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ほぼブラジル

昨晩、直島にある赤かぼちゃを思い出した。直島とは香川県の北に位置する瀬戸内海に浮かぶ島。『現代アートの聖地』として知られ、島のいたるところにモニュメントがある。

社会人2年目の頃、職場の関西人の同期とGWに直島を訪れた。たしか瀬戸内国際芸術祭の期間中で、フェリーで宮浦港に到着すると、観光スポットゆきのシャトルバスに乗る若者が長蛇の列をなし、島は観光客で溢れていた。

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私たちは直島で民宿に1泊し、夕食はその日同じ民宿に宿泊する2グループの人たちと食堂の一室で一緒に食べることになっていた。

メンバーは、定年間近なご夫婦と、30代前後の女性3人のグループ、そして私たち2人。女性グループは3人中 2人が結婚間近だと話していて、なかなかこのメンバーで旅行にいけなくなるからと思い出作りの旅行のようだった。

そして定年間近なご夫婦の男性がよく喋っていた記憶がある。お酒の力もあってか、奥さんとの馴れ初め話を事細かに教えてくれた。

駅で見かけて、一目惚れしたこと
奥さんの後ろ姿のお尻が素敵だったこと(!)
駅で見かけるたびに気になっていたこと
雨の日に男性から声をかけ、相合傘して奥様のお家まで送って行き、家電の番号をゲットしたこと
その後デートに誘ってお近づきになったこと
など・・

当時はもちろん携帯電話がないので、アプローチが大変だったと言っていた。高校生から携帯を持っていた私からしたら考えられないシチュエーションに、押しの強さだ。

話を聞いていると、まるで映画のようなロマンチックな話で、私にもいつかそんな出会いがあるのかしらなんて思った記憶がある。

そして何よりも覚えているのが、この男性が話のことあるごとに

「ほぼブラジル」

と言っていたこと。私たちはキョトンとしてしまったが、女性3人グループはちゃんとうけて大笑いしていた。

ほぼブラジルって知らないの?」と男性に聞かれたが、私たちは知らなかった。その場で上手に愛想笑いもできずにいると、男性から「愛想笑いもできるようにならないとね!」と指摘を受けたのだが、今なら以前よりも笑える気がする。

ほぼブラジル」って昔流行ったのかなと思い、帰宅してからインターネットで調べたが特にそれらしい情報は入手できなかった。

その謎の食事会が終わった後、草間弥生さんのライトアップされた『赤かぼちゃ』を見ようと、島を散歩した。夜中、ポツポツと赤と白の光を放つ赤かぼちゃは奇妙でもあり、そのかぼちゃ内を出入りしている観光客に混じって、知らない土地で夜を自由に満喫している自分たちはオトナになったんだと謎の喜びを感じた。


いまだに「ほぼブラジル」が昔の流行語だったのか、その男性の造語だったのかわからないままだが、こうやってたまにほっこりと思い出せる旅の記憶は大切にしていきたいと思ったのであった。





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