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朝食と詩の種

パンをこねるように言葉をこねくりまわすと 僕の手の温度が高過ぎるので君は顔をしかめる もっと冷えた手で素材に触れてほしいと

大雨と強い日差しが かわるがわる訪れるこの季節は 欲望としてのたいしゅうで鼻が折れそうになると

たしか 陶芸を始めようとした時も同じようなことを言われた 不器用な日常が反復される

頭まで熱くなってしまうと気を失ってしまうので どうにか汗を流さないように休憩を入れる お湯を沸かし コーヒーを入れて パンを焼き フライパンでベーコンを焼いた

うちに秘めた恐怖から つい力を入れすぎて ことばを吐き出し目を逸らしてしまう むかしキャッチボールをする時はボールから目を離さぬよう教えられたはず 獣の頃の記憶と折り合いをつけなければならない

かつて君が 空に浮かぶ十字路のほとりでうずくまり「なにか言って」と手を差し伸べてきた時 何の言葉もかけられず ただ 泣いているだけで 冬でも暖かい僕の手で握り返してみても何の助けにもならない

そういえば 西瓜のたねも南瓜のたねもランボオに噛み砕き飲み込んできたので 幼い頃から種など知らず実ばかりを食い漁ってきたので 

もっとよく見て よく噛んで 丁寧に食べることを教えてくれた君

やがて、焼き上がるパンの香ばしい香りとベーコンが焼ける聰明な音が部屋中に響きわたる

「食べられればいいじゃない」

君が そっと羽毛のような軽いことばで何かの種を手渡す

雨上がりの朝の日差しのような暖かい手が私の頭を冷やしてくれた


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