見出し画像

シカ獣害対策をやるシカない!GISを使って地域の問題を解決する

GIS芸人のいりやまです。

GIS(地理情報システム)は、視覚的な表現で使うソフトウェアだということもあり、実際の活用シーンをみてみないと仕上がりがイメージしにくいかもしれません。

そこで今回は、当社で取り組んでいるシカ害獣対策の例を挙げて、具体的なGISの活用方法をご紹介させていただきます。

いりやまが所属するマップクエストでは、シカ獣害対策の取り組みとして、シカの目撃情報を広く集め地図にマッピングしていく「シカ情報マップ」と、集めた目撃情報をもとにシカの分布予測を行い、予測結果を地図アプリとして公開している「やるシカない!」の2つのシステムを開発してきました。やるシカない!では、愛知県内のシカの出現確率をベイズ推定によって算出し、メッシュで表現しています。

|シカの分布予測で使える「MaxEnt」

・生物の分布予測ってどうやるの?

シカ情報マップの研究開発にもご協力頂いている森林総研様より、岩手県のイノシシの出没確率を予測したというニュースが発信されました。

イノシシの分布拡大の結果も気になるところですが、いりやまが注目したのはどのように出没確率を予測したのかです。

やるシカない!では、大学の先生に協力して頂き、目撃情報以外に植生などの情報を使ってシカの分布をベイズ推定で計算したのですが、こちらの動画ではMaxEntを使っています。

・MaxEntとは

MaxEnt とは、生物の分布を、その生物が確認された場所の位置データ(在 データ)を基に、その場所に関するさまざまな環境要因の値から、その生物 が存在する確率を環境要因ごとに評価する統計学的手法です。
それができるソフトウェアを指すこともあります。

不在データ(生物が生息していないことを記録したデータ)を必要とせず、在データのみから分布を推定できる、という点が特徴です。

その生物の情報がない地点の生息適地確率を推定することができ るため、広範囲の生物分布を予測する手法として、環境保全の分野で近年急速に普及してきています。

|分析用データの作成

こちらの記事を参考にシカの分布予測をやってみます。

方針としては、目的は「愛知県のニホンジカの分布の推定」、シカ情報マップに寄せられた直近1年間のシカ目撃情報を使う事にします。

1. 領域データの作成

愛知県全域のポリゴンデータを作ります。国土数値情報の行政区域データをQGISで加工して作成します。

2. 在データの作成

シカ情報マップから、エリアと期間を絞り込んでCSVデータをダウンロードします。ダウンロード機能を作っておいたおかげで、この作業は楽ができました。


CSVファイルの列は分析対象、X座標、Y座標の順に調整します。

続いて、環境データも準備していきます。

3. 植生メッシュデータの作成

生物多様性センターのサイトから、植生の3次メッシュデータを取得します。メッシュのポリゴンデータも合わせて取得。

植生データは、メッシュ毎の植生の区分を持ちます。記事を参考に、メッシュを10種類程度の区分に分類したデータを作ります。

次に、メッシュのポリゴンデータをQGISに読み込ませ、領域データで範囲を絞り込み、愛知県内のメッシュのみを切り出します。

このメッシュポリゴンに、先ほどの植生CSVデータを属性として紐づけます。

植生別に雑に塗分けてみました。山間部が緑色で色分けされていますので、植生データの作成はうまくいったようです。

4. その他環境データの作成

前回作成した植生分布の3次メッシュの他にも、以下の環境データをオープンデータから作っていきます。

【環境データ(背景地図データ)】

・標高
・傾斜度
・年降水量
・平均気温
・道路の幅員
・土地利用細分
※データ元は、{【2023年版】GIS(地理情報システム)の背景地図データまとめ(提供元12/データ数235)}の国土数値情報をご参照ください。

いずれも国土数値情報に3次メッシュデータとして公開されているので、植生分布と同じく愛知県の範囲を切り出していきます。

しかし、こうしてみると分析に利用しているデータは確かに野生動物の生息分布に影響していそうなものばかりですが、シカの分析に使えるのかというと、素人には判断がつかないですね。別のパラメータを使った方がシカの分布推定には良いってこともあるかもしれません。。。対象の生態について詳しい方がより精度高く分析できるのは間違いなさそうです。

とはいえ、上記のパラメータがシカの生息分布に影響を与えてない、ということはないでしょう。このまましかの分析を続行します。

5. 環境データをASCII形式のラスタファイルに変換

ここまでの作業で、シカの在データ(CSV)と環境データ(3次メッシュ)が揃ったわけですが、これで分析ができるかと思えば、実はもう1つ作業が必要です。MaxEntは環境データをASCII形式のラスタデータとして読み込むため、それぞれの環境データをラスタデータに変換していきます。作業自体はQGISを使えば簡単です。

ベクタデータから
ラスタデータへ変換
左上から順に標高、傾斜度、降水量、平均気温を表すラスタデータ

なお、各ラスタデータの解像度、および出力範囲はそろえておく必要があります。

6. MaxEntによる生息分布推定

環境データの準備に手間取りましたが、ようやくこれでMaxEntを使って分析ができます。

MaxEntの使い方は非常にシンプルで、「Samples」に在データのCSVを、「Environmental layers」に環境データのラスタファイルを指定して「Make pictures of predicions」にチェックが入った状態で分析を実行します。これにより分布予測が画像として出力されます。

今回、出力されたシカの分布予測はこんな感じになりました。

大体予想通りですが、新城市や設楽町あたりにシカが多く分布しているとの予測。なるほど、なかなかの精度では?一応、やるシカない!で公開している予測データと並べてみてみると…

シカが多いとされるエリアは概ね重なっているように見えます。

|まとめ

GIS(地理情報システム)を使いこなすと地図をつかって様々な事象を分析することができますが、それをコトバだけで理解するのは難しい、ということから、シカの分布を取り上げてみました。


お役に立ちましたら、ぜひスキお願いします!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?