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流れるような人生_牧田明美さん_potluck life vol.2

今回インタビューをさせて頂いたのは、愛犬のために始めたドッグトレーナーから、専門学校の講師、動物病院のマネージャー、セミナー講師、そして動物病院の人材育成にも携わるようになった幅広い経歴をお持ちの牧田明美さんです。これまで仕事は途切れる度に、新たな仕事の話が自然と舞い込んで来たとお話しして下さった明美さん。ご自身も「流れるような人生」と表現されていますが、そこには相手を喜ばせたい、人の役に立ちたいという想いと、自分の足りないところは学び続けようとする真摯な明美さんの姿がありました。

name  :牧田 明美 ( Makita Akemi )
出身地:大阪
お仕事:動物病院スタッフ育成業
仕事の拠点:大阪
H P :   https://makitaakemi.jp


ただ英語が好き、そこから始まった留学生活

高校時代にホームスティを体験し、とても楽しかったと振り返る明美さん。英語をさらに勉強したいと思い、卒業後は大学や専門学校には行かず、留学することを希望。ご両親が自営業を営んでおり海外とのやり取りが必要であった背景から、両親もすんなり応援をしてくれたという。

留学の地としてカナダに降り立った明美さんは、まずは語学学校に通いながら英語力を磨いた。ちょうどWindowsが世に出てきたタイミング”でもあり、”これからはパソコンだ、インターネットだ!”と感じ、その後ビジネスカレッジに入学しパソコン関係を学んだ。ところが、”カナダには5年程滞在していたのですが、帰国する1年前になって、「あれ、英語とパソコンなら日本にいても勉強出来たのでは…」と感じて焦ったんです。気付くのが遅いんですけど。笑 そこからせっかくカナダに留学したのだから、ここでしか経験出来ない何かをしなきゃと考え始めたんです”。 

そこで明美さんは、一度自分が興味のあることを俯瞰して見てみることにした。するとインターネットでリサーチしている内容やお気に入りには、ペットの動画など動物に関することが多く、”あっ私これが好きなんだなと初めて気がついたんです。ちょうど同じ頃、日本はペットブームで、実家の両親も大型犬を飼いたいと言ってきました”。

当時明美さんが滞在していたバンクーバーは、世界でも有数のドッグフレンドリーな街として有名で、犬と生活がしやすい制度や街作りに力を入れていた。そこでいろいろと調べてみると、バンクーバーでドッグトレーナーの資格を得ることが出来ると分かった。当時日本では、大型犬を飼う際は半年間ほどトレーニング施設に預ける必要があったのだが、”調べてみると自分がインストラクターの資格を得るのと、実家の犬を施設に預けるための費用が同じくらいだったんです。それだったらと思い、両親に犬のトレーニング費用を自分が学ぶための受講料に当てさせてほしいと交渉しました。両親も交渉の仕方が面白いね!と言って賛成してくれましたね。笑”。

”日本に帰ってきたら家業を手伝ってほしいと言われていたこともあり、当時はペットの仕事をしようとは全く思ってもいませんでした。カナダへ留学をした時は 英語が好き、本当にただそれだけで。思い描いていた将来や夢があったわけではないんです”。帰国後は、実家の手伝いをしながら、両親が飼い始めた大型犬のトレーニングを行った。するとペットブームで近所でも大型犬を飼う人が多かったため、自然とドッグトレーナーであることが噂で広まり、近所の飼い主さん向けにレッスンを開催するように。しかし当時もまだ、ドッグトレーニングは趣味でやっていこうという感覚だったという。


いつの間にか”ペット”が仕事に

転機が訪れたのは、大阪外語専門学校が新たな看板講座として「ペット」を打ち出した時だ。”実家の犬がお世話になっていたトリミング店のオーナーから、専門学校の方が「英語が話せて、ペットの勉強、もしくは仕事をしている人」を探しているとお声掛け頂いて。当時は海外でペット関係を学んだ人はほとんどいなくて、私に白羽の矢が立った感じです”。

留学説明会で高校生向けに留学経験を語ることから始まり、その後、非常勤講師として学生向けにペットに関する講義を任せられた。教師としての経験や資格は無かったが、留学説明会での話の仕方や内容が好評で抜擢されたという。翌年には「ペットビジネス科」ができ、学科長に就任。”英語も好き、ペットも好きな人向けに、夏に北米でペット留学が出来るコースが出来たんです。自分で一からカリキュラムを作成し、講義や学生の引率も任されました”。趣味と位置付けていたペットが、仕事として繋がり出したのだ。

当時、専門学校にはペットのことを教えられる講師が明美さんしかいなかったのだが、”学生が可哀想だなと思って、この子たちのために何か自分が学べることはないかと考えたんです。そこで夏休みを利用して、何度か渡米してペットマッサージを学びました。数回学びに行くことで、ペットマッサージインストラクターとして、学生にも教えてあげられるようになって。当時、アメリカにペットマッサージを学びに行こうって人がいなかったので、日本ではまだ珍しく、学生たちには喜んでもらえました”。

”私、理由がないと旅行に行かないんですよ”と話をしてくれた明美さんだが、ペットマッサージの勉強の際も、4泊5日でアメリカに渡っていたという。”土日のセミナーを受けるために、金曜着で月曜に帰って来る。周りには「東京に出張で行く感覚で、海外に行ってしまうね」と言われましたね。笑”。驚くようなフットワークの軽さだが、明美さんは”学ぶため”であれば、簡単に海も越えてしまう。


仕事が無くなると、なぜか新たな依頼が舞い込む

大阪外語専門学校で3年間学科長を務めた頃、経営方針の変換を理由に「ペットビジネス科」が廃止されることとなった。”「あっ仕事が無くなる」と思っていたら、うちの子が通っていた動物病院で「牧田さん今何をされているんですか?」と聞かれて。専門学校での話をしたら、「うちでスタッフを教えてくれませんか?」と声を掛けられたんです。びっくりですよね。笑”。

週1回、動物看護師向けにパピー教室を任され、そのうち人材育成やマネジメントも手伝ってほしいと依頼された。明美さんはマネージャーに就任することとなり、第三者として院長とスタッフの間で双方の話を聞く立場となったのだ。すると”上司もスタッフも、職場でイライラしていることが多いことに気がついたんです。そこでアンガーマネジメントが必要だなと思い、学びに行きました。勉強をする中で、日本人は物事を「問題思考」で捉えがちだと学んで。文化的に、職場や人間関係が悪くなりやすいことが分かったんです。それだったら「解決思考」が効果的かもしれないと思い、セミナーに通って「解決思考」を学んだり、分かりやすく伝えられるように説明力向上のための勉強もしました”。明美さんは、自分で学んだ内容をスタッフや上司に共有し、スタッフに役職をつけてあげることで働きやすい環境作りに励んだ。

8年間マネージャー職として、院内の人間関係や業務の改善に貢献した明美さん。ところが、”自分がいるといつまでも私に頼ってしまうので、スタッフがこれ以上伸びないなと感じたんです。これはいかんなと思って、正直に話したら、当然ですけど私が辞めることになって。笑 仕事が無くなったんです”。まさかの自分で自分の仕事を奪うような形となったのだが、他の動物病院からも、「牧田さん今何しているの?」と聞かれ、「うちに来てよ、うちに来てよ」と声を掛けられるように。明美さんは、同じような悩みや課題を抱える動物病院が多いことに気がつき、動物病院のサポート業務を展開するようになったのだ。


ご縁だけでずっと生きている

マネージャー職をしていた頃、勤務先の別の獣医さんとの繋がりで、仕事の合間にペットのリハビリセンター設立をボランティアで手伝っていた明美さん。たまたまその場で名刺交換をした大阪ペピイ動物看護専門学校の先生から、うちの教職員にペットマッサージの説明をしてほしいとお願いをされた。明美さんは後日、これが講師に向いているかどうかのテストだったことを知ったのだが、時間通りに始まり、時間通りに終わること、教え方が上手いことが評価され、専門学校の後期授業の講師をお願いされた。

そこでの講義が評価されると、「卒業生にも聞かせた方がいい」とセミナーを専門に行うペピイ関連部署にも紹介してくれたのだ。明美さんが行うセミナーはとにかく面白い!と自然と広がり、牧田先生による「後輩指導セミナー」、「先輩指導セミナー」、「ペットマッサージセミナー」などの口コミが広がる。明美さん自身は営業活動をしていないのだが、「あの人のセミナーは面白いよ」と紹介され、獣医師会のイベントに呼ばれたり、トリマーさん向けのセミナーをお願いされたりと全国各地から声が掛かるようになったのだ。”ご縁だけでずっと生きている感じです。ご縁がものすごく大きくて、自然と仕事をする場を与えて頂いてきました”。

30歳半ばに差し掛かかっていた当時。ドッグトレーニングの仕事は体力的にも収益面でもずっと続けていくのは厳しいと感じていた。今後のことを悩みながら起業塾に通ってみたところ、「牧田さんは動物病院のマネージャー経験もあるし、人材育成を主軸として行ったら?」とアドバイスをもらったのだ。そこで、それまで明美さん自身が学んできた「アンガーマネジメント」、「説明力向上」、「解決思考」のメソッドを取り入れた独自のカリキュラムを作成し、現在は動物病院スタッフ専門の人材育成に関わるプログラムを提供している。

実は繋がっていた

「ペット」と「人材育成」、一見全く別物のようにも思えるが、意外にも共通点が多いという。”海外のトレーニングは、犬を教えるのではなく、飼い主さんに教えるんです。トレーナーではなく飼い主さんがリードを握っても、きちんと言うことを聞くようにトレーニングをする。そのため飼い主さんに「こうリードを持ってください」、「こう合図を出してください」と教える家庭教師スタイル。自分が全部してしまうと、私の言うことしか聞かなくなってしまうので、飼い主さんが自分で全て出来るように指導します。ドッグトレーニングを学んでいた当時から、人に教える、説明するのが好きだったんですよね。「ペット」と「人材育成」は一見違う分野ですけど、実は形を変えながら「人に教える」ことを続けている感じです”。 

その他にも共通点があるという。”犬は出来たら褒める。人も同じはずなのに日本人って褒めないですよね。笑 基本はシンプルなんです。出来たら褒める、分からなかったら教える。教えていないことは叱らない。犬も人も同じです。でも人って、意外と教えていないことが出来ないと言って怒るんです。分かっているだろうと思い込んで上司は怒る。でも「それ教えていないですよね?」と私が間に入って、そこに気づいていただくと納得してもらえます”。

もともと客観的に物事を見ることが得意で、人の間に立つことが多かった明美さん。年代の違う上司と部下、それぞれ価値観が異なることを理解してもらうことで、歩み寄りの機会を提供しているのだ。


相手のために”面白く”

”流れるような人生を送ってきて、熱い思いが無いというか、自分から道を切り開いてきたわけではないんです”と語る明美さんだが、嫌なことは一切仕事でしていないという。”ペットも人に教えることも、セミナーで話すことも好きなことだし、声を掛けてもらったからにはちゃんと結果を出したいという想いは常に持ち続けています”。

今でこそ多くの人が「すごく面白い!」、「こんなセミナー受けたことが無い!」と感想をくれ、一度受けるとリピート率がすごく高い明美さんのセミナーだが、最初はカチカチの単調なセミナーだったと振り返る。”専門学校の講師時代、パワーポイントに書いたことを淡々と説明していたら学生は寝てしまうんですよね。寝かしたらあかんな、でも起きろって言っても面白くなかったら起きひんよなと思って。それ以来、どうしたらセミナーが面白くなるのかずっと試行錯誤して来ました。ビジュアルで訴えたり、ストーリーを盛り込んだり、あらゆる工夫をしましたね。あとは自分が面白い人のセミナーを受けに行って参考にしました”。

明美さんは自分もセミナーを受けに行くことで気がついたことがある。”資料って次の日に絶対に見ないんですよ。笑 セミナーの価値はその日だけ、その場にあると気がついたんです。それからはノートを取らず、記憶に残ったことだけでやってくださいと伝えています。それがセミナーの時間に意味をもたせるので。資料を見直すのは全体の8%と言われているので、それ以外の人のために、如何に印象に残るように面白くするかが大事だと思っています”。

驚いたことに、明美さんのセミナーは一つとして同じものがないという。”タイムリーな話題を盛り込むので、毎回全てバージョンアップして作っています。コアな部分は一緒だけれど、その時々の受講者に最もインパクトを与えられるように心がけています。院内セミナーって基本嫌がられるんですよ。スタッフのみんなは午前中仕事をして、急いで昼食を取ったら休憩なしでセミナーで勉強する。そりゃ眠いよねって思いますよね。だからこそ、受けて良かったと思ってもらえるように工夫しまくっているんです。それが好きなんですよね。喜んでもらうセミナーを作るのが好きなんです”。

友達からは「リサーチの女王」と呼ばれるほど、調べること、勉強することが面白くて仕方がないと語る明美さん。日々、YouTubeで面白いネタがないかなと探したり、対象年齢の人が好きなものや、今の若い子の感性を探求している。”楽しくてやっているので、仕事とは思っていないです。だからこういうセミナーを作って話をさせてもらう仕事が向いているのでしょうね。セミナーに来てくれた人に良かったと思ってもらえるように、牧田さんに頼んで失敗だったと思われないように、頂くお金以上に喜んでもらいたいと常々思っています”。


見つめ直している”流れる人生”

これまで「流れるような人生」を送られてきた明美さんだが、もちろん今までずっと順調だったわけではない。”仕事で大変と思ったことはあるし、ストレスや疲れが原因で顔面麻痺、後頭神経痛になってしまったことも実はあるんです。人の間に立つことが多いので、いろんな意見や不満の声を聞くことが多いんですけど、きっと受け止めきれなかったんでしょうね。だけど、だからこそ何とかしなければと思ったんです。ストレスと思うと仕事が続けられなくなってしまうので。心理学を学んだり、解決思考を学んだりして、今はストレスを感じずに受け流せるようになりました。学ぶことで自分も成長出来るから楽しいんでしょうね”。

これまでは仕事が無くて本当に厳しかった時期はないと語る明美さんだが、コロナの影響が大きかった昨年はさすがに危機感を感じたという。というのも、これまでは紹介してもらうことで自然と講演の機会などをもらっていたが、コロナの影響で全て途絶えてしまったのだ。”今までは紹介を通じて自然と仕事の場が広がっていたけれど、いつ途切れるか分からないことを、今回のコロナで実感したんです。これまでは何となく流れで上手くいくことが多かったけれど、この先も同じように仕事を頂ける保証は無い。なので真面目に宣伝を行わないとなと思っています。取り組むのが遅いんですけどね…笑”。

勉強熱心で向上心が強い明美さん。お話を伺っていると、しっかりされているイメージが勝手に膨らんだが、「ダラけまくっていますよ!」とそんな一面も話してくれました。”もともと個人で仕事をしているので全て自分次第なのですが、コロナ時代は特にダメですね。コロナ前は定期的に病院に通ってセミナーなどを行っていたので、移動も含めてスケジュールや体調管理に気を付けていましたが、今は基本Zoomでやり取りをしているので。それこそ天気さえ関係なく、一瞬でログイン出来てしまうんですよね。メリハリを付けづらいのが今の課題です。現在は会員制のサービスとして、メルマガや動画を定期的に配信したり、スタッフ向けのセミナーをコンスタントに実施するようにしています。


思い描いている今後の姿

今後は自分が主体で動くところから、現場が主体で出来る環境を作っていきたいと考えている明美さん。”中堅スタッフの人材を育てて、自分たちで私のようなことが出来る人を育てたいです。今はスタッフが慕ってくれていますが、自分の年齢も上がってくる中で、20代の子がどこまでこの先もフラットに話をしてくれるのか分からないので。30代くらいのベテランスタッフが、私の代わりに話を聞いてあげられる立場になってほしいですね。そうしたら、もっと良い職場環境作りが出来ると思うので”。

”今は同世代の経営者が多く、相談をされることが多いのですが、今後経営者の世代が若くなってくると、今と同じような関係性を構築するのは難しくなるかなと思っています。そういった意味でも、関わり方を変えていかないといけない。ベテランスタッフの育成に注力するのも一案ですし、今やっていることを基準にしつつ、先を見て仕事内容を高めて変化していかないとなと感じているところです”。

動物病院で新人向けセミナーもお願いされる明美さん。最後に、若い人に伝えたいことを伺ってみました。”今この年齢になって思うのは、「自分」と「他人」をイコールくらいで大切にする必要があるということ。自分のことを大切にしないといけないと思っている人は多いけれど、「自分」ばかりに偏ってしまうと、相手を傷つけてしまったり、我が儘になり過ぎてトラブルの元になってしまうこともあるので。ライフワークバランスが謳われている昨今ですが、自分を俯瞰して見ないと、単なる我が儘になってしまうことが多々あります。苦しい時ほど目の前のことしか見えなくなってしまうので、なるべく外を見て欲しいですね”。

明美さんは第三者として、いろいろな職場や人間関係を見ているからこそ、視野を広げることが大切だという。”井の中の蛙になってしまうと間違った判断をしてしまう可能性もあるので。苦しい時こそ自分が感じている感情が正しいのか、自分で思い詰めてしまっていないか、一度落ち着いて考えて欲しいと思います。私が話をすると落ち着いて、感じ方が変わるスタッフさんも多いので、同じように職場や業務とは関係のない、フラットに話を聞いてくれる人に話をしてみることも大事だと思います。フラットに自分を見れるようになると、新しい見え方が出来るかもしれないので”。


Profile

大阪府出身。
高校卒業後、カナダへ留学。留学中にドッグトレーニングのインストラクターとなる。
1998年 ドッグトレーニングのプライベートレッスンやグループレッスンを行う傍ら、ペット関連業者向けのセミナーを開催。
2003年 大阪外語専門学校の非常勤講師となり、翌年「ペットビジネス科」学科長に就任。同時期にアメリカでペットマッサージインストラクターの資格を得る。
2006年 民間動物病院のマネージャーに就任。
2014年 動物病院のサポート業務を開始。「アンガーマネジメント」「説明力向上」「解決思考」のメソッドを取り入れた独自の動物病院スタッフ専門の人材育成プログラムを展開。
動物病院スタッフ指導数延1000人。セミナー満足度平均95.6%。
その日から活用が出来る現場実践型プログラムを提供し好評を得ている。

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