曖昧さを、美しい音色で楽しむ時間
いい場所は心がゆるむ。
そこにいい音楽があると、より一層癒されるのだと思えた春の土曜日。
「旅と写真と文章と」のasukaさんがライブ配信で大阪に来られると伺って、幸運にもまだチケットがあると聞けば行くしかない。
すべり込みで行ったのに、これまた幸運な事に特等席。
バスクラリネットを演奏される八巻さんとピアノの山口さんの手元までばっちり見える。
会場のSPinniNG MiLLさんは、明治時代に建てられたらしい。無骨なのにあたたかみのある雰囲気。(つまり、好き)
古い建物特有の趣とオレンジの照明とあいまって、八巻さんの演奏される姿が本当に美しかった。
繊細で滑らかな指の運びから、一音一音を大切にされていることが見てとれて。
キイのかちゃかちゃ音が個人的にすごく好きなのだけど、それも聞こえる距離だったのも至高……。
勝手なイメージでベースラインを担当する様な楽器かと思ってたけど、想像よりもずっと音域が広
音程もリズムも正確で音の粒が揃っていて、気持ちがいい。かと思えば、息の吹き込み方なのか響き方も音の質も全然違って、ころころ印象が変わるのはわくわくした。
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ピアノとのデュオは、音の響きがまた全然違って聴こえるのが楽しい。
お二人のアイコンタクトや空気の作り方を間近で見られたかと思いきや、お互いがそれぞれの音に集中する。
どちらも主役で、どちらも伴奏になれる。
ただただ贅沢な時間。
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ライブの途中で八巻さんが「クラシックとジャズの曖昧さを」「あまり気にせずに音を楽しんでほしい」って仰っていたのがとても心地よかった。
特にジャズなんかはその場に合わせて即興でアレンジする…というイメージ(半分ぐらい漫画の影響もある)が強いし、クラシックは「らしさ」みたいな物がある様に思う。
昔ピアノをやっていた時に、アレンジができるほどコードにも詳しくなければ、クラシックの「譜面通り正しく弾こう」にもしっくりこない……っていうわがままな時期があったことを思い出した。
八巻さんは、楽器にも音楽家にも敬意をはらってしっかりと勉強された上で、自分がやりたい表現を選んでいらっしゃるんだろうか、なんて勝手に考えていた。
ソロの最後の曲も「バスクラリネットは単音だから」で止まることなく、方法を考えて、重ねる音質もこだわっていらっしゃるんだろう。
『3月のライオン』にあった「人は思ってもみない方向から救われることがある」趣旨の言葉を思い出した。
やっぱり音楽は楽しい、それでいいんだ。
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わずかな時間で人の心を打つ。
毎回こういう時には圧倒されて、それからちょっとだけ「自分は一曲をこんなに丁寧に弾いたことがあったっけ」「曲の背景や作曲家に思いを馳せたことがあったっけ」と振り返ってしまう。
それから、どれだけ膨大な時間をかけたのだろう、壁にぶつかったこともあったのかな……なんて勝手に思ったりもする。
もちろん、自分の選択肢にはなかった道を歩んで、プロとして目の前の人に「届ける」まで積み重ねる。それが簡単に想像できるものではないことは、分かっているのだけど。
だからこそ。
目の前で演奏を聴いて、届けてくださったことが本当に嬉しくてありがたくて。
新しさも伝統も、凛とした美しさも、どれもかっこよかった。
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イベントやライブの配信はどこからでも自分の好きな時に観られるし、とてもありがたい。
でも、実際に足を運んで、その場の空気を味わう楽しみはやっぱり格別だった。
少しずつ、リアルを楽しむ機会が増えてくるといいな。
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