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残虐記/桐野夏生

友人に本をプレゼンするにあたり奥から引っ張り出してきた。
これはいつの本だったかと見てみると2007年の本。
確かサラリーマン時代に本屋で強烈な題名で完全にジャケ買いした記憶。

それまでこの著者の本はタイトルこそ知っているものがあったけど
読んだことがなかった。
残虐とは・・・?と思いながら購入。

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自分は少女誘拐監禁事件の被害者だったという驚くべき手記を残して、作家が消えた。黒く汚れた男の爪、饐えた臭い、含んだ水の鉄錆の味。性と暴力の気配が満ちる密室で、少女が夜毎に育てた毒の夢と男の欲望とが交錯する。誰にも明かされない真実をめぐって少女に注がれた隠微な視線、幾重にも重なり合った虚構と現実の姿を、独創的なリアリズムを駆使して描出した傑作長編。

誘拐の描写がとても生々しくて、誘拐犯の気持ち悪さがリアルでゾッとしたが、その後の一瞬ストックホルム症候群なのか、はたまた主人公の聡明さを知っていき全く想像できなかったアレが・・・と、後半部分に考察の余地を残し想像させる。

大きく二部構成で成っている本作は(あくまでも私の感想だけど)
一部は実際に大人になって失踪した小説家先生が子供のころに体験した誘拐事件について詳細な描写が書かれている。
なぜ誘拐されるような状況に陥ったのか。それは親への不満とも取れる拙い描写があったのだけれども、後半部分の体験を元にした小説執筆部分(成長編)で、不満を抑えきれなくなるような大人のエゴが詰まっていたりする。
そしてそれを感じ取れる聡明で繊細な少女がいた。
なので思わず後半部分を読み進めるうちに前半部分に一度巻き戻って読み返すという自分的には珍しいアクションを起こした作品でもあった。

後半部分は実際にそのような事件の被害者になってしまいながらも
成長し、大人になり、世間からの風当たりやフラッシュバックと賢明に闘う様が描かれている。闘う。だから執筆して昇華させる。という一種の儀式。
男という「性」についての嫌悪を経ての自分との戦いの様は見ていて痛々しいものだったけど痛みと戦いながら成長していく主人公は美しいなと思った。

そしてクライマックスでは色々な想像や仮定の余地を残させてもらった。
実際のページ数はそこまで多くないが中身の濃い読み応えのある本当にいい作品でした。

実際に幼女誘拐という事件がベースになっているので胸糞な内容ではあるが最悪の自体にはなっていない。
でも最悪の自体にならなかったからこそのラストの展開。という読書好きにオススメな本でございます。

フィクションではあるけれど、この主人公が今幸せであることを願います。

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