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インディペンデントスモールオフィス研究 - Part 2 : カワズ靴工房 @ 千葉県松戸市みのり台

DATE / Part 2-1 : カワズ靴工房 @ 千葉県松戸市みのり台

カワズ靴工房 / 岩倉さん

カワズ靴工房
〒270-2231 千葉県松戸市稔台1丁目8-12 みのり台の好月 B号室
千葉県松戸市の、オーダーメイド靴製や靴教室等を行う靴工房。1日で完成するサンダルや、革小物のワークショップも行う。

Illustration by emyu

Interview / カワズ靴工房 岩倉さん

(Interviewer / MA+OI Yui Katagiri)

靴を仕事にするまで

片桐 : 本日は千葉県松戸市みのり台にある、「カワズ靴工房」さんにお邪魔しています。お話を伺うのは、こちらで靴作り教室の開催や、革製品の製作をされている岩倉さんです!それではまず岩倉さん、簡単な自己紹介をお願いいたします。

岩倉 : 「カワズ靴工房」、という名義で活動してます、岩倉です。活動は靴作りのお教室の運営がメインで、あとは個人の方からオーダーを受けて納品したり、靴以外に1日で持って帰れるがま口財布、ポシェットなどの革小物のワークショップも開催しています。稀に知り合いのお店さんとコラボした製作活動もおこなってます。

片桐 : ありがとうございます!岩倉さんは、私たちMA+OIがオフィスを構えるシェアビルKAMINARIを管理されている、omusubi不動産さんでも働かれています。岩倉さんご自身もomusubi不動産さんの物件を借りてアトリエを構えてらっしゃるということで、今回インタビューに伺わせていただきました。それでは早速、革細工や靴作りを始められたきっかけを教えてください!

岩倉 : 一番のきっかけは東日本大震災です。僕は宮城県生まれで、学生の頃から仙台に住んでいました。その頃に「靴作ってみたいなぁ」という思いはあったのですが、特に当時の仙台には靴作りを学べる場所や、作れる教室がなかったんです。震災の直前に働いていた会社は潰れ、転職活動をして新しい職場で働き始めるタイミングで震災が来てしまい…。転職先の会社からも、「社屋に影響が出たので正社員雇用は難しいです。」という話があって。関東だったら仕事があるだろうということでこっちに来ました。それなら靴を作ってみようかなと思いまして。
それから、「いつ死んでもおかしくないんだな」というのを経験したので、悔いを残したくないという思いで靴を作れる環境を調べていて。それをやってみようと、関東に来て、働きながら靴作りの教室に通ったっていうのがスタートです。

片桐 : 色々なお仕事を転々とされて、その後今のomusubi不動産さんで働かれているのには、どのような理由があったのですか?

岩倉 : これが今度コロナの影響みたいな感じなんですけど…(笑)。靴教室に通い始めて3年くらいして、靴作りの道で生きていきたいと思ったので、仕事を辞めて靴の学校に通ったんです。その後準備期間があってから、2018年に柏市で工房を構えました。2019年の春から靴教室の正式スタートで運営を開始しました。1年目は生徒さんがコンスタントに増えて、靴の仕事で一本化できるかなと思っていた翌年にコロナが始まりまして。遠くからの生徒さんが辞めてしまい、半分くらい来なくなりしました。当時のバイト先を辞めるか考えていた頃、たまたまomusubi不動産の求人を見つけて。事務のバイトがあったので、それなら靴を作りながら両立できるかなと思い応募したんです。

片桐 : 勤務形態はどういったものだったんですか?

岩倉 : 「週4勤務で出来そうですね」と当時のマネージャーさんからご提案を受けました。関東に来た時に働いていた会社が不動産屋だったんです。宅建資格(以下:宅建)は仙台にいる頃に取ったので、マネージャーさんからも「経験があるから内勤のバイトよりは営業的な働き方はどうですか」という提案があって。

片桐 : 片桐 : 宅建を取られたのは、元々内装や住宅に興味があって…?

岩倉 : いえ、当時2年間アパレル関係で働いていたことがあって。ブラックなセレクトショップの会社だったんですけど…辞めた後に契約社員をしつつ、正社員で働かなきゃ駄目だと思い、職探しをして。見つけたのが仙台のスポーツアパレルのオープニングメンバーだったんです。でも、その会社が各地に事業拡大をして、支店が乱立してたんです。一気に広げすぎて、業績が追いつかなく倒産したんですけど。数ヶ月前から倒産しそうだなっていうのをメンバーと話し合っていて、だからもう仙台支店は営業活動をやらずに「みんな自分の好きな活動しようね」となりまして。友達に相談したら「今から狙える資格で、今までの販売や営業の経験を活かせるものだと、宅建が取れるよ」と。友達の言うままに宅建の勉強を始めて、資格を取得するっていう流れでした。

片桐 : 何か動き出す、始めようと思うタイミングでトラブルに見舞われてしまっていたんですね…。

タカハシ : そうですね。倒産したり、震災来たり、コロナ来たりで…。

片桐 : でもお話されていたように、やはり元々ファッションなどがお好きで?

岩倉 : そうですね、最初のアパレルは、専門学校時代からよく通ってたお店にそのまま就職した感じなんですけど。そこにいたスタッフさんがすごくかっこいい人で。DANNER LIGHTっていう靴を履いていて、20歳くらいのときに僕も真似して買ったんです。それからブーツが好きになって、靴に興味を持っていたっていう流れです。アパレルで働いていて、いろんな靴に触れる機会もあったので、それもきっかけですかね。

片桐 : 今の環境でお仕事をされてから、クリエイターさんと知り合う機会が増えるなど、何かご一緒に活動されたりなどはされましたか?

岩倉 : 今年の5月に、北小金にある『レトロビルsAnkAku』という、4階建てのシェアアトリエでありました。そこの1階に、TOHKOTO(トウコト)さんという、僕とは違って、百貨店等でポップアップをされている革のカバンのブランドさんがあるんですけど。声をかけていただいて一緒に展示会をやりました。Omusubi不動産に入ったからできた繋がりでそういった機会をいただけましたね。働いていて、「実は僕こういうことやってるんです」って話すと興味を持ってくれるので、以前、柏で1人でやっていた時よりは広がったような気がします。



片桐 : 拠点が複数あることによる気分の移り変わりなどで、良い点、悪い点などはありますか?

岩倉 : そうですね、僕の場合こんなにomusubi不動産の近くに来てしまったので、気分の変わりようは少なくなったんですけど。でもこの工房にいる間は、omusubi不動産とは全然別で、それを引きずってここには来てないので。気分は変わりますし、工房モードになるといいますか。それが自分の場所を持つ利点なのかなと思います。

空きビルとの出会い

カワズ靴工房建物外観。2Fはアイラッシュサロンになっている。

片桐 : この物件との出会いは?

岩倉 : omusubi不動産で働いて1年くらい経ったあたりですかね。ここの物件は何も使われていなくて『空き店舗』っていう手書きの張り紙と、オーナーさんの携帯番号が書いてあって。それを見て、当時のマネージャーさんが「まるっと借りれないですか?」っていう連絡をしました。どこも、ゴミが散乱していたり、雨漏りが酷かったり、厄介そうな物件で当時は興味なかったんです。でも、ゴミを撤去したら、なかなかいい空間だなって思えるようになりまして。前の柏の工房の更新時期も絡んでたので。「例えば僕がここを借りるっていうのどう思います?」と代表に聞いたところ、いいねと言ってくれて。来た理由としては、柏だと、メインの柏駅から歩いていける距離の物件ではあったんですけど。人通りはそんなに多くない、視認性も良くない、ポツンと1人でやっているという場所だったので。松戸は、この辺だとomusubi不動産関係の入居者さんで色々な方いるので、その地域の中に入ったら、自分の活動にとってもプラスになるんじゃないかなと。この場所が案外良かったので、思い切って移ってきました。

片桐 : 空間を見た時、「ここにこれを置いて、壁はこういう感じの色にして…」っていうイメージはあったりしましたか?

岩倉 : そうですね、前の工房はもうちょっと広かったので、サイズはコンパクトだけどやれるんじゃないかなっていうのはイメージついてまして。

松鷹さん( 生徒さん / 以下松鷹 ) : 漆喰とか塗ったんですよ。

岩倉 : そうですね、自分1人でやりました。生徒さんみなさんお誘いしたんですけど、なかなかお忙しい方なので(笑)。

片桐 : 機械もいっぱいでお引越しも大変ですよね。

岩倉 :これは引越し屋さんに運んでもらって。棚も前のところでも使っていた、IKEAの簡単にばらすことできるものなので、とりあえず運んでくればなんとかなるかなって。

片桐 : 以前の工房からの移動や、家具を解体する想定はあったんですか?

岩倉 : 元々何かあった時に、ばらせるようにと思い、たまにしてました。移転するとかっていうよりは、正直ゼロから始めて、どれくらい続けられるかもやってみないとわからない状態だったので、いつでも移動できる準備をしてたって感じです。床はクッションフロアのシートの残骸が残ってたんですけど、それも剥がしたままの状態です。

片桐 :その他、工事やDIYなど、内装の変更はどんなことをされましたか?

岩倉 : この青い漆喰は自分で塗って、それ以外は全部白いペンキで塗りました。電気工事は業者さんに依頼して、ダクトレールをつけたり、コンセントを増やしたりですね。あとはブレーカー交換して、この機械達を全部動かしても大丈夫なようにしました。

片桐 : 入り口の暖簾や、壁、お店のパンフレットなどにも使われていたり、今日のマスクやお洋服にも青が多いですが、この色にはどういった理由があるんでしょうか?例えば革靴とジーンズの組み合わせとか、繋がりがあるのかなと思いまして。

岩倉 : 僕が2年くらい前からネイビーにはまっておりまして。ネイビーの漆喰買って、塗ってみたら思いのほかネイビーじゃなかったですけど(笑)。デニムが好きなのもあります。あとはここがすごいカビ臭かったんですよ。なので、珪藻土で臭いが取れるかなという願いも込めて。珪藻土入りの漆喰を探した時に、カラーバリエーションも豊富だったので。

片桐 : 工事期間だったり、お聞きして大丈夫でしたら、工事にかかった費用など教えていただきたいです…!

岩倉 : そうですね、この箱の中を整えたのは2~3ヶ月ぐらいです。1人で時間あるときにコツコツやったので。電気工事が一番費用かかりました。ペンキもそんなに高くないので、20万くらいだと思います。設備は一番最初に工房を始めるときに全部買ってるので、新たに揃えたものは無いです。

教室ならではの関係性

工房のテーブル。棚には生徒さんの名前が貼られたボックスがたくさん置いてある。

片桐 : 生徒さんは皆さんどちらからいらっしゃっているんですか?

岩倉 : よく来ていただいている生徒さんは、柏から松戸へ移っても引き続き通って下さって、とてもありがたい方々です。移転のタイミングで「松戸に行ったら通えないから辞めます」という方も居ましたが。今、主に来て下さる方は松戸と柏の方ですね。あと1人、千葉市の方からずっといらっしゃってる方もいます。

片桐 : 皆さんがここを知られるきっかけっていうのは?

岩倉 : 皆さんホームページですかね。今、いらしてる松鷹さんの場合、他の生徒さんの紹介みたいな感じですかね。

松鷹 : 同僚が通っていて、飲み会に行こうって誘った時に「今日は行けないわ」って言われたので、なんでか聞いたんです。そうしたら「今日靴を作らないといけなくて。」と言われて。それから教室があると知り、丁度、柏で自分の家の近くだったので。僕は、40歳のときにやりたいことを全部やるっていう決まりを作っていたので、面白そうだから話だけでも聞こうと思って。話聞きに行った時に「正直作れる気がしない」という話をしたんですけど、「おにぎりが握れれば作れますよ。」と言われて。

片桐 : 「おにぎりが握れれば作れる」っていうのはすごく気になるんですけど、この言葉はいつも岩倉さんが言われてるんですか?

岩倉 : 自分の師匠も同じこと言ってまして、その大師匠にあたる方も同じようなことは言ってたっぽいんです。

松鷹 : それを真に受け、やりますと言いましたね(笑)。

片桐 : 松鷹さんは、通われてどれくらい経たれるんですか?

松鷹 : 3年ぐらいです。

片桐 : 今までもう何足か靴を作られているんですか?

松鷹 : 実はこれで2足目です(笑)。

岩倉 : 松鷹さんは合間合間で靴以外のものをたくさん作られてますね。

松鷹 : 急にカバンを作ってみたくなったり、小物を作ったり、あとは財布が壊れてしまったら直してみたり、色々していまして。

岩倉 : 靴教室だからといって、靴だけを作ってもらう訳ではなくて『この場で作れるものだったら、何でも作っていいよ』という、そんな空間です。靴教室が始まって、一番最初の生徒さんは多分4足くらいは作っていて、それ以外にサンダルを作ったりもされてますね。

片桐 : 皮に関連していたらなんでも自由に作れる場っていうのが楽しいですね。松鷹さんはこの工房に通い始めてから、革製品が今までより気になったり、日常の中で作りたいものが浮かんできたり、そういった変化はありましたか?

松鷹 : そうですね、靴屋さんに行った時の靴自体の見方も変わりましたし、普段プログラム等、平面的な作業をしているので、立体的で、手で触れるものをつくるのは楽しいですし、作ってみたいものも色々出てきますね。

片桐 : 日常の視点が増えるのは、生活も楽しくなりそうですね。私の入居しているお部屋はオフィス仕様なので、これからより街に開くための試みは考えているのですが、まだ人が来るというのがメインではないんです。なので、教室という場はとても楽しそうだなと思ってお話を伺っていました。岩倉さんは、普段からこの工房内でご自身の製作もされつつ、生徒さんにも教えつつといった過ごし方をされているんですか?

岩倉 : 僕は販売をメインでやってないので、自分がもの作りをすることは少ないですね。自分用に何か作ったり、サンプルを作ったり。あとはオーダーを受けた時に、靴教室以外のタイミングでそのオーダー品を作る、という感じです。

片桐 : 沢山作って売るのではなく、一職人であり、先生であるということですね。自由でアットホームな雰囲気は岩倉さんのお人柄からも伝わりますが、意識的に目指されているんですか?

岩倉 : そうですね、自分で靴を仕事にしたいと思ったとき、どういう方向でやっていくか色々考えたのですが、靴教室をやりたいなって思ったんです。というのも、僕が最初に通っていた靴教室が本当に自由で面白かったんです。なので、その靴教室が憧れではあるんですけど、楽しく物作りができる場を設けられればなっていうところで始めたので。

片桐 : 教室というのは、普段違った生活やお仕事をされているお客さまとのコミュニケーションが生まれる形態ですもんね。

岩倉 : はい、楽しいですね。やっぱり自分の知らない世界の方々が多いので、松鷹さんの話も面白いですし。

松鷹 : 自分もそうですね。僕はシステムエンジニアなので、仕事で関わってる人たちっていうのと、ここで知り合った人とか、omusubi不動産関係の方とか、やっぱりものの考え方や物の見え方が違う気がします。

片桐 : 靴をテーマに色々な業種の方が自然と集まってくるんですね。老若男女問わないアイテムですし、受け皿が広くて素敵な場所の作り方だと思います。普段はこの空間の中に、1教室で何名くらいの方がいらしているんですか?

岩倉 : 大体一つのクラスに2人って感じです。正直今は生徒さんもそんなに多くないので、ごくごくたまに1Dayワークショップと靴教室の時間を共有することはありますね。そうなると、4人までは対応できるようにしてるので、最大4人です。

片桐 : みなさん結構ワイワイお話されながらやられてます?例えば普段から時間と生徒さんが固定されているのか、毎回違う生徒さんと教室を受けることになるのかみたいな。

岩倉 : 基本的には、例えば今日だったら、土曜日の午前クラスで2人が固定。たまに他のクラスの方が1人来たりとかって感じなので、主には固定されている感じですね。

松鷹 : なかなかみんなで揃うタイミングっていうのはないですね。

岩倉 : 基本ないですね。でもやってもいいのかもしれないです。僕が昔通ってた靴教室は温泉旅行をやってましたね。コロナ始まる前とかは、浅草ツアーとかをやれたら面白いなと思ったんですけど。浅草に革屋さん、靴の道具屋さんが結構多いので、みなさんと浅草ブラっとできたら面白いなと。

片桐 : 浅草、問屋さんたくさんありますもんね!ツアーってすごく楽しそうなコンテンツです。

今後の展開

片桐 : 他に、こんなことやってみたいなど、今後の展開で何か考えられていることはありますか?

岩倉 : 実は見学にいらっしゃってる入会希望の生徒さんの中で、高い技術を求められることをやりたい方が多くて。でも、僕の今のレベルだときちんと教えるのがちょっと難しいなって思ってるんです。なので、深掘り勉強をしようと。靴の作り方のアプローチっていろんな方法があるのですが、僕が学んできたところは、技術というより足に合わせる方向からのアプローチでして。靴作りのメインが、底付けと言って、靴のソールを手で縫っていくのが昔ながらの作り方で醍醐味だと思うんですけど、そこを独学でやってきた感じなんです。なので今、そういうところを学びたいと思っています。無事学ぶことができたら、今までやってきたことと合わせて、もうちょっと高いレベルの靴教室にしていきたいというのが目標ですね。あとは靴作りで一本化したいっていうのと、仙台には戻りたいなっていう気持ちがあります。仙台で自分の工房を開いて、もの作りの場を作れたらっていうのも一つの理想ですね。

片桐 : よりスキルアップを目指されているんですね。

街との関わり

片桐 : 仙台には無かったと最初に仰っていましたが、靴教室というのは珍しいものですか?私は今まで聞いたことがなかったので。

岩倉 : そうですね、ここは1階なので、通る方も最初のうちは気にしてくれていて、傍においてあるパンフレットをよく持っていってくださいました。今でも「ここにこんなのあったんだ!」みたいな感じで入ってくる方はいるんです。なので、物珍しい感じはありそうですね。本当に何やってるか謎な場所なので、入ってくる方は相当勇気ある方だなって僕は思います(笑)。

カワズ靴工房外観。ネイビーの暖簾と、革でできた靴の形のOPEN札がポイント。

片桐 : 外を歩いていて、声を掛けてきたり、お話をされにくる方は結構多いですか?

岩倉 : そこまで多くはないですね。でも暖かい時期に入り口を開けている時があるんですけど、開けていると、ぷらっと見ていく方がいらっしゃいます。お話ししながら、「もし興味あったらどうぞ」みたいな感じで。それで改めてワークショップをやりに来てくれたりとかもあるので。

片桐 : 気にされている方に、「こんにちは!」って感じで行くんですか?

岩倉 : いや、どこまで積極的にやったらいいかなと…。「見ていいですか?」みたいな感じで入ってきたら「こんにちは」みたいな声かけるんですけど…少しご覧になってる方だったらちょっとだけ話しにいくって感じですかね。積極的にガツガツいくアパレル店員みたいな感じではないです(笑)。

片桐 : そんなイメージあります(笑)。覗かれる方とか、この辺りを通られる方の年齢層などは?

岩倉 : 本当バラバラですね。若い方もいれば、本当におばあちゃんとか。ご年配の方ほど女性が多いですかね。

片桐 : この辺特有の良いところや、家族連れが多いなとか、静かとか、なんとなくこのエリアの空気感はありますか?

岩倉 : 年齢層は高めですね。松戸の中でも少しマイナーな場所なので、通られるのは元々この辺りに住んでるような地元の方って言ったらいいんですかね。この前を歩いてく方は若い方は少ないです。でも今、あかぎハイツにsmokebooksさん(本屋さん。古書・古本・新刊・雑貨・文具を販売している)とか入っていて、そのお客さんは八柱駅からここを通る率も高いので、若い方が全くいないわけではないですけど。

片桐 : 程よく落ち着きながら、クリエイターさんも多い地域ですね。ありがとうございます。ちなみにインタビューをしつつ、空間を見ながら思ったのですが、こちらのお部屋、水回りは…?

岩倉 : そうなんです、トイレも手洗い場も外の階段を上がった先なんです。本当に当初、募集どうしようみたいな話をしてたんです。使いにくいね、なんて最初言ってたんですけど。

洗い場は外階段を登った2階にある。

岩倉 : 使ってみたら意外と大丈夫でしたね。

岩倉 : この工房は僕の趣味部屋の延長みたいなものなので、すごく落ち着きます。

片桐 : 自分がやっていて楽しいことをしているところに、みんなが来てくれてっていう感覚ですか?


岩倉 : そうですね。

空間作りのこだわり

片桐 : よりこの空間についてお伺いしていきたいんですけど、奥の方とかは倉庫みたいな使用のされ方ですか?

岩倉 : はい、木型、製作中のもの、本とかを置いていて、本当に物置スペースにしてます。汚いです。あんまり人にお見せできる状態ではないですね(笑)。

片桐 : ではバックヤードがあるというより、基本はこちらのテーブルがある方で作業を?

岩倉 : そうですね、こっち側が普段いる場所です。

片桐 : 入り口の方も拝見して良いですか?ラックがいくつか置いてありますが。

岩倉 : はい。ここはワークショップで製作できる物のサンプルや、パンフレットなどを置いていますね。

片桐 : お客さんがいらした時、「こんなものが出来ますよ!」といった感じで?

岩倉 : そうですね、興味を持って入って来られる方がこのサンプルを見たりするので、サンプルを使用して説明してます。全て工房にしてしまうと、覗きに入ってくる人もいないかなと思ったので。

片桐 : みなさんが自分主体で活動されている現場はこだわりが詰まっていて、お話聞いていて楽しいですね。

岩倉 : そうですね、僕も人の作業場っていうものに興味があって、他のシェアアトリエとかに行くのはすごく楽しいです。自分と違うもの作りの場は見ていて面白いですね。

片桐 : なんとなくの、ここにいらっしゃる1日のスケジュールみたいなものを教えていただけますか?

岩倉 : 大体朝9時くらいにここに来ます。教室をやるときは10時スタートなので、それまで片付けたり。土曜日の場合ですと、10時から18時半までが教室ですね。1コマ2時間半、30分のインターバルがあって、クラスが始まっての繰り返しです。18時半に教室が終わって、その後は20時くらいまで自分の物作りをしてます。そんな感じで1日が終了ですね。
日曜日ですと、特に用事がなければ同じくらいに9時から10時の間くらいにここにきて、20時くらいまでひたすらものを作ってます。その中でワークショップがあると受けに来る方もいるんですけど、そんな時は2~3時間をワークショップに充ててっていう感じです。

片桐 : ちなみにデザイン画とかは描かれるんですか?

岩倉 : 描いてないですね、描けたらいいなーとは思うんですけど。ただ型紙作るときに、パターンを作ります。

片桐 : パターンの時点で大体形は頭の中でイメージ出来ているみたいな感じですか?

岩倉 : そうですね。雑誌を見てこういうデザインにしようかなみたいな。あとは、靴のデザインって基本が決まっているので、生徒さんからこういうデザインにしたいと言われたらそれに合わせて。あとは木型っていう、どうしても変えられない大元があったりするので。それに合わせてパターンを作っていくっていうイメージです。

片桐 : ありがとうございます。普段作業中は、何か音楽を流すような、環境作りのこだわりはありますか?

岩倉 : これがですね、僕がどんどんおっさんになっていくにつれて、音楽よりもラジオの方が好きになってきておりまして(笑)。しかも、おっさんのやっているラジオが面白いという。


片桐 : ちなみにお好きな放送局は…??

岩倉 : TBSラジオ、ニッポン放送…AM寄りです。芸人さんとかの放送ですね。昔はJ-WAVEを聴いていたんですけど、いつの間にかどんどんAMになった感じです。歳とりました(笑)。

片桐 : なるほど(笑)。私はJ-WAVE大好きリスナーなんですけど、もしかしたら数年後私もAMリスナーに…

岩倉 : いや来ない方がいいですね、何のタメにもならないです(笑)。

片桐 : ラジオ特有の緩さがいいんですよね(笑)。ちなみに何で聴かれているんですか?

岩倉 : radikoで聴いてますね。

片桐 : それは個人の製作時だけじゃなくて、教室の時にも流してるんですか?

岩倉 : 流してますね、ワークショップで初めてのお客さんが来るときには、さすがにAM流してるのは申し訳ないなと思うので、J-WAVEに…

片桐 : そういう切り替えなんですね(笑)。

岩倉 : お付き合い長い方は、「この時間ナイツのラジオしか聞いてねぇな」と思ってると思うんですけど…。そんな感じです(笑)。あと、土曜の夕方にいらっしゃってる生徒さんは僕と同年代で、昔聞いていた音楽とかが近かったりするので、そういう音楽話になったときにはラジオではなくてAmazonMusicとかで流してみるとかしています。

趣味を教えてください!

片桐 : ちなみにこれ、皆さんに伺う予定なんですけど、好きな音楽、バンドだったり、ジャンルあったりしますか?

岩倉 : 僕はジャンルで言うと、ジャージーヒップホップがすごい好きでした。仙台にいる頃は、週1くらいでHMVに行ってレコード見たりとか。

片桐 : ヒップホップって全然通って来なかったんですけれども、それはちょっと古い年代のカルチャーなんですか?レコードとおっしゃっていたので。

岩倉 : いや、今でもこのジャンルは生きてると思うんですけど。僕も今はあまり音楽を聴かなくなっちゃったもので。本当にジャズとヒップホップの融合した感じなんですが、有名なところだと、ブルーノート系の方でロバート・グラスパーって方がいまして。ロバート・グラスパーってジャズピアニストなんですけど、二つの顔を持っていて、ジャズの方で行くときはロバート・グラスパートリオという名義で活動、ジャジーヒップホップの方だと、ロバート・グラスパーエクスペリメントっていう名義で活動していたりするんです。

片桐 : 初めて聞きます!周りに同じジャンルを好きな方はいらっしゃいましたか?

岩倉 : いないですね。でも僕の周りにヒップホップが好きな方はいたので。それから、日本でジャジーヒップポップをやっている、GAGLEっていうグループがいるんです。仙台出身の3人組なんですが、友達のいとこが、たまたまGAGLEの、DJやってる方で。どっちかっていうとちょっとメロウな感じですね。

片桐 : 聴いたことないジャンルなので新感覚です。せっかくなので流しつついきましょうか!例えば他に映画だったり、小説だったり、パーソナルな部分まで伺いたいです。

岩倉 : 好きな本は、本当に昔の話になっちゃいますね。東野圭吾さんの小説はいろんなものを読んでいました。特に加賀恭一郎シリーズがすごく大好きで。ドラマの新参者とかにもなってるあれですね。小説をよく読んでたなって感じですね。学びのある本は全然読んでません(笑)。

片桐 : 小説で世界に入るのがお好きなんですね!学び無いことは無いと思いますけど、想像力が豊かになりますもんね(笑)。雑誌などは、やはりファッションや靴の専門誌などを?

岩倉 : 読んでますね、今はもう義務として買っています。(笑)。

片桐 : 毎月ですか?

岩倉 : LASTという靴の雑誌が半年に1回しか出ないんですけど、発売したら買う感じで、情報収集としてやっています。

片桐 : ありがとうございます。その他、最近流行ってることなどありますか?

岩倉 : これはねー…。僕、全然美味しんぼを通ってこなかったんですよ。それが今、YouTubeで配信されてるんですね。たまたま見たら、すごく面白くて。多分大人になってわかる漫画だと思うんですけど、美味しんぼにハマっています。あとはこれずっとですけど、孤独のグルメのドラマが大好きで、しつこいほど観ています。

片桐 : グルメ系はハマりますよね、なんか幸せな気持ちになります。漫画だと、白黒でこんな美味しそうに表現できるのかと。私も一時期ハマっていました。漫画とドラマでワカコ酒観ていましたね。

岩倉 : あれもいいですよね(笑)。あとは落語を聞いてます。元々ラジオを聞く前は、もの作りをしてるときに落語を聞いてたんです。耳だけ空いてるのでちょうど良くて。映像だと手が止まっちゃうので。でもそのあたりから徐々に徐々にAMラジオに行くようになって…。



片桐 : ちょっと近いものがありますね、落語家の方とかラジオされていたイメージが。

岩倉 : 定期的に聞きながら作業をしています。おっさんの趣味ですね本当に(笑)。

片桐 : この工房でのルールとか、決めてることとか、毎日ここは必ず綺麗に磨くみたいなものはありますか?

岩倉 : 朝に片付けますね。1人のときだと、整理整頓してから帰るのが疲れちゃうので。最低限刃物とかは片付けます。結構散らかってる状態の方が多いですけど。

片桐 : ちなみに、度々鳴くあの鳩時計にはこだわりが?

岩倉 : 鳩時計は時間の確認用です。5分前にセットしていまして、あと5分だよっていうのがわかるようにですね。

片桐 : 音が可愛くていいですね(笑)。あ、それからカエル!お好きなんですか?玄関の方にもぬいぐるみがいくつか。

岩倉 : そうですね、それもはまってるものにもなるかもしれないです。カエルが好きというよりはカエルのキャラクターを集めてるっていう感じで。「カエルのピクルス」っていうキャラクターで、もう27、8年前に発売されているやつなんですけど。たまたま山梨の土産物屋で、黄色のカエルのぬいぐるみを買ったあたりから、見かけるたびにどんどん集めたくなってきまして。

片桐 : インスタのプロフィールに書かれていた「カエル」っていうのはもしやこのキャラクターの収集のことですか??

岩倉 : そうです。いやらしいことに、どんどんいろんな種類出してくるんですよ。昔はそこまで種類は増えてなかったんですけど、アイドルが「これ集めてます」と公言したら、メーカーも頑張って出してきて。なので、もう気に入ったものだけ掻い摘んで集めてるんですけど。ちっちゃいサイズのものをメインで集めてまして、座って16センチくらいのものなのですが、それがまもなく家に100匹くらいになります。カエルというよりは、この子を集めています。

カワズ靴工房のポイント


・趣味の工房にみんなが遊びに来ているという意識で教室作りがされているため、自由度が高い。
・入り口にサンプルを展示するスペースを作るように、通行人がアクションを起こすきっかけ作りが大切。
・靴を仕事にしたいという願いから出てきた形態が、販売ではなく「教室」であったこと
・「靴」という、生活に必須であり、広く、歴史の深い受け皿

人を招くことが前提の工房ということで、取材をしていて学びになる点が多かったです。生徒さんが、靴だけではなく、小物づくり、日用品の修理もしているという、自由気ままなスタイルが素敵でした。1日体験というメニューもありながら、「習い事」の感覚で、ゆるく長く通われている方が多い印象です。入り口にも、まだ関わりのない新規のお客様である通行人が、扉を開けたり、タカハシさんに声をかけるフックになる工夫がされていました。
靴は誰もが使用するものであり、歴史の長いものです。そんな靴というテーマを、「たまに行く店」ではなく、コンスタントに人が訪れ、触れることができ、興味や理解を深める「教室」としてお仕事にされているという点が素晴らしいなと思いました。
[Yui Katagiri]

インタビュー後記

岩倉さんのお人柄がよく現れている優しい教室が開かれていて、生徒さんの笑顔の理由がわかるインタビューでした。インタビューの日には、生徒さんも1名いらっしゃって、度々生徒さん目線でのお話も伺うことができました。
1日で開催できるワークショップ、ぜひ浅草KAMINARIでも開催していただきたいです。こういった企画から、クリエイターさん同士が繋がっていったり、シェアアトリエ同士での交流が増えていくことを願いながら、また次のインタビューへと向かいます。
次回の更新もぜひお楽しみに!
[Yui Katagiri]


【内観イラスト】

emyu
Instagram ▶︎ https://www.instagram.com/emyu_247/

【研究会メンバー】

MA+OI / 片桐 結
Instagram ▶︎ https://www.instagram.com/yui_katagiri/

MA+OI / 山下ぼぶ
Instagram ▶︎ https://www.instagram.com/y_bob__/

Fuelwa by MA+OI / Hinano
Instagram ▶︎ https://www.instagram.com/nano_fskh/


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