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教授の伏線

大学に好きな教授がいる。耳の垂れたおじい教授である。僕のおじよりお爺である。

そんなお爺に法学を教わっている。教授に教えていると言う自覚があるかはわからないが、僕は教わっているつもりである。

なぜ教えている自覚があるかどうかわからないのかというと、講義中の声量が独り言レベルで小さいためである。しかし、声量を加味してもフリートークが抜群に面白いため僕は好きなのである。

ある夜、ラーメン屋に一人で行くと私より先になんとなく見たことのある、おじいさんが一人で座っていた。そこそこ距離があったため、すぐに教授と判断することはできなかったが程なくしてわかった。そして、教授は店員を呼ぶと、「こってり1つ」と言い放った。いや、お爺が「こってり」いくんかい!と腹から声が出そうになった。

しかし、驚くべきはそこではなかった、「こってり1つ」に対する声量なのである。普段、あれほど舐めたボヤキ講義を行なっているにもかかわらず、店員の復唱をも凌駕する「コッテリ1つ」を発したのである。

おじいの1年で1番コッテリを食したい日が今日だったのかと腑に落とそうとしたが、おちるわけがなかった。そして、自分の中にある含蓄お爺像が崩れた。お爺は脂っこいものを好む。記録が塗り替えられた。

そしてその場で決心した。次回の講義後、声をかけてみると。「先週の夜、ラーメン食べていらっしゃいました?」その流れで、「教授は講義中なぜ声が小さいのですか?」とも言ってやった。

すると教授は答えた。ラーメンに最近ハマったと。

そして、声量についてはこう答えてきた、「講義中に声を小さくしているのは理由があってしている」と、

なぜですか?と聞くと、

「授業を本当に聞く者は声が聞こえないから必然的に前に集まり、親不孝の学生は後ろに固まって下を向くだろ」と言った。

判別のための声量だったのである。一週間登り続けていたモヤモヤがようやく腑に落ちた。

しかし、講義にお金を払っているのは学生サイドであるにも関わらず、そこを考慮しないお爺教授はおかしいのではないかとムカついたので、訴えたくなったが相手は法学のプロである。勝てるわけもなかった。

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