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【SS×AIイラスト作品】STAND ALONE

SS×AIイラスト作品
『STAND ALONE』

文・まにまに(@mani_mani20)
イラスト・AI(にじジャーニー+加筆)

読み終える時間の目安:15分程度

※ この作品はフィクションです。 実在の人物や団体などは一切関係ありません。

I
プツン。
目が覚めると、私は知らない道路の真ん中に立っていた。
「ここは…どこ?」
少し懐かしさを感じるこの景色。
私は、この町を知っている。
中学の時、転校するまで暮らしていたあの町だ。
あれから数十年経ったのに、あの頃と全然変わっていない。
でも辺りは不自然なほど静寂に包まれており、少し気味が悪い。
どうして私はここに?いつから?昨日までいつものように仕事していたはずなのでは?
あらゆる疑問が私の脳内を駆け巡った。

II
「オハヨウゴザイマス」
突然、私の目の前に白い髪のアンドロイドが現れた。
「あなたいつからそこにいたの!?」
「サキホドカラ、ズット」
「いなかったって、絶対!」
「イイエ、イマシタヨ」
次から次へと何なの。
最近、世界中で自律型アンドロイドの開発が熱心に行われているのは知っていた。でもこんなタイプのものは見たことがない。ただの私の幻覚だろうか。いや、触れることができるから実体はあるようだ。
でも正直に言うと、私はこういう機械は何を考えてるのかよく分からないから苦手だ。
「今はいつ?」
「ゲンザイ2030年4ガツ12ニチ、ジコクハ12ジ32フンデス」
間違いない。今日はちゃんと今日みたいだ。

III
しかし、いつもポケットに入れているはずのスマホがない。
というか私、今、何も持っていない。
私は必死に今日の記憶を遡ってみたが、
朝家を出たところで記憶がプツンと途切れている。
突然昔いた町に来たと思ったら目の前には見たことのないアンドロイド。
頭の中がますます混乱する。
誰かこの状況を詳しく説明してほしい。
そうだ、どこかに人はいないのだろうか。


辺りを探索し始めてから数時間が経ち、私は徐々に自分の顔が青ざめていくのが分かった。
人が、全くいないのである。
どの家を訪ねても、どの店に入っても、不自然なほどに人がいないのである。ネットカフェに入ってみたが、通話はできないし、インターネットも使えない。私が昔住んでいた土地にはもう今は別の家が建っていて、まるでこの地球上から人間が突然UFOで吸い込まれてしまったようだ。
「孤独」の二文字が頭をよぎる。
どうしよう。
今この世界には私と得体の知れないアンドロイドしかいないのだろうか。
私は一人でいることは好きだが、どこにも人がいないとなると事情が変わってくる。
汗がじわりと垂れてくる。


そういえば、この奇妙なアンドロイドはどうしてずっと付いてきているのだろう。
「ねえ、その…あなた。ここにいた人達はどこに行っちゃったの?」
「ワカリマセン」
うーん…。
「じゃあ、私が今住んでる家の場所は分かる?」
「ハイ。ココカラ815キロサキニアリマス。アルイテ1カゲツテイドデツキマス」
アルイテ1カゲツ…。
でもとりあえず向かってみよう。歩いていればどこかに人がいるかもしれない。
私は不安な自分をごまかすように、自分の住んでいる街へ向かって歩き出した。


少女のような見た目のアンドロイドは、どうやら最新の汎用AIを搭載しているらしく、基本的に指示されたことは何でもできるそうだ。
でも元々私の近くにいた理由は自分でも分からないらしく、私にとって謎の存在である事は変わらなかった。
「ほんとに頼りになるのかな…」
私は少し不満をこぼしつつも、ガイドされた通りに道を歩いていた。
相変わらず人は全く見当たらず、電車やバスなども運行していない。乗り捨てられた自転車や車が時々見つかったが、私は必死に頭の中の悪魔を追い払った。夜になるとアンドロイドと二人は不安だったので、私は「田中」と表札に書かれた家にお邪魔することにした。


家の様子から察するに、どうやら娘さん一人の3人家族が住んでいたようだ。そこかしこに生活の跡が残っている。
「鍵は開いてたけど…誰もいない…」
「フシギデスネ」
私は「あなたもね」と言いかけたが口を噤み、家の中を調べ続けた。
相変わらずインターネットは繋がらないが、電気や水道などは通っているみたいだ。どこかで聞いた話だが、仮にインフラ施設に人がいなくなっても、一定期間は無人で稼動するようにできているらしい。
だとしても…。
頭の整理をしていたらお腹の虫が鳴ったので、少し悪いとおもいつつ、私は冷蔵庫の中から食べ物を拝借し、田中ママの部屋で一晩を過ごすことにした。


昨日は突然家の人が帰って来たらどうしよう…と思っていたけれど、私はよっぽど疲れていたのだろう。熟睡していたようだ。
しかし、目の前の現実は変わっていない。実はすごくリアルな夢を見ているだけなのかもしれないと少し期待していたのだが、その幻想は儚く散ってしまった。間違いなく「ここ」は現実みたいだ。
私はため息と共に重い腰を上げ、田中家に向かってお辞儀をした後、旅を再開した。


歩き始めてから1週間が経った。
元々一人で行動することの多い私は、人のいない日常に早くも適応していた。目の前を歩くアンドロイドに話しかけてみたり、普段なら絶対に行かないような高級ホテルに泊まったりした。
全く寂しくないと言えば嘘になる。とはいえ、人目を気にせず行動ができることは気持ちが楽だった。


2週間が経った。
偶然見かけたレコードショップが気になったので、寄ってみることにした。
店内のほこりっぽい匂いと装飾品の数々が親しみやすさを醸し出しており、
今にも温和そうな顔つきの店員さんが声をかけてくれそうな雰囲気だけれど、店内は静まり返っている。
私は一面に並ぶジャケットを見て適当に一枚選び、試聴用に置かれていたレコードプレーヤーの上に黒い円盤を置いた。


西欧男性の渋い声と静かなピアノ、時折流れるトランペットの音色、スローで心地よいジャズのメロディが私を包みこむ。しばらくの間、時間を忘れてうっとりと聴いていた。
「イイオトデスネ」
隣にいた意外な人物からの感想に私は驚き、あらゆる意味で貴重なこの経験に感謝した。
せっかくなので、どうにかこの曲を持って帰れないだろうかと思った私は、
カウンターに向かって「あの…」と口に出した瞬間に現実に帰る。
そうだった。
私はレコードのジャケットを別れる直前の恋人を見るような目で見つめた後、動き続ける針をそのままにして、お店を出た。


それから私は「人探しのためだから」と自分に言い聞かせながら、旅の途中で気になったお店は手当たり次第入ってみることにした。どうせ誰もいないのだから、怖気づく必要はない。
古本屋や雑貨屋、時計屋、骨董品屋等、それぞれのお店のこだわりをじっくり楽しんでいると、気づいたら1日が経っていることもあった。
大きな美術館などは1週間かけてじっくり鑑賞して回ったりもした。
こうして私はだんだんと当初の目的を忘れていき、ひたすらぶらり旅を楽しんでいたのであった。

XIII
旅を始めてから、いつの間にか一年が経っていた。
私は見覚えのある景色を眺めていた。
「家まであと何キロ?」
「アト32キロデス」
どうやらあともう少しで目的地へ到着するらしい。
私はいつの間にか伸ばしっぱなしだった髪を靡かせて、自転車を漕いだ。

XIV
大学時代から住んでいる私のアパートが見えた。
「モクテキチニトウチャクシマシタ」
見たら分かるけどね、と内心思いつつ、ドアを開ける。
やはり鍵はかかっていない。しかし、部屋の中は一年前のままだ。
「結局誰とも会えなかったな…」
「ソウデスネ…」
虚しい会話が宙を舞った後、とりあえずテレビを点けてみたが、画面は砂嵐しか表示しない。スマホも見つかったが、やはり電波は入ってこないので特に意味を成さなかった。
私はしばらく立ち尽くした後ベッドに倒れ込み、そのまま眠りについた。

XV
さらに一年が経った。
何度か人を探す為に自転車を走らせたが、人影すら見つかることはなかった。
時々、時計の針が止まっているような感覚に襲われて頭がどうにかなりそうな時があった。
私はその度に外で気に入ったレコードや本などを見つけ次第、家に持ち帰った。そんな生活を続けていると部屋が物で溢れてしまったので、私はどうせならと思い、近所にあったプール付きの豪邸に生活の拠点を移すことにした。
人間は本当に一人になると、いろいろなものが壊れていくらしい。

XVI
三年が経った。
私は未だにずっと一人のままだった。
久しぶりに鏡を見た時、髪も顔もひどい有様で自分でも笑ってしまったことがあった。隣にいるアンドロイドが私の指示を聞いてくれるおかげで何とか生きることができているが、この空っぽな人生にそろそろ限界が近づいてきていた。
楽しく旅をしていた頃がもはや遠い昔のようだ。
捨てられていたところを拾って乗り始めた自転車も、もうボロボロで漕げなくなってしまった。
「みんな…どこいっちゃったんだろう…」

XVII
五年が経った頃、読みたい本も聴きたい音楽も観たい映画もなくなっていた。この無意味な人生がいつまで続くのかという不安だけが私のそばで横たわっており、最近はもはや体を起こすことすら億劫だった。
誰かに話を聞いてもらいたい…。そばにいてくれるだけでもいい…。
先の見えない暗闇が、私の中の「希望」の二文字を飲み込んだまま返してくれなかった。

XVIII
それから六年…七年…八年…と変わり映えのない日々が目の前を過ぎ去っていった。私はどうしようもなくなった時、よく海を見に車を走らせた。
一面に広がる青い海と波の音は、ひとりぼっちの私を優しく迎えてくれた。
でも雨の日や寒い日は辛かった。温かいスープを飲んでも、どんなに体を毛布に包んでも、私の心は凍りついたまま溶けなかった。
この世界は、一生助けの来ない無人島みたいだ。


XIX
海を眺めていた時、一度だけ手紙の入った瓶が流れ着いたことがあった。
手紙の文字は所々掠れていたが、筆跡からして女の子が書いたのだろう。
いつ書いたものなのかは分からないが、どうやら辛いことがあったようだ。
この手紙を書いた女の子は、今もどこかで元気に生きているだろうか。
「イツカコノヒトニモ、アエルトイイデスネ」
「そうだね…」
私のようにくたびれた毎日を送っていなければいいけれど。
私は手紙を噛み締めるように何度も読み返し、ポケットに大事に仕舞い込んだ。

XX
「あの日」からちょうど十年が経った。
辺りには草木が無秩序に生えており、かつて賑やかだった私の街は見る影も無い。時折、あんなに苦手だった人混みや人の喧騒が恋しくなる。
時が止まっているのか進んでいるのかもよく分からないこの景色は、自分が今どこにいるのかを時々分からなくさせる。数年前に大きく書いた「HELP」の文字も、緑で埋め尽くされていた。

XXI
私はとても久しぶりに彼女に話しかけた。
「すごく今更なんだけど、あなた名前はなんて言うの?」
「ワタシ二ハ、『エマ』トイウナマエガツイテイマス」
「そうなんだ…。知らなかった…」
「イママデ、キカレマセンデシタカラ」
「それもそうだね…。でも不思議…。私、中学の時の転校がきっかけでこの街に来たんだけど、昔からずっと親友の子の名前も…」
「『絵麻』トイウナマエデスヨネ」
え?
「どうしてあなたが…」

XXII
あの頃、私と絵麻はいつもいっしょにいた。
私が転校してしまった後も、高校の時にいじめられた時も、
第一志望の大学に受かった時も、初めての会社をすぐ辞めちゃった時も、
距離は離れていたけれど、私のそばにはいつも絵麻がいた。
大人は忙しいから、直接会うことは年々減っていったけれど、臆病で人見知りな私にとって絵麻の存在がかけがえのないものであることは、ずっと変わらなかった。
昔のことを思い出すと辛くなるから、最近は思い出を振り返らないようにしていたけれど、一番大切な親友のことすら忘れていたなんて。
こんなことなら、もっと会っておけばよかった。

XXIII
寂しい。ひとりは辛い。
絵麻に会いたい。あなたにとてもとても会いたい…。ひとりがこんなに辛かったんだってことを聞いてもらいたい。
あなたがいないこんな世界で生きていたって、私にとっては生きていないのと同じだ。
私の目から我慢していた十年分の感情が溢れてくる。乾いた頬を伝う雫を拭うこともないまま、私は「エマ」の顔を見つめながら、そのままゆっくりと目を閉じた。

XXIV
プツン。
眩しい…。私は恐る恐る目を開ける。頭が異常に重たい。
「ここは…どこ?」
白衣を着た大人達が目の前で何やら話をしている。
誰だろう?医者?というより人が、いる…?
困惑した表情の私を見て、一人の男がゆっくりとこちらに近づき、落ち着いた声で話し始めた。
「大変お疲れ様でした。以上で『実験』は終了となります。しばらく休息を取りますので、その後、アンケートと健康チェックにご協力よろしくお願いいたします。本日は『実験』にご参加いただき、誠にありがとうございました。」
どういうこと…?

XXV
アンケートに回答しながら、私はだんだんと「この」現実のことを思い出していた。
私は2030年4月12日、とある国家機密プロジェクトの『実験』に参加したのだ。被験者は最新のAI技術により、人間の記憶と現実の世界を融合させた『超再現仮想現実』の世界で、まるで本当にその世界にいるかのような体験をする。私が昔住んでいた町が当時のままだったり、どこの家もロックがかかっていなかったり、時々感じていた違和感の正体はそういうことだったのだ。
さらに、どういう仕組みかは全く分からないが、私は現実世界のたった24時間で10年分を体感していたらしい。
この『実験』の主な目的は「世界にたった一人残された人間の活動の記録と観察」であり、実験結果は「行動心理学」などの学問の研究や「惑星移住計画」などに活用されるそうだ。
そんな国家の大実験に選ばれてしまったことを私が「あの」世界で十年間全く思い出さなかったのは、正確なデータを取るためにAIが私の記憶を少し改ざんしたらしい。私はそれを聞いて少しだけ恐怖した。

XXVI
アンケートを終え、私はまだ少し頭がぼんやりしていたが、医者と会話をしながら、「あの」世界での思い出を一つ一つゆっくりと確かめていった。
私が確かに経験したあの十年が全て現実に起こったことではないというのは未だに信じられず、「ここにいるあなたが本当のあなたです」と何度か言われてもすぐにはそう思えなかったが、無理やりそう信じ込むことにした。
医療チェックを終え、私は施設を出る前に、最後に質問をした。
「あのアンドロイドは結局何だったんですか?」
「あぁ、アレはあなたを命の危機から守るようにプログラムされた架空のアンドロイドです。被験者にとって最も親しい人物を反映するように設定されていましたが、あまりうまくいかず、ただ指示をこなす汎用型アンドロイドになってしまったようですね」
「そうだったんだ…エマ…」
私は彼女の顔を思い浮かべると少し寂しい気持ちになったが、同時にやるべきことも思い出した。

XXVII
街は私がよく知る姿に戻っていた。
人やアンドロイドがそこら中を歩いており、空には配達用ドローンが飛び回っている。
「なんだかまた違う世界に来たみたい…」
「ここ」は本当に現実なのだろうか。我ながら変な事を考えているなと思いつつも、自分以外の誰かがいる光景に、ホッとしていた。
家に着くと、私はすぐにスマホを探した。
電源を入れた途端、AIナビが溜まっているタスクについていろいろと話しかけてきたが、私はそれを遮り「絵麻に電話をかけて」と指示をした。
私が今やりたいことはそれしかない。

XXVIII
「プルルルル…プルルルル…」
私は初めて電話をかけた時のように緊張していた。
息が少し荒くなる。なにせ私にとっては十年ぶりなのだ。
「プルルルル…プルルルル…」
タイミングが悪かったみたいだ。
また今度かけよう。電話を切ろうとしたその時。ピロン。繋がった。

「絵麻!久しぶり!」

すると、電話の向こうの人物は言った。


「え?誰…?」



そういうことか…。

END

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