応と成長のバランスです。これがうまく伝わるよう、どう表現するかについては監査法人の経験が生きました。

忍岡:どんなところが一番大変でしたか?

石原:バイオベンチャー企業以外の赤字上場は当時ほぼ事例がなかったことですね。それまでの感覚でいえば、先行投資といえば設備投資なので、そうじゃない先行投資とはなんなのか?といったことを丁寧に説明しました。

いまプロダクトに投資をすれば将来的に安定的な収益が見込めるというSaaSのビジネスモデルは当時は新しく、色々な切り口で説明を重ねていきました。その分、上場ができたときは本当に嬉しかったです!

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(写真:IPOロードショーで海外の投資家と電話会議をしている様子)

あと、IPOは旧臨報方式*1といって一部海外の投資家も入れるスキームで行ったので最初から海外の投資家が入ってくださったのも良いサプライズでしたね。入社するときは英語使う仕事はないといわれていたのに笑。

これもこのオファリングサイズでの旧臨報方式もあまり例がなくて、やるべきかどうか議論はありました。最終的にはやはりSaaSに対する理解の深い海外の方に入っていただくのがよいだろうということでチャレンジを決めました。

忍岡:赤字上場もレア、旧臨報方式もレアという大きなチャレンジだったんですね。投資家の方との接点が出てきたのはこのあたりからですか?

石原:そうですね、IPO発表翌日からロードショーを行っていきました。最初はCEOやCFOに同行している形でしたが、3ヶ月後くらいからはCFOから「もうひとりでできるよね?」といわれて笑。

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(写真:IPO時のメンバーで)

IPO後、嵐のようなIRが始まった

石原:IPO後になると、突然たくさんの投資家とコミュニケーションを持つようになりました。証券会社を介してアポの電話が毎日たくさん来るようになり、アポの調整もスピーカーも一人で回している状態で社内の予算も見ていたので、今思うとどうやって回していたのかなと思います笑。

忍岡:このときは何か意図や戦略を持ってやってたんですか?

石原:いや、これもIRというものをわかっていない中で、嵐に立ち向かう感じでしたね笑。SaaSやFintechが注目を浴びだした頃で、まだ時価総額の小さな会社でも問い合せが非常に多く、CFOと手分けして対応するので精一杯でした。

工夫したことは、開示する情報量のコントロールですね。情報の粒度は大切で、投資家からの意見や競合の状況をみながら粒度を上げていきました。他方で、過度に期待を煽りすぎないように、きちんとコミットできるものを出して、そこをしっかりミートしていくということを常に意識しています。

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(図:売上開示だけをみても開示粒度が上がっているのがわかります)

忍岡:この頃はチームは何人くらいだったんですか?

石原:私と、CFOでスピーカーは分担して、それ以外に経企のメンバーが一人ですね。資料作りなどを一手に引き受けてくれたのでなんとか回っていました。

忍岡:大変そうだ・・汗

初めての海外公募増資

忍岡:IPO後の2018年には資金調達をしていますね。

石原:そうですね、海外投資家の比率があがってきて、アクセスできる層が広がっていましたので、IPOの時の方法(旧臨報方式)ではなく、海外募集(Reg S方式*2)を選びました。

Reg S方式もまたもや当時はあまりメジャーではない手法だったのですが、このときにはチームに優秀で英語のできるメンバーが2人増えて、3人で英語のドキュメントをガシガシ作って乗り切りました。本当にチームメンバーには恵まれているなと思います。

ロードショーは2チームに分かれて、アジアと欧州をそれぞれ回りながら投資家ミーティングを重ねていきました。市場環境は振り返るとベストではなかったですが、その中でも私達のビジネスモデルを理解して入ってくれて、いまも支援してくださってる投資家もいます。そうやって長期的な関係を投資家と築けているのはすごく嬉しいことですね。

忍岡:そのあと石原さんは産休、育休にはいられるんですよね。

石原:そうです。その間、今度はABB方式*3で資金調達を行っていますが、メンバーが活躍してくれているのを応援していました。

忍岡:そのあと、復帰直後に市場変更、3度目の資金調達と続くわけですが、小さいお子さんがいる中でこれはハードじゃなかったですか?

石原:まずチームがとても強くなっていましたし、会社としても知見が溜まっていたのは大きかったです。ロードショー以外は深夜対応もなかったですし、私以外の主要メンバーも育休復帰直後でしたがうまく回すことができました。前回はともかくタスクをこなすので精一杯でしたが今回は全体観を持ちながら主体的に進められたのは自分でも成長を感じる部分でした。

忍岡:そんな中でも苦労したのはどのあたりになりますか?

今回(2021年8月)の調達は144A方式*4という手法だったのですが、これはドキュメントが多く負担としては大きかったですね。でもチームがとても強かったのでスムーズに準備ができました。ローンチしてからも投資家からの反応も良かったですね。これまで地道に1on1をさせてもらって、個別の投資家の顔も思い浮かぶし、どんな興味を持っているかまで把握できているような状態だったので、それがブックにしっかり反映された実感がありました。日々のIRと、オファリングがつながっているのを感じることができてうれしかったですね。投資家の方からは、これからもしっかりとユーザーをみてプロダクトを作り続けなさいといった非常に暖かく、身の引き締まるようなフィードバックを頂いたりしました。

忍岡:本当に長期的な成長を見守ってくださっているからこその言葉ですね。

IRにおいて大事なこと


忍岡:最近のIR活動で日々気をつけていることはありますか?

石原:育休から戻ってきてからは、受け身じゃなく戦略的にIRができるようになったと思います。
それまでともかく投資家の接点を広げていこうというフェーズから、戦略をよく理解してくれている(またはしてくれそうな)投資家に特に力を入れるといったメリハリをつけられるようになりました。

また、お話するときは期待値をコントロールすることが大事だと思っていて、ポジティブすぎる方にはリスクもきちんと伝え、逆にこの人はこのリスクを心配しているな、ということが感じ取れればそのリスクに対する対応策などをしっかり説明したりしています。保守的すぎても楽観的に過ぎてもいけないのが難しいところですね。ガイダンスをレンジで出しているのも同じことで、一本にするとどうしても保守的になってしまうので、コミュニケーションとしての深みを出すためにそういった開示の仕方をしています。

忍岡:実際にやろうとするとなかなか難しいですよね・・。最後に、マネーフォワードのIRの強みがあるとしたらどんなことだと思いますか?

石原:事業が成長するのは大前提ですが、新しいことにチャレンジするマインドとパワーだと思います。今より良くするために、常にベストなことを考えられるCFOがいて、それを理解して実行できるチームがいるからできるのかなと思っています。これからもどんどん新しいチャレンジをしていきたいですね!

忍岡:本当にチームの力ですね。ありがとうございました!!

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(写真:爽やかかつパワフルな経企メンバー)

おまけ:資金調達の方式いろいろ

*1:旧臨報方式(旧臨時報告書方式):国内募集に加えて、英文目論見書を使わずに簡易的な海外販売ができるスキーム。海外販売分については、北米投資家の直接の勧誘ができず、ヨーロッパとアジアがメインとなる。

*2:Reg S方式(レギュレーションS):直接的には米国証券法の免除規定を指している言葉で、米国の投資家は対象にしないことで一定の要件が緩和される。米国以外の海外投資家をカバーできる。

*3 ABB方式(Accelerated Book Building):株式発行の情報が公表された後、短期間(即日〜数日)で投資家のニーズを集めるブックビルディングを実施し、払込金額等の条件を決定する方法。

*4 144A方式(Rule 144A):米国証券法規則の条文を指していて、米国の適格機関投資家向けに販売できる方法。Reg Sと組み合わせることで日本を除く海外の機関投資家に広くアプローチする方法を取ることが多い。

告知!

下記イベントにて石原を始めとする経営企画部メンバーが「マネーフォワードのIR/財務戦略の舞台裏」と題して登壇し、より詳細にIRや財務戦略についてお話いたします。是非ご視聴ください!

イベントは9月13日(月)から17日(金)に渡ってオンラインで行います。(経企メンバーの登壇は9月15日(水)12:00~13:00です。)

「コーポレートの0.5歩先の未来を考える一週間 ~急成長を支えた事例、一挙公開!~」

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