【書籍紹介】日本評論社「しっかり入門・計量経済学:アドバンスト理論編 経済セミナー」

1.はじめに

 2020年新年、寝正月にも飽き、もうそろそろ頭を動かそうと、積読中の「しっかり入門・計量経済学:アドバンスト理論編 経済セミナー」を読みました。

 正直、内容が難しく十分に理解は出来ていませんが、以下の観点から費用対効果や時間対効果が高く、時間を有意義に使うことができたと思います。

 (1)計量経済学の発展的な分析手法を幅広く紹介している
 (2)550円という安価な価格のため気軽に手を出せる
 (3)全47頁とコンパクトで手軽に読める

 せっかく良い書籍を読んだので自分なりに内容を整理したいと思います。本書には、1つの対談と特定テーマに関する5つの記事が収められています。今回はテーマ別の記事について簡単なメモを残しておきます。

2.テーマ記事の概要

(1)パネルデータ分析で活きるファクターモデル(奥井亮)

①ファクターモデルの目的は、複数の変数に共通するファクターの推定です。
②具体例に複数の景気動向指数から「景気」を推定したものを取り上げています。
 ・指数の例)鉱工業生産指数、株価、生産設備稼働率 等
③推定時に用いるデータ形式は「パネル・データ」です。
④単純な推定手法として「主成分分析」があり、この手法を発展させたのが「動学ファクターモデル」です。

(2)マクロ経済政策の波及効果と時系列分析(新谷元嗣)

①時系列データの特徴として、強い自己相関が見られる点があります。
②その特徴を活かしたモデルとして自己回帰モデル(AR)モデルがあります。
 ・最小二乗法による推定が可能なため簡便に推定できるという利点がある。
③しかし、ある経済変数は複数のショックで変動することが想定されます。
 ・例えば、1国のGDPの変動は、中央銀行による金融政策が原因の場合もあれば、民間企業セクターでの技術進歩に起因する場合もありうる。
④ショックの識別のため、多変数自己回帰モデル(VAR)が使われます。

(3)ノンパラメトリックモデルで進む経済実証分析(西山慶彦)

①これまでの計量経済学では、経済理論の知見をもとに、特定の関数形を仮定してパラメータを推定する「パラメトリックモデル」が主流でした。
②一方、特定の関数形がデータ生成の真のモデルを表しているとは限りません。
③真のモデルと異なるモデルで推定されたパラメータにはバイアスが生じます。
④これを防ぐため、特定の関数形を仮定せずに、データから関数形自体を推移する「ノンパラメトリックモデル」が注目されています。

(4)ベイズ計量経済分析入門(小暮厚之) 

①ベイズ主義ではパラメータを特定の値ではなく、分布として推定します。
②頻度主義でも信頼区間95%と分布と一見思われる概念に出会います。
③しかし、これは分布を想定しているのではなく、母集団から標本を繰返し抽出した場合、95%の確率で推定値が含まれる区間を示しています。

  ※正直、今回の記事の中で1番内容が難しく、頻度主義ではなくベイズ主義を採用するモチベーションを理解できませんでした。これまでも「ベイズの定理」や「事前分布・事後分布」等の言葉だけは知っていましたが、その内容は殆ど理解していなかったので、きちんと学びたいです。

(5)ミクロ計量経済分析序説 (松浦克己)

①ミクロデータには、集計されたマクロデータと異なる特徴があります。
 ・例)家計個別のレジャー消費支出が0になるや突然大きく変動する 等
②異なった特徴を踏まえた分析を行う為、専用の手法が別途必要になります。
 1)プロビットモデル
  ・被説明変数に、連続値ではなく、実施しているか(=1)、していない(=0)等の2値データを用います。具体例としては、女性の就業選択などの分析があります。
 2)マルチロジットモデル
  ・女性の就業は、就業形態(正規・非正規・アルバイト等)を考慮すると2値に収まりません。その為、非説明変数に複数(3以上)の選択肢を示す離散値を用いたモデルを用います。
 3)順序選択モデル
  ・非説明変数に複数の選択肢を想定する際、選択肢間に序列がある場合も考えられる。例えば、企業の格付け結果を分析するモデルがあげられます。
 4)トービットモデル
  ・女性の就業選択(働くか働かないか)に合わせて、働く場合の就業時間を同時に分析する必要があり、そうした場合を分析するモデルです。
③こうした手法を用いて、ミクロ計量経済学が発展してきた背景は以下の通りです。
 1)ミクロデータの整備が進み、利用可能になった。
 2)分析ツールが発展して、簡便に入手・利用できる。
 3)マクロデータのみの分析に限界が生じ、分析の必要性が高まった。

3.読了後の感想

 今回の記事はあくまで「入門」的な内容になっています。その為、これらの手法を使って分析を行う場合、理論的背景を深く理解することや統計ツールを使って実践する方法を身に着けることが求められます。今年も継続してデータ分析の勉強を継続する予定のため、こうした発展的な手法についても学んで行きたいです。

 また、本書の類似書籍として、「しっかり入門・計量経済学---回帰分析編 経済セミナー」があります。昨年購入しましたが、積読状態です。どうせ今日明日も特段予定がなく暇なので、早速読み始めたいです。


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