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エドヴァルド・グリーグ作曲「Jesus Kristus er opfaren」分析

こんにちは。MARIE KIDS WORKS メンバー、風船お化けラルパです。

私は音楽のプロでもないし、独学でやってる人間ですが、ちょっと自分の勉強も兼ねつつ、曲の分析をやっていこうと思います。



今回の曲はエドヴァルド・グリーグ作曲「Jesus Kristus er opfaren」

アカペラの合唱曲です。著作権切れてるので、Choral wikiというサイトで無料で楽譜がダウンロードできます。http://www1.cpdl.org/wiki/index.php/Jesus_Kristus_er_opfaren_(Edvard_Grieg)

Youtubeにいろんな団体の演奏も。

https://www.youtube.com/watch?v=CGcZb7HJBzM

https://www.youtube.com/watch?v=lqpTiEBZawk


CDを買うなら

https://www.amazon.co.jp/Grieg-Choir-Music-Hybrid-SACD/dp/B000V9B7MK/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1472878597&sr=8-1&keywords=edvard+grieg+choir+music

がお薦めです。(明らかに和声進行の魅力を理解したうえでの演奏なので、本当にお薦め)


この曲は男声のソロが一人でメロディを歌い、その後同じメロディに和声をつけて合唱団が歌います。

かなり民謡チックなメロディです。ひょっとしたらメロディ自体はグリーグの作曲じゃなくて本当にノルウェー民謡かもしれません。

使われるメロディは全部で6つ。それをひとつずつやっていきます。

歌詞はおそらくノルウェー語。私には分からないので今回は無視します。


さて、分析。

まずは一つ目のメロディ(フレーズ)


打ち込み音源https://note.mu/mariekids_works/n/n1843110d9ac1

キーはGm(B♭)日本語ならト短調(変ヘ長調)

私は分析するとき、短調でも平行長調の音度に沿って分析するのでキーGmの主和音GmはⅥmと書きます。

今回の二小節のコード進行は「Ⅵm→Ⅱm(1転)→Ⅲ」

まずは小説単位で見ていきましょう。

一小節目のⅥmの配置は

バスが根音Ⅵ(音度としての数字なのでmはつけません)

テノールが第三音Ⅰ

アルトが第五音度Ⅲ

ソプラノが根音Ⅵ

バスからソプラノまでを一オクターブの間に密集させていて、配置も基本配置。安定感抜群。まあ、フレーズの始め…っていうか、曲の始めですからね。

次に二小節目の一つ目のコードⅡm1転の配置と動き

バスは倚音Ⅴから第三音Ⅳ

テノールは根音Ⅱ

アルトは第五音Ⅵ

ソプラノは第五音Ⅵ

そして二小節目二つ目のコードⅢの配置

バスは根音Ⅲ

テノールは第五音Ⅶ

アルトは根音Ⅲ

ソプラノは第三音Ⅴ♯

さて、一つ目のコードは、バスが倚音から第三音と、第一転回形になっています。その理由を考えてみましょう。

恐らく、本来はコードをⅡmではなくⅣにしようと思っていたんだと思います。コードⅣの中で倚音Ⅴを第三音Ⅵとぶつけ、根音Ⅳに解決させる…というのは常套句です。

前後の和音における共通音は保留するのが基本なので、コードをⅣにするならその配置は

バスは倚音Ⅴから根音Ⅳ

テノールは保留されて第五音Ⅰ

アルトは第三音Ⅵ(根音Ⅳに行くのも不可能ではありませんが、バスの倚音と完全二度での音程でぶつけたい)

ソプラノは第三音Ⅵ

となるでしょう。

ではなぜそうしなかったのか。

これも恐らくですが、その後のコードⅢをバス根音、テノール第五音という配置にしたかったのでしょう。(とくに合唱において、低声部が長短三度でハモるか完全五度でハモるか一オクターブでハモるかによって、和音の鳴り方は全然違うものになります)

そのためには、その前の和音をⅣにしてしまうと、テノールとバスの間に連続完全五度が生じてしまいます。

そこで、コードはⅣではなく、Ⅳの代理コードのⅡmにしてテノールを第二音度に動かし、連続完全五度を避けている……ということだと思います。

つまり、作曲者グリーグの思考の流れはこんな感じ

曲の初めは普通に、キーの主和音の密集配置だな。

次はバスに常套句の倚音を使いたい。

フレーズの最後はマイナーキーのドミナント、Ⅲだよな。これは低声部完全五度でしっかり鳴らしたい。

じゃあその前はⅣは難しいからⅡの第一転回ってことで。

結果、楽譜のようなフレーズに。



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さて、二つ目のメロディ

打ち込み音源https://note.mu/mariekids_works/n/n2268252dc267

まず画像一小節目の和音進行

Ⅵm→Ⅲ→Ⅳ→Ⅱm

ⅥmからⅢへの進行は、特に解説は必要ないでしょう。

単純にマイナーキーの主和音から属和音への進行です。各パートの進行も

次の和音の構成音のうち、一番近い音へ(ソプラノ、テノール)

共通音は保留(アルト)

バスは根音を鳴らすのが最も安定(バス)

という、普通の進行です。

次にⅢ→Ⅳの部分。これも基本的には普通の進行。ただアルトだけは倚音から解決という動きをしています。これはまとめて後で解説。

次はⅣ→Ⅱmの部分。ソプラノ、テノール、バスは今までと同じく普通の進行。ただ、アルトは少し装飾的な動きをしているので、少し掘り下げて考えてみます。

アルトは倚音のⅢ(第三音度)を鳴らした後、すぐにⅡ(第二音度)へと解決。そして和音Ⅱmでは和音の第三音Ⅳへと三度上行。

まずⅢからⅡへの進行ですが、Ⅲ(第三音度)は和音Ⅳの根音Ⅳと長七度でぶつかっています。不協和音は二度下行して解決するのが基本。それに忠実に動いています。

 ちなみに「アルトが第二音度Ⅱへ解決したのだから、ここの和音はⅣじゃなくてⅡmでしょ」という意見の方もいると思います。それは間違いではないでしょうし、むしろそういう分析の方が多数派なのかも。

 ただ、私は第二音度が弱拍で八分音符分しか鳴っていないことと、パートがバスでなくアルトであること、さらにはそれが次の和音Ⅱmの根音として保留されていないこと、という三つの要素から、和音としてはⅣであるという分析をしています。(私のこの分析の仕方は、不協和音をどう解決するかを和音より旋律の動きとして考えるルネサンス時代の対位法を勉強したことに影響されているのかもしれません)

 アルトは次の和音Ⅱmでは、第三音Ⅳへと三度上行。ここは色々な要素から、ほぼ必然的にこの音になります。

 まずは、いわゆる和声法においては、どのような和音であっても和音の第三音の省略は許されません。必ずいずれかのパートが第三音を鳴らしていないといけない。

 そして、もしアルトを根音であるⅡ(第二音度)にしてしまうと、第三音はバスが保留して鳴らすことになる。(ソプラノはあらかじめ決められているメロディを奏でないといけないので動かせませんし、テノールに三度下行させるのは縦のバランス横のバランスともに不安定)すると、次の和音Ⅵm(第一転回)への進行で、テノールが前の和音のバスの音を飛び越して下行してまいます。

 そうすると、アルトに第三音を鳴らしてもらわざるを得ない。

 さらに、ポジティブな理由としては、次の和音Ⅵm(一転)でアルトに和音の第五音であるⅢ(第三音度)を鳴らさせれば、一小節目二拍目から下行、上行、下行のジグザグの動きが出来上がります。これは対位法的にも和声法的にも、基本的に好ましい動きです。

 ならアルトにはそう動いてもらうしかないっしょ!

 という事でこの声部進行が出来上がったのでしょう。

 それでは二小節目。

Ⅵm一転→Ⅲm二転→♯Ⅱdim→Ⅲm

         (♯Ⅲdim→Ⅵm inDm)

後半はキーDmに転調しています。

前半ⅥmとⅢmが転回形になっているのは、バスを直前の第二音度から順次下行させたかったからでしょう。

さらにソプラノと合わせてみてみると、バスとソプラノはそれぞれを反転させたような動きをしています。

ソプラノは上がってから下がる。バスは逆に下がってから上がる。

ソプラノとバスが逆に動くのも、和声的には好ましい動きです。

テノールはⅢ(第三音度)から順次上行し、刺繍音へ飛びながら、最後の和音の第三音へ。第三音へ落ち着く前に装飾するのも、クラシックでは常套句です。


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では三つめのフレーズ

打ち込み音源https://note.mu/mariekids_works/n/n6152a65763f2

 今までのを見返すととにかく読みづらいので、ちょっと今回はやり方を変えます。最初にいきなりフレーズ全体のコード進行を書いちゃいます。

Ⅶm♭5→Ⅲsus4→Ⅶm♭5(二転)→Ⅲ(根音のみ)→Ⅱ9

Ⅲ7(二転)→Ⅳ(一転)→Ⅶm♭5→Ⅰaug(♯5)

Ⅱ(一転)→Ⅱm(一転から基本形へ)→Ⅲ→Ⅵm

 さて、それでは一小節目四拍目から二小節目まで。

 ここは「コード進行」で考えるより「声部進行」で考えた方が作曲者の思考が想像しやすいのですが、一応コード進行から考えます。

 やろうとしていること自体は簡単。「ⅥmのドミナントコードⅢに行きそうで…行かない!」と焦(じ)らしてる。

 頭のコードⅦm♭5。これはⅢの完全五度上て、コードⅢに進行しようとする強い力を持っています。そして次の瞬間、ドミナントのⅢに行く……と思いきや!

 Ⅲsus4!まだⅢには落ち着きません。普通だったらこのコードの第四音が第三音に短二度下行してドミナントコードⅢが出来上がるのですが……次に来るのは!

 またⅦm♭5!しかも第二転回形という不安定な形。弱拍なので目立ちませんが、これもⅢへと進む強い力を持っています。そしてついにⅢへ進む……と思いきや!

 Ⅲの根音のみ!しかも裏拍で四声部が全く同じ音に集まります。焦らした後こんな形を持ってくるとは。

 次はコードで言うとⅡ9なんですが……これはもう少し後で。

 はい! では声部進行の側面から考えます。

 この一小節目四拍目~二小節目は

「第三音度(Ⅲ)に四声部全てが収束し、その後逆に広がっていく」

 という事を主軸に組み立てられています。明らかに。

 四声部集まるにはヘ音記号の真ん中の第三音度では低すぎます。(普通ソプラノにこの音は出せない。アルトでも人によっては無理)

 なので必然的にト音記号とヘ音記号の間の第三音度になる。そしてそこから広がっていくという事は、バスは下行していくことになる。そしてバスにとっては高いこの音に収束させるためには…

 一旦オクターブ違いの音を出して上行跳躍するのが都合がいい!

 跳躍(三度以上離れた音への進行)の前後は反対の方向に進むのが原則。だから都合がいいのです。

 それに合わせてオクターブでハモる直前のバスの音は第四音度E♭。

「じゃあ初めのコードⅦm♭5は第一転回形にすれば、バスは順次進行できるじゃん」

 という事でバスの声部進行は決定。ソプラノはメロディなので初めから決まっている。残りのアルトとテノールで和音を完成させて…出来上がり。

 そしてこの部分最後のⅡ9ですが、これは第三音度から広がっていく過程で、半ば必然的に出てきたコードでしょう。

 何か…書いてて疲れてしまったのでここからは駆け足で(気が向いたら後から細かく追記するかも)

 三小節目の頭はⅢ(二転)構成音としてはそろっていますが、第二転回形というのはコードとしては不完全というか、不安定な形。まだ満足とは言えません。

 次のコードはⅣ(一転)実はこれも、本当はⅥmに進行できるところを焦らしている。テノールはソプラノの特徴あるリズムを強調するために、同じリズムで六度下をなぞる。そしてⅦm♭5→Ⅰaug(♯5)と落ち着きのない不安定なコードが続きます。

 そして四小節目。Ⅱm…の第一転回形。しかもソプラノのメロディ♯fを倚音として使うという焦らし方! 配置を変えてⅡmの基本形に行きついた後

 ついに! Ⅲ登場!

 二拍目の裏拍で一瞬鳴るこのコードをここまで焦らし続けるとは。

そしてその次、こちらもついに登場!

Ⅵm!

 やっとトニックに落ち着いたのでした。

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さて……ちょっと詳細にやり過ぎて面倒になって来たので、申し訳ありませんが以下は駆け足で。(この曲におけるグリーグの巧みさは三つ目のフレーズに凝縮されていると思います)

4フレーズ目です。

打ち込み音源https://note.mu/mariekids_works/n/n4dcceefb0ccb

コード進行

Ⅴ→Ⅳ→Ⅱm→Ⅲm→Ⅴ

Ⅴから始まってⅣへ。これは古典的な和声法では例外的という事になってはいるものの、実際にはこの進行を使った曲は数え切れないほどあり、普通の進行です。

ⅣからⅡmというのはフツーのコード進行。

そしてⅡmからⅢm。これもわりと普通です。

ところが、最後のⅢmからⅤ。これはけっこう珍しい進行。特にフレーズの切れ目でもないのにこの進行を持ってくることは、あまりありません。

なぜこの進行にしたのか……。はっきりは分かりませんが、恐らく一言で言えば「民謡の編曲」だからだと思います。民謡っぽい古めかしい響きを求めてやったのではないかと。Ⅲm→Ⅴ自体が古めかしい響きかというと、そういうわけではありませんが、この民謡の旋律は所々調性が不明瞭なので、それを壊さないように……という事をグリーグは考えたのではないでしょうか。

声部進行に関しては特筆するべき個所は特にないと思います。


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5フレーズ目

打ち込み音源https://note.mu/mariekids_works/n/n71168cb344d1

コード進行

Ⅴ→Ⅳ→Ⅲm→Ⅵm→Ⅲm→Ⅰ

フレーズ全体ではⅤからⅢmに下りてきて、ⅥからグイッとⅢmまで上がっていき、Ⅰに落ち着く。

Ⅵmから上へグイグイ上っていく効果を上げるために、バスに高い音域まで歌わせています。ただし、メロディは下がってくるので、最後にⅠに落ち着くために、バスのC→Dはオクターブ下げています。

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6フレーズ目。最後です!!

打ち込み音源https://note.mu/mariekids_works/n/n7d5ca181337e

コード進行

Ⅳ→Ⅱm→Ⅲ→Ⅵm→Ⅶ→Ⅲ→Ⅵm

 始めのⅣ→Ⅱmは、初めのアルトの音を倚音ととらえて丸ごとⅡmとしてもいいでしょう。

 その後一瞬Ⅲmを完成させてから、ほんの一瞬、ごまかしのようにⅥmに触れ、Ⅶmへ。これはまたいきなり和音を完全な状態では鳴らさずに、ソプラノのメロディを倚音として、第三音欠如の形から出現します。そしてそれがⅢの二次ドミナントになる。

 そして、コード進行では単にⅢと書きましたが、これもまた単純にⅢを出しては来ません。はじめはソプラノアルトともに倚音としてバスにぶつかり、弱拍でⅢになったと思いきや、すぐにアルトとテノールが下降して和音の形が変わります。その後四拍目の裏でやっともう一度Ⅲにたどり着き、次の小節でⅥm。

 声部進行を見ると、アルトはE♭からB♭まで半音ずつ下降していきます。おそらくバスのD保続音とアルトの半音進行を軸にテノールで穴埋め……という過程をたどってできたフレーズでしょう。

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