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「黒海穀物イニシアチブ」がさらに60日延長

国連は2023年3月18日、「黒海穀物イニシアチブ」を延長すると発表しました。このイニシアチブは、以前に触れた通り、ロシアの侵攻を受けたウクライナの穀物について、紛争の影響を受けることなく、途上国などに安全に輸出しようというものです。国連とトルコの仲介で実現し、2022年7月にロシアとウクライナ、トルコ、国連の間で合意されました。延長は昨年11月に続いて2回目ですが、今回は延長期間をめぐって明確な合意が得られず、発表文書には記載されていません。報道によると、「5月18日までの少なくとも60日」で取りあえず決着したようで、前回の120日から短縮されました。協議が決裂して延長見送りの可能性もあったようなので、取りあえず延長で合意できて良かったと言えます。

同イニシアチブは当初は120日の予定で始まり、昨年11月に120日の延長で合意され、3月18日に期限を迎えていました。ウクライナは今回も120日の延長を求めたのに対し、ロシアが60日に短縮するよう求めました。同イニシアチブと同時に、ロシア産の農産物や肥料についても黒海からの輸出を促進する合意が結ばれたのに、思うように輸出が進んでいないとして、ロシアは不満を募らせています。

国連は声明で、「黒海穀物イニシアチブは、ロシアの食品と肥料を世界市場に普及させる合意とともに、世界の食料安全保障、特に途上国にとって極めて重要だ」と主張しています。ロシア産の輸出を促進する合意もあることをわざわざ明記し、ロシアの主張にも配慮しました。さらに、「われわれは両方の合意に強くコミットしており、これらを完全に実行する努力を強めることを全ての関係者に求める」と訴えました。

国連のウェブサイトによると、同イニシアチブに基づくウクライナからの出荷量は3月21日時点で2524万9838トンとなりました。2月1日時点では1928万8350トンだったので、この約50日間で600万トン近く増えました。出荷量の内訳は、トウモロコシが50%、小麦が27%となり、この2作物で4分の3以上を占めています。

出荷先は45カ国となり、2月1日時点の43カ国から2カ国増えました。そのうちの1カ国が日本です。日本に向けてトウモロコシ5万6000トンを積載した船が2月27日、オデッサ港から出港しました。

出荷先としては中国向けが相変わらず最も多く、500万トンを超えました。全体の5分の1以上を占めています。2位がスペイン、3位がトルコ、4位がイタリア、5位がオランダという順位に変わりはありません。これらの国から再輸出されることもあるようなので、これらが最終的な輸出先でない可能性もあります。国連は黒海穀物イニシアチブについて「特に途上国にとって極めて重要だ」と説明しますが、実際には中国や欧州向けが多く、最も困っているアフリカの途上国にはあまり届いていないのではないかとも勘ぐってしまいます。

モスクワからの報道によると、ロシアのプーチン大統領は3月20日、同イニシアチブの延長で合意したのは60日だけで、条件が満たされなければそれ以上の延長はないと改めてけん制しました。ロシアは小麦の世界最大の輸出国ですが、昨年11月から今年1月の輸出量は前年同期比24%増と好調のようです。輸出が進まないとの主張にどれだけ信憑性があるかは疑問符がつきます。

一方、ウクライナ政府の発表によると、同国のデミス・シュミハル首相は3月21日、「このプロジェクトを継続するだけでなく、拡大したい」と強い意欲を示しました。シュミハル氏は「ウクライナは世界の食料安全保障にとって重要な国の一つであることに変わりはない。このイニシアチブが継続されるように、必要な資金を確保している」と説明しました。


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