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テスラドライバーと喧嘩

「Uber呼んだよ」

と、元カレから車種とかかる時間が

スクリーンショットで送られてきた。

時間は、だいたい12分くらい。車種はトヨタだった。

Uberは、到着すると呼び主に連絡してくるのだが、

しばらく連絡が取れないと、

その分のお金をチャージしてくることがある。

以前、付き合っていた時に、元カレから文句を言われて

嫌だったので、早めに家を出てロビーで待っていた。

今はコロナの影響で、公共の場は、

必ずマスクをしなければいけないことになっている。

私は青いマスクをしていた。

外を見ると、雨が土砂降りである。


しかし、12分待っても、車は全然来ない。

車来ないよ?と元カレにメッセージをしようとした時

元カレから、

「ドライバーがキャンセルしたみたいだ。また新しく予約するね」

とメッセージが届いた。

新しい車の情報を見ると

なんと高級電気自動車のテスラだった。

「超ラッキー!!」

そう思って、ワクワク待っていた。

すると、真っ黒なテスラが現れた。

かっこいいーー!

ロビーを出て手を振ろうとしたのだが、

なぜかテスラはすっーと素通りし、

隣の棟に行ってしまい、そこで泊まって待っていた。

元カレに、

「なんか隣の棟に行っちゃんだんだけど?」

とメッセージすると、

「歩ける?」

と。

そりゃ歩ける。

ただ、今すごい雨の真っ最中だっていうね。

何となく、イライラしてきた。

ズカズカとテスラに歩み寄りながら、

窓を三回強めにノックする。

ドアを開けると、ドライバーがこっちを向いた。

マスクをしていたが、アラブ系だと分かった。

そして、言い放った。

「あのね、ここじゃなくて隣の棟なんだけど?!」

すると、ドライバーはブチ切れて言い返してきた。

「ていうか、見てみろよ?この棟のところに設定したの、そっちだし!」

車に設置されたスマホを見ると、

たしかにドライバーの言う通りだった。

別れてしばらく経つので、

元カレは細かい住所はうろ覚えだったのだろう。

ところが、彼の反撃はそれでは終わらなかった。

“You shouldn’t knock the Tesla’s windows but you should just open the door handle!!” 

(テスラ様の窓はノックしちゃいけねんだ!テスラが来たらただドアを開けるもんなんだ!)

…はあ⁉️

なんだそれっ!!

テスラの窓はノックしちゃいけないなんて、どこにも書いてないぞ!!

ムッカー❗️としたが、

とにかく黙って乗り込み、ドアを閉めた。

ドライバーも、黙って運転し始めた。

やはりイライラしてるのか、多少運転が荒い。

しかし、ヤバイほどでもないので黙ってシートベルトを締め、

iPadを取り出して勉強することにした。


私は、気象の勉強をしていた。

実は、私はパイロットになりたい。

え?この歳で?

え?このコロナの状況で?

……無理じゃない?

去年、親にそのことを言ったら、

死ぬ気で大反対された。

何日もかけて、マイナスなことを言われて

辞めろと説得された。

もう生きるのもイヤになった。

…泣いた。

パイロットは諦めようと思った。

もしもっと若かったら、

もしもっとお金があったら、

もしもっと英語ができたら、

もしもっと数学ができたら……。

自分を呪った。

…待てよ?

それ本当にやりたいことなの?

あれから、一年くらい考えた。

…やっぱり、自分で操縦して自由に空を飛んでみたい。

もう商業的なパイロットでなくても、

趣味のレベルでも、

私はとにかく、自分で飛行機を操縦したいという気持ちが

なぜだか、半端なかった。

しかし、趣味レベルの自家用飛行機の免許でも、

200万円弱は取るのにお金がかかる。。

現実は、厳しい。

ハッキリ言って、自分には貯金はあまりない。

プロポーズしてきた元カレ(おじさんとは違う、元カレC)にも、

「パイロットになりたいなら、別れる」

と、振られた。

そして、今はフライトも全くない。。

だいたい、

「その資格取って、何になるの?」

…そう言われたら、言い返せない。

「お金持ちの趣味でしょ?お金ないあなたがすることじゃないよね?」

と言われたら、ぐうの音も出ない。

コロナの状況を考えたら、パイロットなんて余ってるし、

今仕事ないし、そんな大金はたいて趣味にかけてどうする。

そして、私はそれ以上に諦める理由を持っている。

それは、分かってる。

…でも、やらなかったら、きっと死ぬまで絶対後悔すると思う。

だって、今しかチャンスはないと思うから。

人生には、チャンスって沢山あるようで

実はそんなにないのではないか、と思う。

この状況だから、私には時間だけは沢山ある。

意味など、よく分からない。

でも、意味なんてなくていいんじゃないか?

世の中には、誰のためにもならない、

自分でロケットを作って宇宙に飛ばすとか、

大金かけて、夢を追っている人もいる。

そういう人を否定しているのではなく、

私もそういう変人の一人だということだ。

だから、誰にも言わない。

私は、人生に無駄かもしれない、

自家用飛行機の免許を取得することを決めた。


でも…、理系でない私にとって、勉強はすごく難しい。

理論もわからないし、英語だといちいち調べても

意味がわからない。

しかも、私は算数でつまづいている。

YouTubeとかで見つけた、気象の動画を、

何度も何度も繰り返し見る。

三回か、四回見たところで少しようやく分かる。

自分の頭に情けなくなる。

そして、英語の専門用語がやっぱりよく分からない。

イライラや焦りがつのる。。

そう言うこともあって、ドライバーに冷たく当たってしまったような気がする。

元カレに会いたかった理由の一つも、

自家用飛行機の免許の勉強で

わからないことを質問したかったからだ。


元カレは、もうけっこうおじさんなので、

けっこう上の方のキャプテンなのだが、

教えるのもとても上手い。

以前、2人でハイキングに行った時に、

山に雲がかかっているのを見て、

「あれはね、fœhn effectて言う現象なんだよ」

と、教えてくれた。

元カレが進んで航空学の知識を話してくれたのは、

これが初めてだったと思う。

なんでも、冷たい空気が山に登ってくると、

片側の山の上は、雲が出来て雨が降ったり、

湿気が多くて気温が下がるのだが、

そこで全ての湿度を落としてしまうため、

反対側の山は、対して空気は暖かくなり、

晴れる。

カラッとドライな風が吹く現象らしい。

だから、いつも片側にしか雲は出来ないのだ、と。

そちらの山側はいつも日当たりが悪くて寒いから、

山に家を買うときはそういう気象の条件を

見ないといけないよ、と彼は言った。

…めちゃくちゃわかりやすい!!!

さすが、ダテにキャプテンやってない。


しばらくすると、

元カレの家の近くまでテスラは近づいていた。

私は頭の中で、ドライバーを言い負かそうか、

それとも黙っていようか、

それともやっぱり運転してくれたことへ感謝の気持ちを

述べるべきなのか…グルグル考えていた。

やはり腐っても高級車テスラ、座り心地は抜群だし、おかげで雨にも濡れなかった。

……いや、しかしやっぱりそんな気持ちになれない!

たいていの日本人なら、黙っているだろう。

普段の私なら、たぶんそうした。

多少アラブ人の剣幕にビビってたし、

コミュ障だから人とよく衝突してしまうが、

基本的に、争いは嫌いなのだ。

だけど、最近は自分に正直に生きたいと思うのだ。


ふいにドライバーが、声をかけてきた。

「近くまで寄せることもできるけど、周ろうか?」

私は、意を決して自分の素直な気持ちを

冷静に伝えることにした。

「ここで大丈夫。運転してくれてありがとう。さっきはごめんなさい。でも、あなたもちょっと意地悪だったよ。」

ドライバーは、意外にも笑って素直に謝ってきた。

「いや、こちらこそごめんなさい。なんか言われてカッとなって、ついきつく言ってしまったんだ。ボクも同じ棟に住んでるから」

そこまで言って、私は気がついた。

このドライバー、知ってる。

なぜなら、過去にナンパされたことがあったから😂

会話が楽しかったから、なんとなく言われるままに

番号を交換してしまったのが間違えだった。

しつこくお茶に誘われて

困った。笑。

たしか、その時は違う車種を運転していたはずだが、

テスラに乗り換えたのか。

とにかく、深入りはやめとこうと思って

“Have a nice day!”

(良い一日を!)

と言って、立ち去った。





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