【コンビニ人間】 - これは愛の告白 -
普通がわからない。
他者のいうことがわからない
社会に生きる正常がわからない。
幼少期、行動や発言に周りが引いた。
どうしてかは理解できなかった。
そんなことが何度も繰り返された。
いつしか彼女は話さなくなり、何もしなくなっていった。
異常とみられる彼女を「治す」と表現する家族。妹のアドバイスのおかげで人間に擬態して生きてきた。コンビニをとおして世界と触れているときだけ人間になれた。
体の全てはコンビニのものでできていた。
2番目の店長の「体調管理も自給のうち」という呪いは、彼女にとっては福音だったようだ。
コンビニという世界の一部おいて、彼女は最高レベルに優秀な店員なのである。冒頭から音にフォーカスしていて、発生する音でその場の状況を判断でき、客の仕草で次の言動を正確に読む。
プロフェッショナルだ!
ダメ人間代表といえるクズ男が新しくバイト仲間になるが、問題行動の数々にトラブルが発生。そのためクビとなるのだが、その姿をとおして未来の自分の行く末を見ることになる。
「異物は排除される」
人間はいつも価値観の押し付けあいをしている。少しでも枠から外れたら異物とみなされる。
世間から擬態するため、クビになった男を自分のアパートに住まわせる。食事をエサといい放ち、ペット感覚で扱う彼女をみていると、人間と動物の境目がないように思えてくる。
24時間コンビニのために生きているような生活。彼女にとっては、世界の歯車となれる唯一の居場所なのだ。
借金返済に追い込まれたクズ男のせいでコンビニを辞めることになり、お金を稼ぐために就職させられることになる。
コンビニを辞めてからの彼女は、生きる目的を失っていた。風呂も食事もムダ毛のお手入れも、なにもやる気が起きない。
そんな中、面接のために出かけるが、偶然立ち寄ったコンビニのおかげで自分をとり戻す。
「自分はコンビニ店員だ!」
◇◇◇
どれだけ多様性といわれても、普通や常識といった圧力は容赦なく襲ってくる。
ムリやり多様性を受け入れなくもいいとは思う。だけど普通や常識を押しつけるのはやめてほしい。
「自分はこうだけど、あなたはそうなのね」でいいじゃないか。私はわたし、貴方はあなた。それでいい。
◇◇
文藝春秋:2018.9.4
文庫本:176ページ
◇
偏愛ラヴレター。
村田沙耶香さんのコンビニ愛が迸っている。
村田さんにとってコンビニは聖域。
文藝春秋:2016.8.26
オンデマンド:24ページ
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