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【それは優しさと温かさを届ける一つの手段】薬剤師業界のIT化を無駄にしない


私が身を置く薬剤師業界では(今は離職中だけども)、どんどんどんどんIT化が進んでいて。

昔は紙に手書きで患者情報を1人ずつ書いていたらしいけども、私が就職した頃には全て電子化されていて。いちいち患者ごとのファイルを探さなくても、パソコン一つで患者情報を一瞬で引き出すことができる。

患者さんの薬を朝昼夕食後にそれぞれまとめて袋に一つに梱包する作業(一包化とも言う)だって、機械に薬をセットして、ピピっと指示するだけで勝手に90包であろうと180包であろうと、文句一つ言わず、しかもほとんど間違いも起こさず分包してくれる。

今までは紙の処方箋を病院でもらってそれを薬局に持って行き、その紙を薬局に渡すというのが薬をもらうまでの流れだったのだけど。これからはその処方箋さえ電子化されて、いちいち紙の処方箋をもらう手間も、渡す手間もなくなっていく。


どんどんどんどんIT化が進んで、私たち医療従事者も、そして患者さん自身も、IT化の恩恵をたくさん受けている。


これからさらに進もうとしている薬剤師業界のIT化の変化に、「オンライン服薬指導」というものがある。

薬局に行かずとも、スマホやPCを使ってビデオ通話という形で薬の説明を受けるというもの。

今や会議やミーティングもZOOMで行われる時代に、服薬指導もオンラインになってもおかしくはないと思う。


だけど薬局で働いていた身として、
このオンライン服薬指導に対しては不安に思うことがあった。


それは、そこに人の優しさや温かさというものはあるという不安。


私は医療界に、「人の温かさ」というものは必須だと考えている。
オンラインでは感じることのできない、いや、患者さんを目の前にしてもあまり意識することにない、目の前の人の息遣いや体格や声の大きさ、その人自身が持つ雰囲気、纏うオーラ。

ありとあらゆる情報を、無意識のうちに私たちは五感で察知して、「この人はいい人だな」「この人は少しヤバそう」「この人の匂いが気になるな、生活環境が乱れてないのかな」等、たくさんの情報を「目の前に人がいること」で収集している。

それら感覚的な情報をもとに、「この人にはこんなことを伝えよう」「この人には簡潔に説明してあげよう」「この人の話はじっくり聞いてあげよう」等の行動変容が私たち薬剤師側に起こり、患者さまごとにその人が求める服薬指導を探り、指導していく。これは私たちにとって当たり前の業務でもあり、一種の気遣い、優しさ、温かさだと私は思っている。

在宅医療では、ベッドに寝たきりで、いつ死が来るのかと憂いている患者さんの手を握り、その手から伝わる温もりや触感で、何も言わずとも「私はあなたの味方である」というものを伝えることができる。


こうした五感で得られる感覚的なものは、私たち薬剤師にとってめちゃくちゃ大事で。

でもこれは患者さんにとってもそうじゃないかとは思う。
色々と治療に対し不安に思う中で、画面上の医師から淡々と何かを喋られるより、目の前にいる医師がいて、直接説明された方がなぜか安心なんじゃないかと。画面上と目の前にいるとでの安心感の違いはどこから生まれるのかは、それは人間の感覚的なものからではないのかと思う。

そんな、人の超絶感覚的なものから得られる大事な情報・コミュニケーションを、果たしてオンラインで可能なのかということがとっても気になって気になって、実を言うとあまり積極的ではなかった。


医療は必ず人の直接的な温かさが必要だと思っていた。



だけど最近やっと、少し違う視点を、広い視点を持つことができた。


ことのきっかけは、Twitterの薬剤師界隈で少し話題になっていた性感染症治療に関するツイートだった。

20代の女性で、クラビットという抗生剤が7日分処方されていて。
その患者さんにどういった服薬指導をするかという問題。

まず前提として、私たち薬剤師は、処方箋を見てある程度どんな治療のために薬をもらったのかということを「予測」はできるけど、医師や病院から「この人の病名はこれです!!!」というような情報は一切もらうことができない。(個人情報保護の観点から)

だから私たち薬剤師は、今まで勉強してきた知識を総動員し、この処方内容で、科名で、この性別で、この年齢で、いったいこの人はなんのために病院に来て何を治療していくのかというのを短い期間で予測している。

そしてその予測が当たっているのか確認も含め、患者さんに話を聞く。

なぜその予測が当たっているのか確認するのかというと、全く同じ薬で全く違う病気に使用することがあるからで。

例えばAという薬でも、Aを1日2回飲めば心不全の治療だし、Aを1日1回飲めば高血圧の治療だ、という風に使う薬もあったりする。

しかもこんな薬は数少ないわけではなくて、めちゃくちゃ多い。本当に多い。

同じ薬が処方されていても、7日分なのか、もしくはもっとながい日数なのかという日数の違いでも治療対象が全く違ったりする。


そんなのどうでもいいやんかい医者がそないだしとんやからそのまま渡さんかい!!!なんて言葉は私が今まで働いてきた中で何万回と聞いた言葉だし、私だってそう言いたい気持ちはわかる。


だけど、もしも心不全の治療をするはずが高血圧の治療分の薬しか出てなかったらどうだろうか。もしもあなたの体には2mgで済む薬が、倍の4mgででていただどうだろうか。4mg必要なはずなのに2mgしか出ていなかったらどうだろうか。もしも7日で済む薬なのにもっと長いこと出ていたらどうだろうか。


私たちは日々、患者さんの時間を頂戴しながらこういった作業をしている。

なぜなら、安全安心の効率の良い医療を皆さんに提供したいから。

患者さんがせっかくもっと健康に近づけようと時間とお金をかけてきた病院なのに、結果的に間違った量で、間違った薬で治療をすることになると、時間もお金も無駄になってしまう。


こんなミスが何度も何度も起こることはないけれど、少なからずこのようなミスが起こってしまう。医者も人間だから。

私たち薬剤師は、そのミスを防ぐセーフティネットのような役割を一つ果たしている。


話はそれてしまったけれど、
さっきお伝えした20代女性の話。

私たち薬剤師ならどのように対応するかということ。

ちなみにこの女性の治療目的は、「性器クラミジアの治療」だったという。


クラミジアは性感染症の一つで、主に性行為によって感染する、まぁデリケートゾーンの風邪みたいなものと思ってもらってもいいかもしれない。ただ薬を飲むとすぐに治るものなのに、それに気づかなかったり病院に行くのに気が引けて治療をせずにいると、不妊症の原因になったりもするから、必ず治療が必要な性感染症の一つ。(ちなみに風邪と違うのは、自然治癒することはまぁないのでちゃんと薬で治療しないといけないということ。)


もし私がクラミジアに感染して、薬剤師さんに「今日はどうされましたか?」と聞かれるのは正直めちゃくちゃ嫌である。

いやクラミジアやで?察せよ??え、薬剤師ってそんなん聞かれるの嫌ってのもわからんくらいコミュ障なん?????周りに人もいるのに「クラミジアです」なんて言えるわけないやろ???てかなんであんたにそんなこと言わなあかんの?????さっさと薬だけ渡せや先生にちゃんと言ったんやから!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ってなる。(口が悪い)


こうなる。いやそうなりますよ。
だって性感染症ですよ。性教育が遅れに遅れまくっているこの日本で、スマホの普及で情報が溢れまくっているこの世界で、セックスしないと基本うつらないデリケートゾーンの病気にかかりましただなんて言えるもんかですよ。「セックスした結果病気になりました」なんてなんで見ず知らずの薬剤師に言わなあかんねんボケカスが、ですよ。(だから口が悪い)


だけど、薬剤師がクラミジアかどうか確認したいという気持ちもわかる。

このクラビットっていう薬は、同じ量で、同じ日数で、膀胱炎に使うことだってあるから(今はガイドラインが変わってクラビットを使わない方向になっているけどね)。20代の女性だと十分膀胱炎になることだってあるし、なんならクラミジアの患者より膀胱炎の患者の方が何倍も多いから、多くの薬剤師は最初に「膀胱炎かな?」と予測するかもしれない。


膀胱炎か、もしくはそれ以外か。
それを確認するには、患者に聞くしかないのである。


この問題に対して、薬剤師界隈でもうわんさかわんさか荒れまくっている。


「私たちの業務上ちゃんと聞かなければいけないということを理解してほしい」
「嘘ついて膀胱炎って記録残すわけにもいかんし聞くしか」
「嘘でもいいから膀胱炎って記録残しとこう」
「いや薬剤師側が察したれや馬鹿たれ」


医療に正解はない。

薬剤師によって答えは変わる。

だから患者さんには、「この人なら安心」という薬剤師を見つけてほしい。



私はこの問題をきっかけに、
私ならこれをどうするかではなくて、「あ、テクノロジーが活用できるかも」とふと思った。


こういう場面に、テクノロジーは患者に優しさと温かさが提供できるんじゃないかと。


1人の女性として、薬局のあの投薬台で「クラミジアです」なんて私は言えない。いくらパーテーションで仕切られていても、クラミジアという言葉を口から発することがまず嫌なので無意味。


でもオンラインならどうだろうか。

まず周りを気にせず話せる環境を患者自身が選べる。家にいる時間帯を選んでオンライン服薬指導を受ければ、家という安心した環境の中で薬剤師と話すことができる。

薬剤師側としてもとても服薬指導をしやすい。
もちろんオンラインか対面かという問題以前に、いかにその薬剤師が性感染症というところに知識と理解があるかというところでまず大きな差は生まれるんだろうけども。

性感染症や妊娠・出産・避妊についてある程度勉強している薬剤師であれば、オンラインという環境化であれば、その質問をする理由、もしそうであれば「あなたが思うほど大したことはないんだよ」という安心、そして正しい性に関する知識の普及さえ行えるのではないか。
性感染症等のセンシティブな内容こそ、時間と環境を持ってして患者に安心安全な治療を届けることができるのではないか。


対面だと話しにくいという問題を解決する、ITを活用してこそ提供できる温かさがそこにあるのではないかと、私は思う。


もちろんこれはITを活用するだけであって、最終的に温かさや優しさを提供するのはその薬剤師の人間性やスキル次第なんだろうけど。

この薬剤師の人間性やスキルを、時と場合によってはITを活用することでさらにその活躍の場をいい方向に広げるのではないかと私は思う。


ITは決して、薬剤師側だけにメリットがあるだけではだめで。

結局は、ITを介して私たちが何を患者さんに提供するか。そこを私たち薬剤師は考えなければならない。

電子化薬歴めちゃくちゃ楽やん〜一包化も自動でしてくれるなんて最高にありがたみ〜〜〜オンラインやと目の前に患者おるわけじゃないから気が楽〜〜〜〜〜〜ではないのだ。


ITをうまく活用して、より良い医療と安心を。

優しさと、温かさを。


まにょ。

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