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『みんなのみずのき動物園』展を終えて①~ほぼ余談~

京都で行われた展覧会『みんなのみずのき動物園』の会場内には、来場者に塗り絵をしていただけるコーナーがありました。そこで生まれた塗り絵の中から102枚を使用したアニメーション映像が今月いっぱい公開されています。
※目立つミスがあるけどよいこは気にしないでね☆〜(ゝ。∂)

みずのき美術館×浦崎力「みんなでみずのき動物園」


隙間から想像力が顔を出す

映像内に登場する塗り絵のトカゲとカエルは、何十年も前にアニメーションとは関係なく描かれた絵画作品からそれぞれ10点ずつ選んで輪郭を抜き出し、一匹の動物が動いて見えるように並べたものです。

たどたどしいとはいえ、これらがペタペタ這い回ったり、ピョンピョン跳ね回ったりして見えるのは鑑賞者の目の錯覚といえます。
そのような目の錯覚を利用して観る側の想像力を引き出すことがアニメーション作品に与えられた使命なのではないかと、今回の展覧会で強く感じました。

塗り絵の映像に限らず、『みずのき動物園』の映像はフレーム数(パラパラ漫画でいうところのページ数)を極端に減らして動きをぎこちなくしています。
絵に描かれた動物の魅力を活かすためには余計な手出しは避けた方が良いという判断でそうしていますが、そのぎこちない動きを見て「細やかな動き」「生きてるみたい」というような感想を持ってくださる方が複数いました。
実際には存在しない動きの隙間を鑑賞者が補間しないとそうは見えないと思うので、そういう感想に触れるたびに「そう見えたのはあなたの能力ですよ!」と力説したくなりました。

そしてそういった感想や個性溢れる楽しい塗り絵の数々は、数年前にライブハウスが糾弾されたことを決定打として、他人の想像力に期待することを諦めて色を失った私の体内のあちらこちらに小さな花を咲かせてくれました。
塗り絵を楽しんでくださった皆様に心より感謝いたします。


クロチョロ人気

今回の展示で予想外の反応だったのがこの子 ↓

チョロチョロ走り回る黒い動物だから「クロチョロ」。
自分としてもお気に入りだったので、何の捻りもない愛称をつけて6つある展示映像すべてにチョコチョコ登場させたこの子が、現地へ行ってみるとこちらが戸惑うほどの人気者になっていました。

塗り絵をしてくれた小さな男の子などは、塗り絵用の紙にあしらわれたチョロを指さしながら、「ここにクロチョロいるよ。クロチョロ。クロチョロ」とその場にいる人々に見せて回っており、自分の自制心があと少しでも弱ければ「お…おじさんのおうちに来ればもっとたくさんクロチョロいるよ」と声をかけてしまいそうな(以下略)

クロチョロと呼ばれるこの動物は、映像の中で特にサービスするでもなく、ただひたすらチョロチョロ走ります。たまに他の動物と触れ合うこともあるけれど、基本的には前に進むだけ。
ただ走るだけの生き物にキャラクターとしての人気が集まるという現象に、先に書いたような人間の想像する力を感じて胸が熱くなりました。
ここにもクロチョロいるよ!


なお、原画の魅力が何より大きいことは特筆する必要もなし。
原画は、塗り絵の映像にも登場する中原安見子さんの作品《無題》。


クロチョロと日常

この生き物を主役級の存在としてアニメーションに登場させたのは、発明と言っても過言ではないほど革新的な音楽を鳴らす音楽家「てあしくちびる」と組んだコラボレーションライブでした。
2016年に、みずのき美術館の母体である障害者支援施設「みずのき」に於いて演奏会を開いていただいた際、彼らの「日常」という曲に合わせて流すために、この生き物が冒険する映像を作ったのです。
※主役以外では2015年に京都芸術センターで展示した『みずのき動物園』が初登場。

当時どうして「日常」という曲の映像をこの生き物が主役の物語として作ったのか覚えていないのですが、その後てあしくちびると疎遠になったり、コロナによって「日常」という言葉の持つ意味が大きく変化したりした今、この生き物と向き合った時に「日常」という言葉がどうしても重なってしまうのでした。

さて「日常」とは何だろう?と考えてみると、この子が前進する姿そのものが「日常」を表現しているような気がしたので、ただひたすらにチョロチョロと走ります。
なので、この子が人気者として受け入れられたことは、日常が日常であれ!という密かな願いが肯定されたような思いがして、勝手にこっそり感動していました。


余談:てあしくちびる

クロチョロが大活躍する「日常」の映像が生まれる2年前に行った、てあしくちびるの演奏とみずのき絵画のイメージを用いたアニメーションによるコラボレーションライブの様子はこちらで観られます。

全体的にアーカイブの再利用であることを意識した映像づくりをしていますが、特に最後の曲「てあしくちびるのテーマ」(23:55~)は、同じ題材の作品を蓄積することでしか出せない独特の凄みを感じさせる迫力の演奏になっておりますのよオホホ、と半分自画自賛。

ライブ以外にも、てあしくちびるには『みずのき動物園』シリーズの音楽を2回担当してもらっています。


普段は言葉の内容やリズムに重きを置いているであろう てあしくちびるのインスト曲は貴重です。言葉の意味から解き放たれた声音が飛び交い、動物園というコンセプトと相まって聴く側の想像力を幅広く刺激します。
とはいえ、てあしくちびるの真骨頂は言葉と音の生み出すリズム。音源を聴いたことがない方は絶対に聴いてください。つまみ聴きではなくアルバム単位で聴いてください。
私の人生で出会った音楽家の中で、プロアマ問わず最も過小評価されている人たち。


元祖!塗り絵のカエル

てあしくちびるといえば、今回の塗り絵アニメーションと同じアイディアの共作がありました。


展覧会で用意した塗り絵のトカゲとカエルは蓄積されたみずのき作品のアーカイブから選びましたが、「てあしくちびじゅある」名義で発表した『かえる』は、当時心酔していたイラストレーターの「さっっっっっ」さんに無理を言って新たに描き下ろしていただいた300匹をこえるかえるの線画に、私が無作為に彩色したものをアニメーションの素材としています。

今回の塗り絵と同じように、動きの連続性など考えずに描いてもらった色も形もでたらめな大量のかえるたちをそれっぽく並べることにより、目の錯覚を利用して歌って踊って馬飛びして見えるようにしました。


さっっっっっさんの描いたかえるがあまりに良かったので、関係者が各々好きなかえるを5匹ずつ選んでバッジを作り、ライブ会場限定で無料配布しました。

↑ 私の選んだかえるは21~25の5匹です


演奏×アニメーションに留まらず、節操なしにしばらく続いた「てあしくちびじゅある」名義の活動は、自分の希望と絶望の崖っぷちにあって、今に繋がる主張の根本が明白になった活動でした。
自分の無能さを補いたくて、まわりの才能ある人々を食い散らかした時期でもあるので、当時を振り返ると自己嫌悪が土砂崩れのように襲ってくるけど、いつか整理したいです。


まとめ(られず)

『みんなのみずのき動物園』展は、膨大な数の絵画作品を対象にしたアーカイブ活動やそこに至る過程が根っこのテーマだし、絵画/音楽/映像/空間それぞれにアーカイブ的な見どころがあるし、参加型企画もあるし、自分としても集大成だし、多角的にアイディアを詰め込みまくった展覧会だったので、会期前後に考えたことや感じたことが本当に多くて上手くまとめられず…。

『マンマン堂の課外活動〜みずのき編』
もう少し書きたいことがあるので後編へ続く予定です。

またこんど!!

たくさんクロチョロいるよ

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