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かんじますか

つかんだ!

普段、混み合う地下鉄の車内では、痴漢に間違われないよう
両手でバッグをお腹のあたりで抱えている。

ある時、人と人が触れるか触れないくらいの混み具合だったときのこと。
急ブレーキがかかった瞬間、乗客は一斉にぐぐっと傾いた。

自分は、つり革に掴まらず立っていたので足で踏ん張った。
その瞬間、前方でこちら向きの女性が、とっさに私の腕を掴んだ。

へっ? そこ、掴むとこ? つり革じゃないぞ!

女性は、よろけずに済んだが、ハッとして手を離した。自分も驚いた。
普通だったら「すいません」とか、言うのが筋だろう。

自分は、どうリアクションしていいかわからなかった。
掴まれた側だから、謝る筋合いはない。
相手が知り合いなら、笑って突っ込むところだが、見ず知らずの人だ。
しらーっと涼しい顔をしている。

なんだこの空気。出会い頭の未体験ゾーン。車内は混雑しているから、その場を離れることができない。相手は、目を合わせることもなく「何事もなかったですよ~」って、懸命に私との関係値を打ち消そうと必死に振る舞っている感じがひしひし伝わってくる。

ならば自分も、何事もなかったかのように振る舞うべきなのか?
あなた、今、私の腕を掴みましたよね!?」と、クレームしたところで「だから?」と、返されるかもしれない。

「なかった」じゃ済まされないぞ。誰か正解を教えてくれ!すげぇ、もやもやする!怒りではないが、なんだか言語化できない感情。どこかにぶつけたいけど、ぶつける先もない。もし、つかみ返したらコトだ。じゃぁ、グーでいったら暴行、チョキでいったら傷害、パーでいったら痴漢で訴えられるだろう。

そこで「そうだ、この人は“他人の手症候群”なんだ」と、思うことにした。

他人の手症候群とは、近くにあるものや人に衝動的に手を伸ばして掴んでしまう疾患だ。きっと前頭皮質に何かしらのダメージがあったんだ。
そうだそうだ。急ブレーキで、前頭皮質に刺激が加わったんだ!と、
思い込むことで、揺らぐ心を安定化させようとした。

同様に、前頭皮質がダメージを受けると、同じことをクドクド繰り返すようになるという。じじいは、同じ話題をとりとめなく話している。あれって、
タンパク質が不足すると出やすい症状だという。

脳はちょっとしたダメージでも、思いもよらぬ症状が出ることがある。

以前、かかりつけの美容師さんが、バイク事故で転倒し、頭をぶつけた。
一命はとりとめ、無事職場に復帰。おかげでまた髪を切ってもらえるようになった。カットの腕は、事故前と全く変わらない。

しかし、美容師さんの身に変化が現れた。なぜか、酸っぱさを全く感じなくなったという。レモンを齧っても、全く味を感じないという。原因不明。

味覚に関係するといえば、舌にある「味蕾」。視認できないほど細かい受容器だ。味蕾は、長くて数週間で消滅して再生する。なので、味の好みの変化は、味蕾の変化でもあるという。小さい頃、ピーマンが苦手だったのに、いつの間にか食べられるようになるのは、大人になったからではなく、味蕾が変化したから。

ただ、レモンのような強烈な酸味を急に感じなくなったのは、味蕾に起因するとは考えにくい。やはり、脳、それも島皮質に関係があるのではないか。

味蕾の変化について、どのくらいの頻度や早さで起こるのか、いまだ確証は
得られていないという。一説によると、60歳くらいからだというけど。

そうそう、舌って、口に熱いもの入れるとやけどしやすいが、回復も早い。味蕾が入れ替わることをきっかけにピーマンが食べられるようになることもあるらしいぞ。

あと、ピーマンが食べられない子どもに食べさせるには、まず食べられるものを口にさせた際、「噛むとどんな音がするかな?」と、音当てクイズをやると、音に夢中になり、ピーマンも食べるようになるって。味覚から聴覚に気を向けさせることで、味を忘れる仕組みだ。

今度、大人でピーマンが食べられない人を見つけたら、試してみよう。


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