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JAPAN⇄CANADA 4-7

ブラジルではマーチング以外にも沢山のことを経験しました。その中でも印象に残っているのはシュラスコです。サーバーが棒に刺さったいろんな種類のお肉を持ってきていた景色をはっきりと覚えています。そしてそれがひっきりなしだったのには驚きました。各席に「YES」と「NO」を表示できる札があり、サーバー達はそれを見てお肉をお皿に切り分けるかどうかを判断します。ひっくり返さないとほんとにずっとお皿に乗れさせるのでお腹がいっぱいになるタイミングを見計らうのがなんとも面白かったです。シュラスコはきっと世界中でできる経験だと思いますが、カエル、ダチョウやワニのお肉を頂いたのは、ブラジルならではなのではないかなと思います。どれも美味しかったけど個人的にはカエルが1番癖もなく味も好みでした。


このシュラスコのレストラン、なんとマーチングの大会が行われるフィールドの真裏で、入口とは反対の扉を開けるとフィールドに立つことができました。スタッフが行って草がどんな感じか、動く時の感覚がどうか確認できるよと言っていました。他の団体はできないことなので裏を返せばなんだかずる賢い気もしましたが、行くことにしました。外は暗くて、携帯のライトを頼りに歩きました。客席もよく見えなかったのでフィールドというよりもなんかそこら辺にある公園の広場、という感じでした。草は短くかられていてマーチングするには支障ない印象を受けました。数日後ここでパフォーマンスするんだと思うと不思議と気が引き締まりました。そしていよいよ1回目の本番がやってきました。


私たちは予選が免除されていたので最初のパフォーマンスはエキシビジョンの様な扱いでした。近くの公園で音出しをして身体をほぐして準備しました。その公園が日本でもカナダでも見たことないような雰囲気で、改めて私はツアーで違う国に来ているんだと感じました。会場に向かう途中の道は車も人もいっぱいで街全体が賑わっていました。


この年のフィールドショーは足場や小道具が多く、スムーズにフィールドに上がれるように各メンバー何を運ぶか担当が決まっていました。私はパーカッションのゴングを運ぶことになっていたのでクラリネットの仲間達とは離れて待機していました。シーズンを共にした仲間と一緒にいないことは少し寂しかなと思ったのですが、今まで関わりの多くなかったパーカッションのメンバーと話すことができたのが新鮮でとても楽しかったです。1年目の時は全員の名前を把握するのにかなり時間がかかりましたが、2年目は既に知っている人ばかりで、1年目の名前を覚えるだけだったので時間はさほどかかりませんでした。さらにこのシーズンから「カウンセル」という学校だと生徒会のような会の一員だったのでみんな私のことを認識してくれていました。(だから余計に全体練習で大声でスタッフにクレームつけたのが意外だったようです※詳細はJAPAN⇄CANADA 4-6にて)。それでか、パーカッションのメンバーも積極的に私と話をしてくれて本番前の時間を有意義に過ごせました。


ドラムメジャーの合図で掛け声と共に気合を入れ、フィールドに乗りました。見ると客席は360度人で埋め尽くされていました。びっくりしました。夜行った時とは全く違う雰囲気で同じ場所とは思えないくらいの衝撃でした。普段は後ろを向くと観客はいないので顔を緩めたり息を整えたりできていたのですが、それができない!とちょっと困るなと思ったのを覚えています。バレエの発表会でも気持ちを整えるために行っていたことだったので少しだけ心配になりましたが、私の頭の中はもう1つの心配でいっぱいでした。この年のショーは沢山ある小道具が後半、ライトで光るという演出がありました。今までの本番では機材や接続のトラブル、更には思いもよらないアクシデントが重なり、全部が光で照らさせたことがありませんでした。ブラジルに来てからも節電のために、極力光の演出をすることを控えていて、通し練習で全部綺麗に成功したのがなんとたったの1回だけでした。この演出の担当をしていたスタッフは失敗するたびに落ち込み、それを見てきていたのでみんな成功を強く願っていました。
そしてついにその結果がわかる時がやってきました。


「スタンピード・ショーバンジー!」
というポルトガル語の独特なアクセントでのアナウンスを合図にドラムメジャーの指揮が振り下ろされました。足場の裏に隠れていたメンバーが次々とフィールド上に現れ動きながら形態を変えていきます。そして小道具の出番が来ました。私はプラスチックでできたドラム缶のような容器をスティックで叩くという場面がありました。足場の裏からそれを取り出し、ドラムメジャーに合わせてリズムを刻みます。その時、自分のドラムの周りについていたバンドが光ったのが見えました。光の演出が成功したのです。クライマックスでのこの演出は観客を大いに盛り上がらせていました。会場の空気と成功の喜びが相まってアドレナリンは全開です。最後のポーズをとるまであっという間に時間が過ぎていきました。一瞬の沈黙の後、漫画の擬音語で見るような「ワァ」という歓声が上がりました。会場はもうスタンディングオーベーションです。客席で見ていたスタッフも見たことないくらいの拍手で素晴らしい出来を讃えてくれました。これがエキシビジョンじゃなくてファイナル(決勝)だったらと想像したのですが、スタッフが

「これをあと1回すればいいだけだから」

と平然と言っていました。でもこの言葉が逆な良かったと思います。


会場を後にして、すぐにホテルに戻りカフェテリアに移動して夜ご飯を食べました。実はこの時23時を回っていました。本来なら食事の提供時間は終わっていますが、ホテルの計らいで特別に私たちのために準備してくれていました。元々は20時にはホテルに戻る予定でしたが、大会のスケジュールがかなり遅れてしまったのです。本番まで客席で他の団体を見ていたのですが、その時みんなお腹が空きすぎて大変でした。スタッフの人が気を利かせてくれて持っていたお金でポップコーンを買いみんなにつまむようにと回してくれました。これでなんとか空腹を凌ぎ、あの感動のパフォーマンスができたわけなのですが、もしこれがなかったらと考えると少し怖いです。なぜなら私は空腹で腹痛を起こすことがあるからです。もし腹痛に耐えられずに本番に望めなかったら、後悔していたかもしれません。


とにかく、お腹が空いていた私たちは夜遅くにも関わらずいつも以上の量を食べました。そして2日後のファイナルで同じことが起こらないようにメンバーに現金を持たせる許可がおりました。ユニフォームを着るとお金を持ち歩いて食べ物を買うなんてご法度に近い行為が許されなたのでなんだか面白いなと思いました。これがブラジルの力なのかもしれません(いや、違うか)。


中1日練習を挟みついに今シーズン最後のパフォーマンスの日がやってきました。みんな気合は充分です。狙うは95点ただ1つ!エキシビジョンでの経験を活かしみんな冷静に、でもキビキビとそれぞれのポジションにつきます。私もパーカッションのところへ向かい、ゴングを掴みます。

「Stampede on two, one two…」

というドラムメジャーの声に

「Stampede!」

と答えいざ出陣です。この日は大会最終日で私たちが最後の団体だけあって前回以上の人出でした。席が足りず立ち見客もいた程です。大きな歓声に包まれて最後の最初の一歩を合図とともに出しました。気づいたら最後のポーズをしていました。1年間の集大成が流れ星の如く過ぎ去っていきました。やることはやったのであとは待つだけ。


一度退場し、今度はパレードの形態を組み再入場です。脇で待機していると、客席にいた人々が何か頂戴やらサイン欲しいやらとせがんで来ました。私たちに対する扱いはまるでハリウッドスターのようでした。流石にユニフォームの一部をあげるわけにもいかないのでクラリネットのパートリーダーが靴下を片方脱ぎ渡すと凄く喜んでいました。ほんとに靴下でいいのか?とみんな苦笑いでした。パートリーダーは、汗かいた靴下で喜んでくれるならいくらでもあげるよと冗談をこぼすくらいで、それがさらにわたしたちの笑いを誘ったのでした。


結果発表の間は至って冷静でいるようにとスタッフから言われていたし、それが私たちスタンピードショーバンドのプロとしての立ち振る舞い、といったようなそういう認識でした。実際はポルトガル語で発表されていて点数がよく分からなかったから反応も出来なかったのですが。ただ会場や他の団体があまりにもリラックスし、さらにはしゃいでいるのを見てスタッフは私たちもリラックスして、拍手や歓声をあげていいことを許してくれました。これがブラジルの力(以下省略)。



この年の大会にはカルガリー市にある高校生を対象にしたマーチングバンド、カルガリーステッツンショーバンド(以後ステッツン)も参加していました。ショーバンドのメンバーはこの高校生バンドのメンバーから上がってくることが多く、知っているメンバーもいました。だからステッツンの2位が発表された時は私もとても嬉しかったです。この年のステッツンのショーは昨年より完成度も技術もあがっていたので当然だとは取っていましたが、91点を超えたというスタッフの声に、おー!と拍手をしたのを覚えています。2位までの発表が終わり、いよいよ優勝の発表、この時点でまだ名前が呼ばれていなかった私たちショーバンドは優勝が決まった安心と点数がどうかというドキドキとした感情で包まれていました。点数が発表された途端、会場から歓声が湧き上がりました。これはいい点数なんじゃないか、と誰しもが思ったのですが95点を超えたのかどうかこの時点では分かりませんでした。どうなのか、とみんなの気持ちがざわつき始めたその時でした。スタッフの1人が、

「95.1!」

としきりに叫けびながらパレードブロックのの横を前から後ろに走って行きました。頭で処理しきれなかった私は一瞬なんて言ったのかピンときていませんでした。近くの他のメンバーは聞き取れていたようで、私に

「95.1取れたよ!」

と声をかけてくれました。その時に初めてその言葉を理解して笑顔が溢れたのを感じました。次から次へとメンバーの歓喜の声があちこちから聞こえてきました。ついに、3度目の正直で目標を達成したのです。


-つづく-

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