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ダウン症マオリの発達ストーリー第4話。一言では片づけられない凸凹だらけの身体機能。

*これは一般法人Maorisができあがるきっかけになった一人のダウン症をもつ少女と、アメリカ帰りの療育セラピストとの発達促進ストーリー第4話です。


前回までの発達ストーリー

アメリカで特別支援教育を学び、療育セラピストとして経験をつんだセラピストが営む個人教室に通うことになったダウン症のマオリ。当時1歳11か月。
初回のセラピーでは、定型発達の長男が自然に身につけることを、障がいがある娘は全てを一から教えてもらう必要があることがわかりました。では具体的に何をどのように教えていくのか。今回のストーリーからは、1カ月単位での娘の発達をセラピストの考え方やテクニックなどを織り交ぜながらご紹介します。

2015年度マオリの発達目標

【短期目標】
・身体のケアを目的とした体操やマッサージを少しずつ取り入れられるようになること
・遊びのバリエーションとその時間を増やすこと
・遊びを通して物の名前や機能を学ぶこと
・音声模倣(言語)が上手にできるようになること

【長期目標】
身体の変化、安定した歩行、原子反射の統合、言葉の表出向上

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2015年8月度の発達促進教室でのプログラムと実績


1. 模倣遊び(セラピストの模倣をさせる)
① 粘土:こねる、指先で押す、手のひらで押す、ヘビの真似
② ケーキ(2分):ナイフを使ってケーキを切る、お皿にのせて、食べる
③ 積み木(5分):重ねる
2. 微細運動
① 床でのプットイン(大中小)
② お絵描き(2分):殴り書き、横線、縦線、両手描き
3. 粗大運動
① ボール投げ
4. 身体づくり
① 体幹体操
② 体幹マッサージ
③ 足裏マッサージ
5. 言語練習
① 音声模倣(発音明瞭):やって、ま、やる、くるくる、あいよ、わんわん
②  〃  (〃不明瞭):あけて(「て」)、できた(「た」)、はいった(「た」)

実際の娘の様子

1. 模倣遊び(セラピストの模倣をさせる)
① 粘土:動作と一緒に音を出すことで、楽しく言語をのばすことができた。動作の真似、音声模倣も少しずつできた。
② ケーキ:模倣のコツがわかった様子。
③ 積み木:好きな遊びなので、上手。今後は上にのせる以外のバリエーションに挑戦。
2. 微細運動
① 床でのプットイン(大中小):自立して遊ぶ課題なので(人の指示に従ったり、模倣の必要がない)、本人が好んでおり、とても上手。あえて床に置くことで、上方に行きがちだった視線を下におろしたとのこと。
② お絵描き(2分):上手に模倣しながら描けた。「プップー」など、音を出しながら描くことで、音の模倣もできた。
3. 粗大運動
① ボール投げ:毎回のセッションで1~2回。来月からはボールを転がして足でキャッチする運動を入れる。
4. 身体づくり
① 体幹体操
② 体幹マッサージ
③ 足裏マッサージ
:ほとんど本人が嫌がったため、音楽を流したり、楽しいおもちゃで遊んでいるときにさりげなく実施。
5. 言語練習
① 音声模倣:セラピストの音をひろって真似しようとした。特に最後の音だけをひろって真似をした。

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一か月で見せた変化


【模倣遊び編】
初回のセラピーでは、(家族以外の)人と遊ぶことができなかった娘が、短時間であればセラピストと遊べるようになりました。それを「相手が見えるようになったから(=理解できるようになったから)出来るようになった」と先生は表現していました。
先生は、娘が好きな遊びを課題に取り入れ、そしてその課題を細分化して娘に挑戦させたようでした。
例えばケーキの遊びでは、最初は切るだけのステップを繰り返し練習し、それが8割程度できるようになれば、そこに「お皿にのせる」という次の1ステップを加えるというやり方です。娘はこのおかげで、無理なく取り組め、自信につながったようです。
模倣を、遊びの中に取り込んで学ばせたのは「ダウン症児がもつ『社会性』という強みを活かした」事が後日談でわかりました。それまで「一人遊び」だったのを「社会性」を使って「二人遊び」にして「模倣」を学ばせたとのことでした。

【身体づくり編】
娘の「発達するための」身体づくりの一環で、体幹へのアプローチが始まりました。筋トレと同様、目に見えた効果はあとからついてくるので、この開始1カ月時点での明らかな「変化」はまだ見えていません。しかし、娘の身体には「原始反射」がオンパレードで残っていたことがわかり、自宅で先生と同じマッサージを行うことになりました。

原始反射とは


簡単に言えば、人間が成長していくプロセスの中であらわれる反射的な身体の動きのことです。赤ちゃんは、脳が十分に発達していないので、まだ自分の意志によって身体を動かすことができず、身体を自動的に動かしながら自然に成長して発達していきます。これが原始反射です。いくつか種類があり、身体が発達するとこの反射の動きが「統合」されてなくなります。つまり身体は自分の意志で動けるように脳を徐々に発達させているのです。
しかし、一定の期間を過ぎても原始反射が統合されずに残ってしまう場合、たとえば離乳食が進まない、もっと先では学習生活でつまずくなど、その先の発達にも大きな影響が出てくると言われています。
娘がうまれてからしばらくは、あらゆる発達の遅れはダウン症の宿命だから仕方がないのだと考えていました。しかし2歳前後になった娘をみていると、ダウン症という言葉で片付けられないような複雑な何かを感じていました。当時私は「娘は世界一の不器用ちゃん」と表現していましたが、理由がわかったように思います。
原始反射はオンパレードで残り、身体面と認知面と感情面での発達進度は足並みがそろわず、身体機能は凸凹だらけだったのです。娘は思うように身体をコントロールできなかったのです。
療育にはいろいろな種類や方法がありますが、娘に関しては日常生活での行動を身につけるよりも、それらを通して、脳や身体の機能を発達させることに目的をおいた方法でした。今でこそこのように説明ができますが、当時の私は全く理解がついていかず、なぜ床で遊ばせるのかすらわからないまま、娘の発達と先生を信じる、ただそれだけでした。そのような時の流れの中、娘は2歳のお誕生日をむかえることができました。

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*Maoris組織の詳細やメンバーについてはHPをご覧ください。https://maoris.jp/
*Maorisはオンラインで発達促進を学ぶサークル活動を行っています。セラピストを含む専門家からの情報発信、コメント欄を通してのセラピストとのコミュニケ―ション、そして定期的にセラピストとメンバーでのZOOMお茶会を開催しています。メンバー募集中です。


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