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旅行で揉める女たち

母が「この石鹸あんたのだっけ?使っていい?」と聞いてきた。

うっすら見覚えのあるパッケージ。たしか、いつかの旅行でかぞくへのはお土産に買った気がする。
あぁ、そうだ。大学の卒業旅行に行った時のだ。もう10年以上前のものだけど、石鹸なら古くてもいいか。

それで、その旅行について思い出した。
当時仲良くしてくれていた友人2人とサイパンに行く予定だったのだが、あろうことか当日胃腸炎になってしまい私だけキャンセルしてしまったのだ。
胃腸炎にかかった上に泣く泣くキャンセル料100%を支払い、その後私は別の友人とグアムに行き、そこでその石鹸を買った。

ややこしいのだが私は石鹸を見て、その時の旅行ではなく、その前に自分が行けなかった方の旅行のことを思い出していた。


サイパンへ出発する当日、何の前触れもなく具合が悪くなった。頑張れば行ける!という程度ではなかった。
私が色々と段取りを立てていたので、チケットも3人分私が持っている。が、幸い友人の1人が近所に住んでいたので母がチケットを渡しに行ってくれることになり、2人は無事に旅行に行くことができた。

少し落ち着いたところで、メールで2人にマシンガン謝罪をした。本当に申し訳ない…楽しみにしてたのに。

一番辛かったのは初日。2日目は少し楽になって、いっそう悔しさがこみ上げてきた。私の枕は涙とゲロに濡れた。

しばらくして、友人2人のうちの1人と会う予定があった。
「ドタキャンしてほんとごめんね…旅行どうだった?」と聞いてみた。楽しいお土産話を期待していたのだが、予想外の答えが。

「……地獄だった」

彼女をAとしよう。AがBと合流するや否や、Bはかなり不機嫌だったらしい。もしかして1人ドタキャンしたから?!と思った、と。
だが、飛行機に乗ってる間も現地に着いてからも、Bはずっと不機嫌だった。現地では「別行動しよう」と言われ、ほとんど一緒にいなかったようだ。

その空気に耐えかね、Aはついに泣いてしまったという。
「私、何かした?!なんでそんなに怒ってるの?」とBに聞いたと。
だがまともな答えは得られないまま、終始地獄なまま帰国することに。

それで、Bにも会って話を聞くことにした。やはりまずはマシンガン謝罪だった。Bは私のドタキャンに怒っていたのかもしれないので、頭が地面に着きそうなほど謝った。

「…で、何があったの?」

要するに、BはAに対して実は日頃から鬱憤が溜まっていたらしい。それに加えて、Aの彼氏に失礼な態度を取られた、と。
B曰く、カップルは結局似たもの同士なので同類に思えたと言っていた。

Bがそんなことを考えていたなんて、全然気づかなかった。なんてこった。
ただ、Bの言い分も理解はした。人によってはイライラする人もいるかもなぁ、と思った。

さて、このままAはなぜキレられたのか分からないまま過ごしていくのか?それは気の毒だな、と思った。Bから口止めされなかったので、半年ぐらい過ぎてからAに話すことにした。
話すのも残酷ではある。でもあんなに仲が良かったのだから、仲違いするにしてもAは真実を知った方がいいのではないかという、私の独断で決めた。

話を聞いた後、Aは「そうだったんだ…」と呟いた。受け入れるには時間がかかるけど、とりあえず理由がわかったのはスッキリしたらしい。

…と、いうサイパン旅行。
体調が良くなり別の友人からグアムに誘われ、私は呑気に南国を味わってきた。胃腸炎で仕方なかったとはいえ、お前ってやつは…と自分に対して思う。

グアムで買ってきた石鹸は、サイパンの苦い思い出を蘇らせた。
お土産って、こういう役割があるんだな。

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