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月と六文銭・第十四章(19)

 田口たぐち静香しずかの話は続いていた。厚労省での新薬承認を巡る不思議な事件の話に武田は引き込まれ、その先の展開に興味を示していた。
 高島たかしまみやこは、パイザーのネイサン・ウェインスタインの秘密を探ろうと近づき、一緒にドライブに出かけたが、その途中で絶頂に達して戸惑っていた。

~ファラデーの揺り籠~(19)

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 都はウェインスタインの手を払い、落ち着こうと深呼吸し、自分の足元、靴の先端を見つめた。ちょっと贅沢して購入したお気に入りのシャネルのパンプス。横がピンクだったが、先端は黒。いわゆるバイカラーだが、車の中では黒い先端が見えないから、何となく足の先を見つめている感じになっていた。
 私、今、確かにイったわよね?あれはイクという感覚だよね?どうして?どうやって?都は混乱していた。
「大丈夫ですか?気分が悪いですか?スピードは落としました。次のランプで高速道路を降りて、一般道でホテルに戻ります」

 ウェインスタインは分かっていて、私をイかせた上で知らん顔して、そんなことを言った。この後、どうするつもりなんだろう。取り敢えずはホテルに戻らなくちゃ。

「そうしてください。少し出張の疲れが出たようです。部屋に戻って休もうと思います」
「分かりました」
 ウェインスタインはランプを降りて、高速道路に慣れてしまったスピード感覚を一般道に合わせるために、低いギアのまま時速30キロ前後で車を走らせていた。
 これが必要なことだったのか、わざとなのか、3,000回転以上、4,000回転くらいまでの回転域を使っていたため、都は子宮に響く振動に晒され、直前の絶頂の感覚も残っていたので、ずっと快感曲線が高原状態を維持していた。オートバイの後ろに乗っている女性がうっとりして、その後のホテル直行を許してしまう理屈だった。
「顔が赤いです。具合が悪いのですか?私の部屋で休みますか?」
 都は迷った。バーテンダーの話ではウェインスタインはドライブの後、バーに戻るはずだったが、このままだと部屋に戻ることになる。昨日までとは違った展開となる。
 得体のしれない方法で自分の体の奥を刺激されているのは危険だった。いや、危険に身を晒すのは慣れていたが、あらゆる場合に備えて、対策を訓練してある。
 しかし、今回のこれにどう対処したらいいのか分からない。こんな状態でウェインスタインの部屋に行けば、望まぬ肉体関係を結ぶことになる可能性が高かった。

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