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俵屋旅館の備忘録

俵屋旅館は、事実として、私がいままで泊まった宿で、いちばん"値段が高かった"。

わたしはビジネスにおいても価値をかならずしも即時的にお金で変換することを嫌っているが(※大事な注1)、仮にそれが宿の場合には質の高さだとして、質が高いってなんだと考えた色々をここでのテーマとしたい!

※大事な注1:お金は価値を保存するシステムであって、値段はその定量的評価なので、革新的なインフラであることも分かっている。嫌うのが自分の首を絞めているのも分かっていながら、心から分かるまではあえてそう表現するつもり。

質が高いというのは、一言で、心を動かされることだと(ここにとんでもなくたくさんの意味を詰めて)思う。(※大事な注2)

※大事な注2:それと、ここから備忘録的に記していきたいが、それらは「これにもつながる、あれにもつながる」という話ではなく、そもそもこれとあれをわける隔たりなぞなかったということを前提にしている。本当にはあらゆる空間はいわゆる総合芸術なのだけど、隔たりが私たちの意識には根付いているので、いまある多くの空間では場づくりの際にいろんなパラメータが動かなくなっているのでは?あるいは、どれかのパラメータがどかんと突き抜けているか。

※※ここからは脱線:個人的には、経営は(オフゼリ:ミュージカルと同じで)総合芸術であるというのは前から思っていた。そして経営学は総合学であり、さらには実践知と形式知、抽象と具体の往復であり、つまりすべてだということ!偉そうにいえる立場ではないが、パラメータを故障させている場合ではないかもしれない。

さて、脱線もし終わったところで、備忘録をはじめよう!書いておきたいのは、ひとつに空間、ふたつにまたもやデザイン、そしてやはり"もてなし"。

ひとつめ。空間とか建築とか、私にそこのセンサー身についてるのかよ(ははは!)と思われそうなところだが、正直そのとおりで、センサー欲しい!と感じた。なんだかわからないけど、パキパキ区切られていないのに、いくつかの空間がゆるやかにまとまっている。ここでぼーっとしたい、ここで考えたい、ここで本読みたい、となる。あと、これは想像だけれども、この感覚がわりと人と共有できる、つまり感じ方がずれにくい気がした。おそらく仕掛けは、ちょっとした段差だったり、灯りの色味だったり、置いてあるもの、エリアの広さ....など。

もう一つ、もう少し視点が上がって、お庭と部屋の位置。上から見ていないので配置はわからないけれども、おそらく一階は一部屋にひとつお庭が見えるようになっている。館内を歩き回ってみると「おお、ここに部屋が」と何回かなって、西洋風のホテルにあるような規則的な並びではなかった。次の話ともつながるが、お庭への日の入り方、当たり方まで考えられている感じがした。お庭と部屋の配置はきっと私の思慮のおよぶ数百倍奥が深いんだろう....。

館内の風景

ふたつめ。お庭というか、あれはきっと絵だった。どうやら季節によってデザインが変わるみたいだが、訪れたときは緑が生い茂っているところに日の光が差しているという感じだった。何度でも繰り返すが、これが、絵だった。窓の外には出られないようになっていて、窓の枠で切り取られるような見え方をする。切り取り方は真正面からか、右寄りからか、左寄りからか、あるいは近づいて見るか。

お庭

1枚絵って、こういうふうに考えるのか。ちゃんと外側まで絵は広がっていて、どこを切り取りたいのか?そう思うと、写真はそれと同じ体験である。いま、咀嚼しながら書いていると当たり前のことを言っているような言葉の並びかもしれないが、絵画やデザインの方法論ではないというところが肝。

そして、この絵は刻々と変わっているのだ。視点を変えるのか、時間がたつのを待ってみるのか(たとえば日の当たり方が変わる)、近づくのか、遠ざかるのか。こちらが何かを変えてみているあいだにも、時が進んでいるというのもある。まさに、(ちょうど仏教思想で学んだ)認識論的に縦と横の因果関係のなかで絵が決まるということがここでも言える。

さいごに、"もてなし"。サービス精神とかではない。対応の早さでも、コスパでもタイパでもない。ひとつひとつの所作、言葉、何らかの提供に心があるということ。サービス精神は、それのみではまだ一方的なのだと思う。渡すもののクオリティではなく、両者をつなぐ橋をわたし、受け取った側の心に届き揺さぶられること。

渡すもののクオリティは、ある指標を設定してしまえば一元的にはある程度まで上がるはずだが、他者の心と橋を渡すということは渡す側の内面だけではできないのである。もてなしとは、そういうことなのではないかな?と思った。

仕事でも同じなのかもしれない。良い仕事とは、こちらの持ちもののクオリティが高いことだけでは成り立たたず、むしろ関係性、つまり私たちの心とお客さまの心に橋を渡せているだろうかと問い続けようと感じた。そうすれば自然と、質の高い=心を揺さぶる仕事につながるだろう。

今回はこんなところか、思い出したり、ひらめいたらそのとき書き足しておこう。良いものを見ると良い仕事ができると、たしかに言葉づらでもそんな感じはするが、体感してみると想像以上の納得と感動があった。今回感じたことやそれを咀嚼したことは、書きながら整理されることも多かったので、引き続き備忘録的に色々と書き記していこうと思う。

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