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小説(SS) 「恐怖の感想文部」@毎週ショートショートnote

お題// 感想文部

 感想文部には気をつけた方がいい。
 その学校に赴任してきて早々、佐伯幹人が年齢の近い先輩教員からぼそっと耳打ちされたのは、聞き慣れない部活動に対する忠告だった。

 どうやらこの学校には、先生の授業のレビューを辛辣に書く、「感想文部」という学校非公認の部活動が存在するらしい。
 部員の名前も人数もわかっていないが、過去にセクハラ発言をぽろっとこぼした中年教諭はウェブの裏掲示板でその事実を感想と共にさらされ、一発で懲戒免職処分となったという。そのほかにも、ここ数年で何人もの先生がこの学校で社会的に裁かれていた。

 それを聞いた幹人は、授業中だけでなく、廊下で生徒たちとすれ違うときや、放課後の学校外での言動にも気をつけながら、担任教諭としての日々を過ごすことにした。

 五年の月日が経った。
 幹人が感じていたのは、違和感だった。

 この五年の間に、何人もの教員が辞めざるを得ない状況に追い込まれ、この学校を去っていった。
 そして今年、校長までもが失職した。新たにその座に着くことになったのは、質実剛健で知られる教頭だった。

 ある日、幹人は学校に忘れ物をして、放課後の職員室に戻った。
 夜は遅く、ほかの教員は誰もいない。デスクに置いたままになっていた荷物をとり、すぐさま帰ろうとする。だが、人の気配のない、その静かな職員室に、低く耳障りな機械音が鳴っていることに、幹人は気づいた。
 音は、隣の部屋から聞こえる。職員室と扉ひとつで隔てられている、校長室の方だ。
 気になり、覗くだけならと、幹人は校長室の扉にある小窓から中を見渡す。
 ソファーの上には、電源がついたままのノートパソコンが開いた状態で置かれていた。画面には、分割されたセルで複数の映像が流れていた。よく見ると、昼間の教室の授業風景に見える。
 録画された映像のようだ。中には、自分自身が映っているものもある。幹人は瞬時に理解した。
 校長に――いや、旧教頭に、知らないところで監視されていた。まさか、感想文部なんてものは最初から存在しておらず、教頭がこの学校を統べるためにやっていたことなのか。
 これ以上知るのはマズい。悪寒がした。なぜノートパソコンが開かれた状態で、この時間に放置されているのか。人がいたということではないか。
 背後。振り向く。
 立っていたのは、怪しい光を瞳の奥で放つ教頭だった。幹人はハハハと笑ってみせたが、教頭はクスリとも笑っていなかった。

〈了〉1,010字くらい




今回のお題は苦手な部類だったので、410字でまとめよう! と意気込んでいたのですが、気づいたら残念1,000文字でした。
410字のショートショートは、話を展開させる字数の余裕がないので、難しいです。。

ではではまた来週〜

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