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JAPAN⇄CANADA 3-3

マーチングバンドは週1の練習に加えて、月に1度「バンドキャンプ」がありました。といってもキャンプするわけではなく、金土日に3日続けて練習がある週末のことをそう言っていました。練習場所はいつもと変わらない場所なんですが、練習時間が長くて、より密な練習ができるスケジュールでした。ただ9月のバンドキャンプだけは特別なものでした。新シーズンが始まって最初のバンドキャンプは市外の学校を貸し切って、2泊3日の合宿をすることが恒例でした。しかもそのバンドキャンプ、特別な理由はそれだけではありません。この9月のものは1年目のメンバーの歓迎会も兼ねていたのです。2泊3日過ごす間に1年目のメンバーは様々な課題を課せられ、それをこなしていきながら楽しく親睦を深めるというのが真の目的なのです。


その日はまみーもだでぃーも用があったので、集合場所まで2泊3日分の着替え+楽器+寝袋を抱えてヘトヘトになりながらバスに乗って1人で向かいました。これだけで疲れてるのに2泊3日も練習できるのだろうか?と不安になったのを覚えています。荷物をトラックに積み、みんなが集合したところで泊まる学校に移動しました。着いてからも荷下ろし荷ほどき、そして練習、とバタバタ1日が過ぎていきました。そして金曜日の夜、先輩メンバーから1年目のメンバーに集合がかかりました。これから3日間に起こること、それぞれに課せられた課題などが発表されました。当時はまだ引っ込み思案な性格だったので少し嫌だなとは思ったけれど、折角だから楽しもう!とその時は思いました。


マーチングや演奏の練習はとても楽しくて、充実していました。マーチングでは初めてでそこまでできるのは凄い!と褒められました。先輩メンバーからも密かに特訓した?と冗談まじりにいいコメントをもらって意気揚々としていました。演奏の方も楽しくて、和やかな雰囲気で練習が行われました。初めてのバンドキャンプだから、木管メンバーだけのゲームを指導者のスタッフが提案して行いました。ここまでは、とても順調でした。


問題は食事の時間でした。食事の時間に課せられた課題をこなしたり、食事の仕方に制限をかけられたりしました。何より辛かったのはペアを組んで取り組むアクティビティでした。私はまだみんなの事を知らないのに、他のみんなはほぼ知り合いか友達。さらに引っ込み思案な性格がたたって、1人だけ余りものになったのです。ここでかなりこたえました。1人で篭ってもがき苦しむのが嫌でマーチングバンドをする事を決意したのにここでも孤立しちゃうのかとなりました。


そこからはもう苦痛でしかありませんでした。土曜日の夕ご飯の時間も先輩メンバーの与える課題に他の1年目のメンバーが一生懸命応えていました。しかし私はいつ何処で何をされるのか分からないと恐怖を覚えてしまい、食事の途中に食べかけのものを持ってトイレに駆け込み食事を済ませました。トイレでご飯を食べるなんて人生で初めての出来事で悔しくて悲しくて泣いてしまいました。泣きながらまみーに電話をかけました。帰りたい、頑張れないと訴えました。まみーは私の話をそっと聞いてくれました。そしてこう言いました。

「無理でできんち思うんなら辞めてもいいよ。でも辞めたいって思いよるのは人間関係や文化の違いからくるものでマーチングやクラリネットの演奏やないやろ?とりあえず日曜日まではこの状況が続くんやき、それまでは練習を頑張りなさい。それでやっぱり無理ってなったらその時また考えなさい。嫌なことは嫌って言ったらいいよ。みんなもそこまで嫌っていいよる人に無理強いはさせんやろ。」

こう言われて、とりあえず頑張ろうと思いました。でも夕ご飯の時間はやっぱりトイレから出て行けず、時間ギリギリまで籠もっていました。


夜の練習が終わったのも束の間、私に最大の試練がやってきたのです。そう、夜の全員でのアクティビティです。まずメンバー全員が集合して、リーダーを務めてるメンバーを1年目が、廊下に並べられたものを使ってドレスアップさせるファッションショーが行われました。これは楽しい、行ける!と感じ私も楽しむことができました。勿論イベントはここでは終わりません。次は1年目の番です。やりたいと思っけれど案の定ペアを組むように言われ、そして案の定私はペアを組むことが出来ませんでした。


泣いたのが先か声を掛けられたのが先か覚えていませんが、先輩メンバーが大丈夫?と聞いてきました。正直にペアが出来なくて1人でいると言いました。他のメンバーに2巡してもらっても良いし、なんなら先輩メンバーと一緒にステージにでてもいいよ?と言われましたが、もう後の祭りです。私のモチベーションはゼロを通り越してむしろマイナスでした。なんで自分だけこうなんだ、と感じました。頑張って殻を破ったと思ったのにまた独り。やっぱり私はこうなる運命なのかもと思い、先輩メンバーの案を断りました。もうやらない、やりたくないと言いました。楽しい雰囲気を台無しにしたくないからもう行くと行って、会場として使っていた小体育館へ戻りました。心配してか、クラリネットの先輩メンバーも一緒に付き添ってくれました。一緒にいる間、私の泣いてた理由を話して気づかずにごめんねと言ってくれました。正直に謝ってくれたことにとても安心感を感じました。でも他の1年目のメンバーのファッションショーを見ながら私はこのマーチングバンドから抜けても後悔はないなと思っていました。やってみてダメだったんならそれでいいかな、と。


アクティビティが終わった後は夜のおやつタイムです。アイスクリームをみんなで食べるようになっていました。私は最後まで待ってから貰おうかなと列の最後尾に向かおうとしました。その時、さっきまで一緒にいたクラリネットの先輩メンバーが私を探してやってきました。

「今から木管で集まりがあるんだけどよかったら来ない?」

と。私は、

「もう嫌な思いはしたくないからあんまり気が進まない」

と正直に言いました。

けれど先輩メンバーは、

「大丈夫。むしろそういう気持ちだからこそ来て欲しい。集まりではまた隣にいてあげるから。」

そう言ってくれました。そこまで言うなら、と渋々承諾し、急いで列の1番前まで移動してアイスクリームを貰いました。みんな木管が集まることを知っていたようで、列を割ることを快く受け入れてくれました。


とりあえず、アイスクリームと枕を持っておいで。と先輩メンバーに言われついて行きました。部屋に入ると、みんな私を待っていたようで笑顔で歓迎してくれました。教室を見るとみんな円になってそれぞれ居心地のいい姿勢で待機していました。すると何人かが、ティッシュを持っているか再確認し合っていました。なにが起こるか検討もつかなかったのですが、一応私も持っておこうとティッシュを1枚手に取りました。木管のセクションリーダーが合図を取り、いよいよ集まりの開始です。


この集まりは、木管メンバーみんなで木管の曲を聴く。という会でした。

「1年目のメンバーは初めて聴くからもちろん大切さがわからないかも知れないけれど、いつかこの曲を聴いた時にこのバンドでの経験や思いを巡らす時が来る。いい思い出も悪い思い出も。嬉しさや悲しさ。そんな感情が入り混じって出てくる時がやってくる。その時に、この「家族」がいたことも覚えていて欲しい。みんなは1人じゃないんだよ。」

パートのリーダー達が各々の思いを語っていき、部屋の電気を消しました。

「Hide and Seek」

この曲は私にとって一生の宝物、テーマソングとなりました。


初めて聴いた曲なのに引っ越した当時のこと、ここまでの道のりこれからのこと。いろいろ考えると涙が溢れて止まりませんでした。なんでティッシュを1枚しか取らなかったのかと思うくらい泣きました。周りの様子は見えませんでしたが、鼻をすする音が部屋中に響き渡りました。


今日が終わって最後に一言リーダーが

「家族へようこそ」

といってあかりをつけました。この瞬間私の居場所はやっぱりここだったんだと感じました。やっぱり私は間違ってなかった。そう思いました。みんな自然とハグをしだして、私もみんなに混じってハグをしました。こんなに私のことを受け入れてくれるところはここ以上にないと確信しました。こうして私はマーチングを続ける覚悟と自信がつきました。日曜日は前日からそばにいてくれたクラリネットの先輩メンバーとともに過ごしました。1年目メンバーへの課題にも参加しました。先輩メンバーの計らいで、他の1年目のメンバーも紹介してもらって、そこからその子たちとも話すようになりました。この先輩メンバーは、この後先輩後輩を超えた仲になりました。今でも、この先輩メンバー、クリステンには感謝しています。最終日の1番最後は先輩メンバー全員からのサプライズ演奏がありました。このマーチングバンドのおはこを演奏して1年目メンバー全員への歓迎の締めくくりとなりました。この時も泣きそうになったのは内緒です。


なんとか波乱万丈のバンドキャンプを終え、家に帰り着きました。泣きながら電話を受けたまみーは心配して迎えに来ていたそうですが、笑顔の私を見て安心したと言っていました。この最悪も最高も経験したバンドキャンプがなかったら今の人生はなかったといっても過言ではありません。この週末をきっかけに私はますますマーチングにのめり込んでいったのでした。

-つづく-

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イラストレーター。イラストレーターズ通信会員(https://illustrators.jp/)。 メイキングを含むイラストレーションのあれこれや カナダでの生活経験を投稿しています。 イラストを掲載している場所→https://www.mariekennedy77.com

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カナダに引っ越すことになってからのあれこれを赤裸々に書いたエッセイです。 思春期の不安定な気持ちをこれでもかというくらい詰め込んだ切ないけれど、がんばろって思えるエッセイになっています。 壁にぶち当たった経験がある人、今まさに壁にぶち当たっている人、子供時代に引っ越しを経験した人、もちろんそういう経験のない人もぜひ読んで行ってください!

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