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川崎ゆきお超短編小説 コレクション 5

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#小説

神秘体験

神秘体験

 不思議な体験。神秘的な体験。これは妖怪を見たとかの露骨なものではない。
 吉田は夜中、目を覚ました。トイレだろう。その夢を見ていたので、それが原因でトイレへ行く夢を見ていたのだ。夢の中で用を足したのだが、実は寝床でやっていたと言うことではない。
 また、用を足す前の夢で、寝床から立ち上がり、トイレの方へ向かおうとしていた。室内は暗いが、それでも電気を付けなくても分かる。念のため、枕灯を付けた方が

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山里暮らしの本家

山里暮らしの本家

 鈴原源四郎は山里で暮らしていた。そんなところに住んでいても不便はない。田畑もあるが耕していない。というよりも、この一帯を治める領主でもあるのだから鍬仕事の必要はない。
 そんなところでは国を治められないはずだが、治まっている。源四郎の人柄ではない。源四郎にはその力がなかったのだ。
 牛取っているのは鈴原家の人達や、鈴原家に嫁いだ娘の実家筋。さらに鈴原家の家臣も力があり、こちらの方が強いかもしれな

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絵空事

絵空事

 新たな希望になるのではないかというようなものの芽生え。竹田は始終それを感じているのだが、そのものが、そうなる可能性は低い。
 しかし、見落としたり、見過ごしていると、いつの間にかその芽が大きくなり、抜きんでた存在になることも知っている。
 そのときは慌てる。もっと初期のうちから接していた方がよかったのではないか。それは既にある出来ものよりも、その段階を順を追って追いかけている方が、より親しみを覚

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平衡感覚

平衡感覚

 一寸良いことがあった翌日、桜木は良い気分だった。
 今度、その一寸した良い事が起こるとしても明日ではない。もう少し日を置いてから。それに一寸良いことは毎日は望んでいない。
 特にその翌日は、もう普通でいい。昨日の余韻がまだ残っているので、すぐに次のが来なくてもいい。これは良いことだけに注目しているが、その裏で悪いこともやってくるだろう。
 これは災難のようなものだが、桜木が原因の因果応報。しかし

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段階を楽しむ

段階を楽しむ

「杉田氏は期待以上の働きでした。これは凄いものがあります。そこまで期待していなかったのですが、それを遙かに越えています。二段か三段」
「じゃ、もう終わりだね」
「大活躍ですよ。凄い人材だと改めて思いました」
「だから、もう終わりなんだ」
「どうしてですか、杉田氏に何か弱点でも」
「私もその活躍は聞いた。完璧だ。弱点などない。よくそこまで辿り着けたものだ」
「だったら、終わりじゃなく、これからますま

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小勢力

小勢力

 吉岡家が領外で戦をする時、付いてくる部隊がある。吉岡家の家来ではなく、その周辺にいる豪族のようなもので、規模は小さいが独立した勢力。
 そんな勢力がいくつかあり、吉岡軍に加わる。これは付き合いのようなものだが、別に行かなくても良い。
 吉岡家としては、それら小勢力を滅ぼしたいのだが、そうはいかない。土地に根ざしており、兵は少ないが、百姓達との縁が深く、それらが加わった場合、それなりの兵力になるし

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自動運転中の雑念

自動運転中の雑念

 雨で気圧が下がったのか、石嶺は調子が悪い。
 普段から悪いのだが、それが重い。といって日常の暮らしに影響するわけではなく、普段通りにやっているが、無理が出来ない。
 気合いが足りない。だが、いつもやっていることなら出来る。維持出来る程度で、積極的な態度ではないが。
 雨で鬱陶しいのだが、そんな日でも調子の良い時もある。これは何か良いことがあるためだろう。
 その日は、そんなこともないので、惰性で

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外界内界

外界内界

 信号を渡れば外界に出る。外海と言ってもいい。信号の先、すぐに海になるわけではない。この海は「そとうみ」で、語呂としては良い。
 本当の海ではない。また外界、これも内界ではなく外界。内ではなく、外。
 しかし、信号の向こう側の町並みは見えている。信号の手前の風景とあまり違わない。川でも此岸と彼岸の差がなかったりする場合もあるが、一寸様子が違う。途切れるためだ。
 だが、青になり、道路を渡るだけの距

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孤高

孤高

「平田氏は好きなことを言い放題なのですが、それでいいのですか」
「あの人が何を言おうと問題はない」
「しかし、聞き捨てならぬことを大声で」
「声が大きい人だ。それに声が高い。声高」
「でも、誰も何とも言わないのはどうしてでしょう。特別な人物なのでしょうか」
「まあ、別だろうねえ。平田氏は一人だ。孤立しておる。だから憚らずに発言出来る」
「そうですねえ。何処にも所属していませんねえ。私達は仲間内の配

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期待外れの期待

期待外れの期待

 期待はしていなかったが、やはりその期待通りになった。
 しかし、もしかして、その期待を裏切って、期待しなかったような良いものではないかという期待も少しはある。
 期待だらけで、どの期待が本当の期待なのかが分かりにくいが、岩村が最初に抱いたイメージや、これまでの経験で、これは期待出来ないが、まずまずだろうという程度は分かっている。
 これは印象だけの問題ではなく、そうなるパターを多く見ているため。

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晩秋の頃

晩秋の頃

「春は桜、秋は紅葉だね」
「どちらがお好きですか」
「どちらも良いが、桜の花が散っても葉は残る。紅葉は葉そのものが落ち、あとは骨だけになる。こちらの方が淋しいねえ」
「じゃ、春の花見の方が良いと」
「一年も半分に達しておらん。まだまだその年は充分ある。しかし晩秋の頃はもうすぐ十二月。あとひと月しかない。終わりだよ。だから紅葉の頃は、今年もそろそろだなと、感じるね」
「感じますか」
「いや、暦を見て

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魔界入り

魔界入り

「吉峰神社の神主が魔界に入ったらしいぞ。これは祝うべきか、呪うべきことなのか、よう分からん」
「坊主のように悟りを開いたのではないのか」
「神主もか。あまり聞いたことはないが」
「で、どんな魔界だ」
「神様と交流出来るらしい」
「神主なのだから、日頃からやっていることだろ。そのための神主なのでな」
「その神様というのが妙な神様らしい」
「あの神社、御神体は何だった」
「ああ、スサノウノミコトじゃ」

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柿の影

柿の影

 村の辻。今はもうそんな村時代ではないが、その頃に出来たのだろう。祠がある。石造りで丈夫そうだ。
 石田はそこで地蔵盆があるのを知っていた。毎日のようにその裏道を通るため。
 少し遠回りになるが、表道よりも、村の路地伝いに行く方が景色が良い。
 大きな農家の庭が見える。ブロック塀で内側までは見えないが、二階の窓などはよく見える。そこに立派な庭木が立っており、二階の屋根まで届いている。松の木だ。
 

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犬棒

犬棒

 少し早いが、良いものと遭遇した。これはいけるかもしれないと思ったのが、半信半疑。もう少し様子を見ないといけないが、これで決まるようなら、そろそろ準備をしておく必要がある。駄目だった場合はそのままスルーすればい。
 それにその日、北村はやる気がなかった。今日は休んでいるような感じで、期待もしていない。そのため、それなりに自由に振る舞える。得たいものがない時ほど、自由なのだ。
 そして様子を見ている

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