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【おまけ】キプリング作「ボンベイの街に捧ぐ」

私が先日訳したOヘンリー作A Cosmopolite in a Cafeで、キプリングの「To the City of Bombay」という詩が何度か引用されています。
とてもいい詩なのに、邦訳があまり流通していないようなので、おまけで私の訳を掲載します。詩のセンスが皆無な私の拙訳だけでは申し訳ないので、キプリングの原文のあとに参考という形で私の訳を載せます。


To the City of Bombay, by Rudyard Kipling

The Cities are full of pride,
Challenging each to each —
This from her mountain-side,
That from her burthened beach.

They count their ships full tale —
Their corn and oil and wine,
Derrick and loom and bale,
And rampart's gun-flecked line;
City by City they hail:
“Hast aught to match with mine?”

And the men that breed from them
They traffic up and down,
But cling to their cities' hem
As a child to their mother's gown.

When they talk with the stranger bands,
Dazed and newly alone;
When they walk in the stranger lands,
By roaring streets unknown;
Blessing her where she stands
For strength above their own.

(On high to hold her fame
That stands all fame beyond,
By oath to back the same,
Most faithful-foolish-fond;
Making her mere-breathed name
Their bond upon their bond.)

So thank I God my birth
Fell not in isles aside —
Waste headlands of the earth,
Or warring tribes untried —
But that she lent me worth
And gave me right to pride.

Surely in toil or fray
Under an alien sky,
Comfort it is to say:
“Of no mean city am I!”

(Neither by service nor fee
Come I to mine estate —
Mother of Cities to me,
For I was born in her gate,
Between the palms and the sea,
Where the world-end steamers wait.)

Now for this debt I owe,
And for her far-borne cheer
Must I make haste and go
With tribute to her pier.

And she shall touch and remit
After the use of kings
(Orderly, ancient, fit)
My deep-sea plunderings,
And purchase in all lands.
And this we do for a sign
Her power is over mine,
And mine I hold at her hands!

キプリング作「ボンベイの街に捧ぐ」柳田訳

街々は誇りを胸に、
挑発しあう――
あの山から採れたこれはどうだの、
あの砂浜から掘り出したこれはどうだの。

幾多の船は語る――
コーン、オイル、ワイン、
重機にオールに貨物を乗せて、
腹には銃口の並ぶ窓、
街から街へと向かい、声を上げる
「さて我が故郷に見合うものがあるだろうか?」

生まれた街から離れた者たちは、
南北へと散っても、
母親のガウンに縋りつく子どものように、
生まれた街の片鱗に縋りつく

他人と会話に興じていても、
迷子になった気がして孤独感に苛まれる
見慣れぬ雑踏のなか、
騒がしい何処の道を歩いていても、
故郷の存在に感謝する
そのおかげで強くなれるのだから

(故郷の誇りを高く持つ
すべての誇りの上に立つ
必ず戻ると誓い
愚かしいまでの忠義心と愛で
その名をつぶやくだけで
絆を深めていく)

この地に生を授けてくださった神に感謝する
隣の島ではなくこの地に生まれたことを――
ごみで埋め立てた半島や、
戦で先行きの知れぬ民族ではなく――
かの地はそれに見合う価値を私に貸与した、
誇りに思って当然の価値を

確実に苦労や乱闘のなかに私はいるだろう
異邦の地の空の下では
心の慰めになる
「私は醜い街の出身ではないのだ!」と言えること

(労役や費用を払って
この地に来たのではない――
私にとっては母なる地
私はこの市内で生まれたのだ
ヤシの木と海のはざまで
世界の果てまで航海してきた蒸気船が停泊する街に)

私は借りを返さなくてはならない
遠くまで届く声援に応えるべく
急いで行かなければ
故郷の埠頭に感謝を告げて

母なる地は触れて、許してくれるだろう
(規律正しい、歴史ある、正当な)
王たちが君臨したのち
深海に沈む略奪の跡も
各地での散財も
この地の生まれであることの印に
母なる地の力は私を包む
私の力は母なる地の手に!

おわりに

ディズニー映画『ジャングルブック』の原作で知られるキプリングは、イギリスの植民地であったボンベイ(いまのムンバイ)の出身でした。

この詩は「The Seven Seas」という詩集に収載されているのですが、この詩集はタイトルどおり各地の様子を描いています。「とあるコスモポリタン」の語り手が言っていたように、キプリングが各地を渡り歩いてきたことがうかがえる詩集です。
その中でキプリングの故郷への愛を綴ったこの詩は、異国の地を渡り歩く孤独感、郷愁の念にとらわれる瞬間も切り取っていて、現代人でも共感できるところがあるように思いました。


※キプリングの原文は著作権フリーですが、訳文は翻訳者に著作権が発生しますのでご注意ください。


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