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JAPAN⇄CANADA 2-10

グレタと友達になってからバンドが断然楽しくなりました。そして段々練習中にコメントを出せるようにもなりました。この頃の私は、分からないことや言いたいことがあったら躊躇わずになんでも言葉に出すことを意識して生活していました。もちろん状況を考えて控える時は控えていましたが、心や頭の中のモヤモヤを解消するには発すことが大切だと感じていました。きっとカナダに来てから慣れたんだと思います。あとは、周りは私が自分の意見を言わない方が何を考えているか分からないんだということを学習しました。カナダのオープンに議論を行う文化に私もいい影響を受けたんだと思います。

バンドの先生も練習中や少人数で話している時など様々な場面で私にジョークを飛ばすようになりました。それが実はとっても嬉しかったです。なんだか距離が縮んで、いい生徒と教師の関係が築けてると感じました。実際に私は、先生に音楽以外の授業の話や家族のことを話していました。なんでも話せるし頼れる、そんな先生に出会えてよかったと思いました。バンドの他のメンバーとも、コンクールや春のコンサートなど行事ごとをこなしていくうちに打ち解けている度合いが増していき、仲良く話せる、友達と呼べる仲間が増えていきました。

季節は春に差し掛かろうとしていたある日のことでした。先生が
「次の朝の授業はプレゼンで外部から人が来るからみんな絶対来てね」
とみんなの前で言いました。今まで外部の方が指導に来ることはあったけれどプレゼンで来ることはなかったので、練習終わりグレタと他数人で何のことについてだろうかと、言葉を交わしました。個人的には音楽理論の理解を深めるために誰か読んだのかなと思っていました。なにか分からずその日ずっとそわそわして1日を過ごしました。次の日、朝まみーに送ってもらいながら、今日はプレゼンがあるんだけどなにかわからないからドキドキということを話しながら学校に向かいました。

朝の授業ですが、最初はいつも通り楽器を吹きながら練習するという変わりのない感じで進みました。どうやらプレゼンは最後の方に行われるようでした。でも私はますます混乱しました。そんな短いプレゼンなんて一体なんなんだろうと、頭の上はもうはてなだらけです。短いとなると、私の音楽理論のプレゼンは外れたなと思いましたが、他にどんなプレゼンがあるか思い当たるものが全くありませんでした。

楽器の練習は少し早めに切り上げられ、いよいよプレゼンの時間です。2人の少し年上の学生がウェスタンな格好で入ってきました。何がなんだかわからないままプレゼンがはじまりました。内容はなんと、カルガリー市にあるユースのマーチングバンドの勧誘でした。2人の話している内容がとても魅力的でマーチングしたい!と思いました。ここまで惹かれるものが現れたのは、カナダに来て初めてのことでした。しかも、ツアーが日本で行われる大会への参加でした。これは私のためにあるようなものだ、と思いました。グレタと一緒にオーディションしようと話をして、それから先生にも伝えました。先生が
「まりぃは興味示すと思ってた」
と笑いながら言ってくれたのが後押しとなり、勇気を出して親に話をしました。唯一の懸念点であったお金も、親はなんとかすると言ってくれました。おそらく、あそこまで興奮して楽しそうにものを話す娘のために、と無理をしてくれたじゃないかなと今は思います。それくらいやりたいという熱意がありました。

それからはオーディションに向けて、先生にもアドバイスを貰いながら練習をしました。5月末、いよいよオーディションの日です。マーチングの経験がなくとも音楽の技術とポテンシャルがあれば入れるとプレゼンで言っていましたが、不安はありました。殆どのオーディションを受けにきていたメンバーは高校生によって結成された1つ下のマーチングバンドに属していたようでみんなで集まって話していました。私といえば、知り合いはグレタくらい。でもカナダに来た時みたいなネガティブな気持ちは一切ありませんでした。むしろいい緊張感のなかオーディションに臨むことができました。実はこのオーディションを受けたのはクラリネットを始めてから2年くらいのことでした。たった2年で世界の大会に出場するような所に入ろうと思った自分の自信はどこからきていたのか、今となっては謎のままです。合否が知らされるのは1ヶ月程後でした。この間私はずっとドキドキしていました。受かるという感覚はなんとなくあったけれど、なかなかこない合格通知に不安な気持ちも募っていました。

ある日学校から帰ったら、私宛に手紙が来ていました。ついに通知か届いたのです。まずは1人で見たかったので部屋で手紙を開けました。ドキドキの結果は、見事合格!嬉しすぎて涙が出てきました。嬉し涙を流したのは今までにあっただろうか?と思うくらい泣きました。嬉しくて1階のキッチンに駆け下りて合格したことを泣きながらまみーに伝えると、まみーもつられて泣き出しました。2人で泣きながら抱き合っていると弟が冷ややかな目で見つめてきました。普段ならイラッといたかもしれませんが、この時は嬉しさの方が優っていたので気になんかなりませんでした。後日先生とグレタにも報告をしました。残念ながらグレタは合格しませんでしたが、2人とも喜んでくれました。

そして7月9日、カルガリーで毎年行われるお祭りに行きました。この日は、マーチングの大会がある日で、私の合格したバンドも参加していました。実は今までの人生でマーチングを生で見たことがありませんでした。観客席からパフォーマンスを見て、気持ちが高揚しました。ここに私が来年入るのか、これを私はするのか、と楽しみになりました。

こうして私は、カナダでの生活の楽しみを手に入れ、さらに人生で最高の時間、仲間、そして経験を手に入れることとなったのです。

-つづく-

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