ダウン症マオリの発達ストーリー第3話。療育セラピーを始めて、娘の現状を知り、母は覚悟を決めた。
*これは一般法人Maorisができあがるきっかけになった一人のダウン症をもつ少女と、アメリカ帰りの療育セラピストとの発達促進ストーリー第3話です。
前回までの発達ストーリー
療育難民となっていたダウン症の娘が、ようやく療育を受けられるようになりました。当時満1歳10か月。療育先は、アメリカで特別支援教育を学び、療育セラピストとして経験をつんだセラピストが営む個人教室です。アセスメントを受けてみて、こちらでお世話になろうと決めたのですが…。知的障害がある娘の認知面の向上を目指す私たち夫婦に対して、身体のケアを行うと言うセラピスト。さて、娘の発達はどうなっていくのか?!
2015年8月某日:初めてのセラピーが始まる
アセスメントの翌週から療育教室がはじまりました。こちらの教室は、(当時は)母子分離スタイルで、母親は娘を送り届けると一旦帰宅します。それまでほとんど娘と離れたことがなかった私は、心配でハラハラドキドキ。数日前から何度も何度も「マオリはこれから楽しいお勉強がはじまるからね」と言い聞かせていました。そしていざ当日。肝心の娘は、母の不安とは裏腹に、当日は泣くこともなく、勇ましく、ルンルンしながら教室に入っていきました。あの時の娘を待つ時間はとても長かったです。
セラピー終了時にお迎えに行き、一目見た途端に娘が充実した時間を過ごせたことがわかりました。嫌だとも言わず、すぐに課題に取り組むことができたそうです。
初めての療育セラピーの内容
先生からは、セラピー初回の目的は娘との信頼関係を築くことだと聞かされていました。「セラピーを受けるこの場所は安全であり、自分は安心できる人間なのだ」。これを娘に理解させるために、初回は身体に触れることはせず、遊びを中心とした課題にするとのこと。私は当初「遊ぶだけか」と楽観的に見ていましたが、実際のところは、人と一緒に遊ぶことにすらついていけていないという娘の現実に直面したのでした。
1)大きい発泡スチロールのブロックを積んで、高くなったら倒す遊び
2)(4種類の)プットイン遊び(サイコロのようなものや、コインなどを箱に開いた落とし穴に落とす遊びのこと)
を何度か繰り返したそうですが、継続が難しかったようです。
人と遊べないダウン症の娘
それまで、療育センターの先生からは「ダウン症の子どもはぼーっとしてしまいがちなので、そうならないように気を付けるように」と言われてきましたが、娘はぼーっとするどころか、よく一人で遊んでいたので、大丈夫かと思い込んでいたのです。
ところが、1人で遊べるようになれば、次は2人で遊べるようにと、遊びにもステップがあることが新たにわかりました。2人で遊ぶためには、相手を理解する力が必要になり、1人遊びよりも難易度があがるようです。娘は1人だとその遊びをこなせるのに、そこに「相手の指示に従い、相手を模倣する」という2人遊びでの行為が加わると、途端に遊びが継続しなくなるようでした。しかし、先生が、娘が飽きないように、娘が楽しくなるようにと、遊びの途中で歌やリズムを入れてどうにか少しならできるようになったそうです。
(比べる必要はありませんが、目安として言うのであれば)定型発達のお子さんの場合は、2歳である程度は模倣ができるようになっている事が多いらしく、セラピストがリードをすれば、その模倣をしながら30分程度は遊べるようです。
自然に身につくのを待つのではなく、すべてを教えてあげる覚悟を決めた
私は第一子である長男に(娘は第二子)「模倣」を教えたことがありません。なぜならば自然にできるようになっていたからです。しかし、ダウン症の娘には、息子が自然に見つけたことを周りが教えてあげる必要があるようでした。きっと模倣だけではなく、この先はこういう事の連続なのだろうと思いました。「先生、息子が自然に身につけることを、障がいがある娘が苦手とするのであれば、逆に全てを一から教えてあげればできるようになるということですか?」と聞いたことがあります。先生は「そうです!」と笑顔でおっしゃいました。長い道のりになるけれど、教えてあげる事で不可能が可能になる。その道の先には明るい希望が広がっている。明るい未来の兆しが私にとっては何よりの救いで、よし、がんばろうと覚悟を決めることができました。
初回のセラピーが無事に終わり「ありがとうございました」と扉を閉めて娘を見ると、「がんばったよ」とでも言いたそうな笑顔を浮かべていました。扉が閉まったのを確認して、「一生、付き合うよ!」という気持ちで娘をぎゅっと強く抱きしめました。
*Maoris組織の詳細やメンバーについてはHPをご覧ください。https://maoris.jp/
*Maorisはオンラインで発達促進を学ぶサークル活動を行っています。セラピストを含む専門家からの情報発信、コメント欄を通してのセラピストとのコミュニケ―ション、そして定期的にセラピストとメンバーでのZOOMお茶会を開催しています。メンバー募集中です。