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写真

仏壇に飾っている父の写真は
私が撮った。
家族で旅行したとき、記念にとカメラを向けたときのもの。
普段は嫌がるのだけど
このときは弟の結婚式で行ったハワイだったし、珍しい母とのツーショットだった。

笑ってよ、と言ったら
普段シラフでは険しい顔が少しだけゆるんだ。
笑顔の入り口。笑顔になる前の顔。

お通夜、告別式までの時間は
本当に嵐のようだった。
母は放心していたし、みんな忙しくて
遺影の選択は私に任された。
それにしても。
探しても探してもそれっぽい写真が見つからない。
写真の箱を片っ端からひっくり返して、やっと見つけたのがこの一枚。最後は痩せ細って別人の様だったので
元気な顔を見ると変な感じだった。
実際、精神的に不安定になった母は
告別式のとき遺影を下から睨む様に見上げながら「は?こんなんお父さんちゃうわ!誰やねん!」と舌打ち気味に大声で文句を言っていた。
本人はこの事を覚えておらず、何年か経った今は
「このお父さんの写真、すごくいいと思うわぁ」
と完全に正反対の感想を何度も繰り返し呟いている。
遺影では切れているけど本当は母とツーショットで、その母は思いっきり目をつぶっている。
タイミングがちっとも合ってない。
そこもすごく好きだ。

仏壇に手を合わせ、顔をあげると
これから笑顔になる父と目が合う。
色んなことがあるけど、大丈夫だなって
何となく思う。
笑顔になることを、
あの瞬間を知っている私はもちろん
家族みんながこの表情をずっと覚えていることが
良かったなと思うのだ。この写真にして良かった。

「死んだ後のことは知らん」
そう言って旅立った父。
いいよね。ね、お父さん。


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