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小説(SS) 「株式会社の音」@毎週ショートショートnote


 急激な都市開発が進むこのインド社会において、いまひそかに必要とされているのは、乱立する違法建築物を爆破し続ける彼ら――「爆破解体師」たちである。

 その仕事はいたって単純かつ明快。立ち退き勧告をしても音沙汰ない連中が住まう建物に大量のダイナマイトを仕掛け、爆破させるのだ。

 無論、爆破解体が執行される日には、爆破対象の建物内で働く人は強制テレワークが命じられ、近隣住民と周辺に住まう野良犬は離れた場所に避難誘導される。そう、極めて安心安全なのである。

「爆破解体師にとって大事なのは、その仕事ぶりじゃない。爆破を楽しむ心さ! わかるか、大きなビルを合法的に破壊できるんだ、一回その爽快感を覚えてみろ、くぅ〜あああっ! たまらねえぜ!」

 ロサンゼルスから就労ビザでインドに渡ってきた新人マイケルは、現場レクチャーを受ける直前、その道十年のベテラン社員バルジェラが放った金言に、心を打たれた。

「わたシも経験を積んで、早く一人前になりたいデス」

「なれるとも! だが、ダイナマイトの設置は重労働だし、爆破する装置のセッティング工程や動作確認も念入りにやる必要がある。わかるだろう? そいつを怠って火薬が誤爆した日にゃあ、おれたちがスパークしちまう。だからゆっくり覚えていってくれ」

「ハイ! でも仕事依頼って、頻繁にくるものなんデスか? 違法な建物がそんナにあるとは思え――」

「なに言っている、インドでは日常茶飯事だぜ!」

「オーマイガー!! クレイジーインディア!!」

「まずは爆破の快感を覚えてもらうため、おれの隣っていう特等席で、ダイナマイトが大空に咲かす大爆破ショーをご覧に入れてやるぜ!」

 ベテラン社員のバルジェラはそう言うと、現場から少し離れたところに移動し、前日までに仕掛けてあったダイナマイトを機械操作して、爆破を実行した。

「ビューティフォォオ! これ、違法な建築物なんだぜ、信じられねえ! この景色、この音色、世界遺産がワンコインランチの風情に感じられるほどエモーショナル!」

「スバラシイ! 心の憂いが晴れちゃいまシた! でも毎日爆破シてたら、飽きちゃったりシないんですカ?」

「いいとこに気がついたな、ごもっともだ! だが愉しみ方は尽きないぜ。最近のマイブームはな、爆破崩壊時の音に合わせて、タブラーっていう太鼓を叩いて音楽を奏でることさ。いわば、高層ビルとのセッションだな! これが最高にハイなんだ。現場リーダーはこの頃まで、しかめっ面で遠目からおれの勤務態度を見てやがったが、いまは違う。おれの刻む超絶ビートに合わせて、従業員みんなを集めてダンスするんだ。そう、映画のクライマックスのような感じさ。おれはそのとき確信したよ、こいつら全員イカれてる! ってな!」

「やはりクレイジー! 完全に理解シまシた! 崩れゆくビルの音を楽しむンデスね!」

「ああ、君は天才だ! 才能がある! 君にも、こないだ爆破したときの特上級の音を聴いてもらいたかった!」

「それって、普通のビルとは違うンデスかー?」

「ああ、そこは急速成長するユニコーン大企業の筆頭株の本社ビルだった。政治汚職から始まった負のスパイラルで解散したんだが……なんとそのビルは幸いなことに、違法建築物だったと後から判明したのさ!」

「爆破解体師の出番デスね!」

「パーフェクト! そう、おれが爆破した! 違法建築物の中でも、できたてホヤホヤで違法だ違法だと叩かれて爆破処理になった新品のビルと、元々会社として機能していたビルじゃあ、音の響きが違う。株式会社の音は、感情のハーモニーを感じるんだ!」

「オォ……わたシには、まだ難シい世界デス」

「いずれわかるようになる、ノープロブレムだ! 気持ちの問題なんだがな、なんかこう、スカッとするのさ。株式会社の音は違うというか、心の中のなにかがハジけるというか。おれの中のファイヤーがエクスプロージョンするんだ、ナンが燃え尽きるくらいにな!」

「なんてコト……! わたシもその境地に行きたいデス!」

「百点満点、いい心意気だ! それじゃあ試しに、明日の現場は、君に爆破スイッチを押してもらおうか!」

「うわっ、光栄デス! いいんデスか!?」

「ああいいとも! 待ってろ、いま調べてやる。え〜っと……明日の現場は…………うあああっ、なんてこった! 参ったぜ! おれたちの会社があるビルじゃねえか!」

「そ、そんな!!」

「上役連中が裏で違法なことをしてたんだとよ! 残念だが、明日でおれたちの仕事も最後だ。ああでも……それはそれで最高だぜ!」

「ハイ!」

「火薬も使えるだけ使って、最後にふさわしい音を――株式会社の音を奏でてやろうぜ! 準備はいいか、今夜はパーティー、明日はダンスだ!☆」 


〈了〉1,935字

――この物語はフィクションです。実在する人物や団体、ニュースとは関係ありません。




こんにちは、マノ・イチカです。
なんか、頭のおかしい人と思われそうなものを書いてしまいました。
私はいつも正常ですので、ご安心を。

とまあ、お題を目にしてまず最初に浮かんだのは
「ヒャッハーッ!」と騒ぎ散らし、株式会社を爆破するならず者たちの群れでした。

出オチでしかないですね。
今回は400字くらいになるだろう、なんて思っていたら不思議なことに、いつもと同じくらいの長さになっていました。
(内容なんてないのに……)

それに、冒頭のフリを考えたら、オチは自分たちが爆破しているべきなのですが……愉快なインド人の引力のせいか、明るい感じで終わっていました。

ちゃんとオチてないですし……
まあ爆破のお話なので、とっ散らかってしまうのもアリですかね。


ちなみに、私がインスパイアーされたのは
最近のこの記事です。


midjourneyには、アメリカの事を含めセンシティブにならないよう、1棟の中層ビルが爆破しているみたいなプロンプトを指示しましたが…あとでニュースを見返したらけっこう雰囲気似てますね。


ではまた来週~


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