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冬、嵯峨籠り

三時間弱だろうか、廣瀬珈琲店に居座る。恐ろしく寒くなってからというもの、徒歩範囲外に出るのがひどく億劫に。それでこの頃は専ら此処で過ごしている。今日は一冊読み終えて、それから辻邦生『天草の雅歌』を半分ほど。

この『天草-』であるが、実際に自らが当事者として見聞きしているような臨場感がある。この感覚は作品と自身のその当時の状態との関係において生まれるものであろう。両者の周波数、とでも言おうか。その側面より考えてみると、どうも辻邦生という作家には親しみを感じざるを得ぬ。

と、裏面の帯に記された「作者のことば」に目を通してみると、物語に抱いた印象がそのままに象られておるでらないか。確かにこれまで通ってきた五、六作には見られなかった類の読感ではある。無論、最も好みという訳ではないのだが。


ほど近くのLondon Booksで大江健三郎、小林秀雄、リルケなど五冊ほど。珈琲を飲み、それからこの書店へ足を運ぶ。最早これは縄張り内における習性と言っても差し支えなかろう。悪癖でもある。上新庄に居た頃は書店、喫茶の順であったから、逆になったようなものか。

そういえば『天草-』の前に読み終えた文庫本は、昨日買って帰ったもの。なんだか鮮度抜群、地産地消のような。


お次は福田美術館へ。展覧会毎に足は運んでいる。今は〈進撃の巨匠 竹内栖鳳と弟子たち〉が開催中。竹内栖鳳は秋に京セラでも展覧会が催されており、それも鑑賞していたけれど、そちらは個人史といった形。近代日本画の系譜において栖鳳周辺を捉えた本展覧会は全くの別物である。

竹内栖鳳《海光清和》
同上《猛虎》
同上《春郊放牛図(部分)》
同上《金獅図》

栖鳳のコレクションも然る事乍ら、展示総数の半分以上を占めるその師匠、弟子らの作品も愉しい。年始に足立美術館でも観た榊原紫峰の完成度、それから福田平八郎のグラフィカルな三作品など。

川合玉堂 横山大観 竹内栖鳳
《雪月花》

一番好かったのは玉堂、大観、栖鳳の競作。いやはや、眼福極まりない... 次は春の美人画展、ちょっと楽しみが過ぎるな...


日が沈む前に帰路へ就く。流石に来週末には身体も全快しているであろうから、もう少し味気のある休日を過ごしたいものである。

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