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直木賞のほうが、相応しいのでは?~『推し、燃ゆ』(宇佐見りん)~

発売から1年経っていますが、遅ればせながら読んでみました。

↑kindle版


「推しが燃えた」という一文から始まるこの本ですが、どういう風に話が進んでいくか想像がつかず、先が気になり、思ったよりも早く読了してしまいました。まぁ字が大きい上に、ページ数も少ないのもありますが(^-^;


するする読めたということで、文章力は間違いなくあると思います。21歳にしては、なかなかすごい。ただ、「推し」とか「炎上」の説明が一切ないので、それが理解できない人には、まったく理解できない本です。分からない人の理解を、はなから拒んでいるというか。

というわけで、宇佐見さんの代わりに説明しておくと、この場合「推し」は「自分の一番のお気に入り(のメンバー」、「炎上」は「発信した情報が大勢の受信者の怒りを買い、(中略)ネット上のアカウントに大量のコメントが送られるなどすること」です。いずれも、weblio辞書を参考にしました。



あと、最近の10代・20代の書く文章の特徴ですが、いささか読点が少なすぎます。まぁその文章が、主人公のあかりの思考を現わしているとも言えますが。読点の問題については、以下の記事でも書いています。


あかりは、病院で「ふたつほど診断名がつい」ている子です。借りた物を返すのを忘れ、バイト先では失敗ばかり、片付けものもできない。そんなあかりにとって、推しのアイドルの男の子は、完全に生きるよすがですね。


正直、惜しい子です。勉強が苦手なのに、推しのことは何でも知りたく、試験勉強のようにして暗記するし、推しが出ていた舞台の時代背景について調べた結果、「ロシアの情勢にやたら詳しくなってその範囲の歴史の試験だけ突然点数が高くなったりすることもある」し。何かちょっと歯車がうまくかみ合ったら、もう少し日常生活も学校も、うまくいくのに。


しかし、21世紀のアイドルの応援の仕方って、こういう感じなのかと、何だか圧倒されるというか、何かに夢中になるのも楽じゃないなと思いました。見出し画像は、かつて私が好きだったチェッカーズのチケット(の部分画像)ですが、あの当時にSNSがあったら、何だかすさまじいことになっていただろうなぁと思いました。1980年代に芸能人のファンでいるのは、今から思えばまだまだ牧歌的でした。

もちろんアイドル自身にとっても、今はいろいろ厳しい時代だなと思います。インスタライブのシーンに、特にそう感じました。


物語の最後で、あかりはもしかしたら、ちょっとずつ良い方向に向かえるのかなという希望を感じたのですが、希望的観測でしょうか。でも、そうなるといいなと思いました。


しかしこの作品、直木賞には相応しいと思うのですが、芥川賞にはどうなんだろうと思ってしまいます。まぁ、選考に異議を唱えても仕方がありませんが。


↑ハードカバー(こんなにぶっとい帯も、珍しいと思います)


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