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ギャーンヴァーピー・モスクとアヨーディヤー事件

最近のインドでは、バラナシにあるモスクが注目を集めている。
「ギャーンヴァーピー・マスジッド」という、ヒンドゥー寺院を破壊して建設されたモスクでヒンドゥー教徒が礼拝することを容認するように裁判所に嘆願が出されていて、その審議が地方の裁判所の手に負えなくなり、最高裁に移されたのだった。

大きな注目を集めたのは、モスクの内部調査で「シヴ・リンガ」らしきものが見つかったと報告されてからだった。このモスクがカーシー・ヴィシュヴァナート寺院を破壊して建造されたものであることはとっくの昔からわかっていたことだったそうだが、今回の調査で初めて「シヴ・リンガ」らしきものの存在がわかり、ヒンドゥー教徒が礼拝に殺到した。(ちなみに、このシヴ・リンガらしきものについて、ムスリムは「あれは噴水の跡である」と主張している)

裁判はいまだ審議中だし、こうなることを見越して裁判所は報告書が提出されてすぐに「ムスリムの礼拝を妨げることがないように」と勧告を出していたにもかかわらず、以前のアヨーディヤー事件のような流れになりつつある。

1992年に起きたアヨーディヤー事件の舞台も、同じようにヒンドゥー寺院を破壊して建造されたモスク(バーブリー・マスジッド)だった。
アヨーディヤーはヒンドゥーの聖地の一つ(「ラーマーヤナ」の主人公ラーマの故郷)である一方、バーブリー・マスジッドはムガル帝国のバーブルが建てたモスクということでムスリムにとっての重要な場所の一つでもあった。
このモスクをヒンドゥー教徒にも開放するように(というか実際にはヒンドゥーのものとするように)というキャンペーンが展開されたが、その主な担い手がヒンドゥー右派団体のRSSやVHP、政党のBJPだった。
このモスクをめぐっても、「突如としてヒンドゥーの神像(ラーマ像)がモスク内に現れた。奇跡が起きた」という噂が広がってヒンドゥー教徒が礼拝に殺到している。

アヨーディヤー事件は結局ヒンドゥーとムスリムの暴力的衝突にまで発展し、双方に死者を出している。モスクはヒンドゥーの武闘派右翼勢力によって破壊された。
そこから長らく最高裁で審議が続けられていたが、2019年、この破壊されたモスクの跡地にヒンドゥーのラーマ神を祀る寺院を建設することに許可を出した(周辺エリアにイスラムのモスクを建てることの許可も出ているが)。
ちなみに、私の職場のとあるインド人はこの判決に喜んで、ミターイーを職場の人たちに配りまくっていた。こちらとしてはぶっちゃけ引いた。

今回のギャーンヴァーピー・モスクの件がどうなるか、不安でしかない。
私は1992年のアヨーディヤー事件の頃はまだ生まれて間もなかったので記憶もないけど、リアルタイムで見ているとひりひりするような危機感に苛まれて、当時現役のインド研究者もこんな気持ちでアヨーディヤ―事件を見守っていたのだろうか、と思う。
双方にとって平穏な結論に達することを願っているけど、望みは薄そうだなあ…。

ちなみに、ヘッドラインの画像について。ギャーンヴァーピー・モスクのことを書くにあたってgoogle mapで見てみたら、敷地内にインドのドトールこと「カフェ・コーヒー・デー」(通称CCD)があって少しほっこりした。ヒンドゥーもムスリムも仲良くでろでろに甘いコーヒー飲んでてほしいね。


参考記事


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