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小説(SS) 「おせっかい告白雨雲」@毎週ショートショートnote #告白雨雲

お題 // 告白雨雲


《さっさと告白しちまえばいいじゃねえか。あの女が好きでたまらねぇんだろ? なあ?》

 言ってきたのは、おれの肩らへんでふわふわと浮いている、わたあめサイズの雨雲だ。

 あるときから突然現れたこいつは、馴れ馴れしく接しては、ことあるごとに告白を強要してくる。なんでも、おれが好きな人に愛情をぶつける姿を見たいらしいのだ。

 おっさん風の口調でやかましいのと、風呂に入ってるときもトイレに入ってるときも学校の授業中もついてくるのと、上から目線なのを除けば、特に日常生活に問題はない。
 ただしもちろん……それが耐えられればの話だ。
 最近は、この告白雨雲野郎のことは無視するように心がけてきた。それでこいつは諦めてくれるかと思っていたが、中身がおっさんだけあってしつこく、むしろ前より頻繁におれを煽るようになってきた。

《おい、あんちゃん。見てみい。前を歩いてるぞ、愛しの高梨ちゃんがよ》

 見ると、学校帰りで制服姿の高梨さんが、狭い十字路でこちら側に曲がってきたところだった。

《やったな、二人きりじゃねえか。これ以上のチャンスはない。ほらほらいまださっさと告っちまえ》

 おっさんの囁きに気を取られていると、こちらに気づいた高梨さんと目が合ってしまった。

「た、高梨さん! あっ、えの、はう、はうう……」

 間をもたせそうと、なにかをしゃべろうとして、つい口がもごもごしてしまう。

《ったく。な〜に、はうはう言ってんだ。さっさと出すんだ、愛の言葉を。いましかないぞ。そぉら、いまだ! ……ん、おいおい、いやでも告白しない気か? な〜らこっちにも考えがある。よし決めた。いま告白しなかったら、あんちゃんの股間をおれの雨雲パワーでびしょ濡れにさせてやる!》

(おいふざけんな、雨雲野郎! こっちにも、心の準備ってもんが――)

《ほぉん? つまりあんちゃんは、雨雲の恐ろしさをその身で味わいたいっつーわけだな?》

(……っ! わかった、言えばいいんだろ言えば!)

《そうそう。わかってくれりゃあ、いいんだよ》

 息を呑み、再び視線を合わせる。

「あの、高梨さん……おれと付き合ってくださ――」

《あ、やっべ》

(え?)

 気づくと、デリケートゾーンを中心にズボンが濡れており、両足の隙間には熱帯雨林のスコールを彷彿させる激しい雨が降っていた。

《すまんすまん。ちょいと手違いで、わいの驚異的な雨雲パワーがうっかり炸裂しちまったみたいだ。え〜っと、まああれだな。やっと告白できたってわけだ。おめでとさん!》

 視線をおれの顔から下へと移していった高梨さんは、一瞬だけ「ひいっ」と小さな声を上げてきれいな顔を引きつらせると、両手を口に当てながら一歩ずつ退がり始めた。

「い、嫌……!」

「待って、高梨さん! これにはわけが――」

「嫌……嫌……嫌ああああああああああああああああ
あああああっ!!!!!!! キモイキモイキモイキモイキモイィィィィィィィィ!!!!!!」

 そう言いながら高梨さんは、全速力で去っていった。

 残されたおれの横では、雨雲がまるで自らの役目を果たしたかのように身体が透明になっていた。

《いや〜残念。でもまあ、いいもん見してもらいましたわ。これで、あんちゃんが悶々とする日々も終わったわけだ。もう心残りはない。ほいじゃあな》

 その言葉を最後に、雨雲はおれの前から姿を消した。

 ……そして以来、最大の恥じらいを知ったおれは、臆せずに告白する姿勢を身につけ、ついには史上最強のナンパ師といわれるまでになったのだった!


〈了〉 1,438字





今回は、オチにとても迷いました。

いやなおっさんを通じた主人公が、バッドエンドを迎えると可哀想ですし、かといってハッピーエンドにすると、おっさんの肯定になってしまうのです。

久しぶりに、少しは内容のある話が書けた気がします。そう思うのは、いつも内容がなさすぎるだけかもしれませんが。。

ではではまた来週〜


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