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月と六文銭・第十六章(14)

 武田は留学生リュウショウハンと赤坂見附駅の近くにあるオイスターバーでランチを楽しんだ。
 パパ活を提案してきたリュウは写真ではなく、生身でブラのみの上半身を彼に見せ、自分の本気度を示した。武田はリュウの気持ちを理解し、前を閉めさせ、牡蠣を楽しもうと提案した。 

~充満激情~

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 日本各地の牡蠣が運ばれてきて、二人はレモンを掛けたり、酸っぱいソースや辛いソースを掛けて楽しんだ。
 リュウは嬉しそうに牡蠣の殻を口に合わせ、指で口の中に流し込み、口の中でしっかり嚙んでから飲み込んでいた。

「美味しいです!
 嬉しいです!
 台湾では焼いて食べることが多いですが、生で食べるのも美味しいのですね」
「美味しいですよね。
 私は広島に行った時は金網を木炭の上に掛けて、牡蠣を焼いたり、ニューヨークのオイスターバーでは生で食べたりしました」
「ニューヨークは有名ですね。
 ヒロシマは?」
「広島は日本では有名な牡蠣の産地です。
 ほかの有名な産地はあの黒板に書かれています」

 武田はリュウの右後ろの方向にある黒板を指した。本日入荷している牡蠣の産地が書かれていることを伝えた。

「そうなんですね。
 その中でお奨めはどれですか?」
「南の産地では福岡県とか、長崎県、北では岩手県、宮城県辺りが良い産地と言われていますね」

 リュウはウンウンと頷きながら、黒板を見ていた。

「ニューヨークでは現地の物以外に、日本が原産?出身?の銘柄が人気でした。産地の名前っぽいのがKUMAMOTO(くまもと)でしたね」
「クマモト?」
「九州、台湾にも近い、日本では最も南の大きな島です。そこの西側にある県が熊本県。そこから牡蠣を輸入したのが最初なのだと思います」
「そうなんですか」
「オイスターバーの店員がそう言っていました」

 リュウはウンウン頷いて聞いていた。リュウは牡蠣の新しい食べ方を知って、何か得した気分だった。

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 楽しい時間はあっという間に過ぎ、食事が終わりを迎えたと感じた時、どちらからともなく、目線が合った。

「楽しかったね」
「はい、楽しかったです」
「また、お会いしましょう」
「はい、来週またお会いしたいです」

 武田はジャケットのポケットから封筒を取り出して、リュウの方にスッと差し出した。

「あ、ありがとうございます」

 リュウは封筒の中をちらって見てから、ハンドバッグにしまい、入れ替わりで携帯電話を取り出した。パスコードを入力し、画面を2回めくって、カレンダーを出したようだった。

「来週は木曜日の午後からお願いできますか?
 生理期がもう終わっているはずです」

 武田はテーブルに伏せて置いてあった自分の携帯電話を持ち上げ、予定表を見た。

「分かりました。
 来週はディナーとお部屋で過ごすことにしましょう」
「はい、ディナーということは夕方からですね。
 よろしくお願いします」

 リュウは深くお辞儀して、携帯電話に予定を入力した。

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 武田は午後からの女子高での授業を終え、キャンパスを少し散歩した。授業を行った高等部のビルを出て、移転前の大学院・社会人棟の前を横切り、初等部棟の前まで歩いた。そこから南東と南西方角を眺め、教務部のビルに向かった。講師用カードで入退館ゲートを通過し、学外に出て、地下鉄の駅へと向かった。
 昔ならチョロチョロ歩き回り、キョロキョロあちこちを覗いて狙撃地点を探したり、確認したりする必要があった。
 しかし、今はGPS搭載の腕時計、所謂スマートウォッチが登場したことにより、おかしな行動を取ることなく、歩いた軌跡を記録したり、自分の位置を確認したりできるようになっていた。
 散歩した結果のデータをパソコンに取り込み、地形データ、ビルの建設用届け出データなどと重ねることにより、狙撃地点の候補が検討できる。それに狙撃候補日の気象データを重ねて、弾道をシュミレートしたら狙撃プランが出来上がる。

 武田は自分のマンションと職場の中間地点にあるこの部屋で仕事道具の確認と狙撃プランの確認を行う。別名義で借りてあるこの部屋はいわば秘密基地のようなものだった。
 当然、恋人・のぞみはこの部屋のことを知らない。田口は知っているかもしれないが、直接その存在を知らせたことはない。自分の秘密の仕事に関連した資料や物品が置いてあるため、逢瀬に利用するなどということは間違ってもしない。かといって、自分の秘密を知っている田口との逢瀬に使おうとも思わない。完全に自分だけの空間なのだ。

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 武田は帰宅する途中でリュウからラインでメッセージを受け取った。

刘:ランチ、美味しかったです
 お手当をお約束通りいただけまして、
 ありがとうございました(^▽^)/
 先ほど生理期が始まりました
 来週は大人の関係でお会いしましょう(o*。_。)oペコッ

 大人の関係でお会いしましょう、か。きちんと伝えてくる点は好ましい。リュウという女性はきちんとしているのだ。しかし、女性から男性に生理が始まったことや今度会った時はセックスしましょう、と伝えてくることは普通ではない。端から見たら異常な関係は、どこをどう正当化しても、やはり異常な関係でしかない。
 また、リュウが言ったように、多分武田はリュウの父くらいの年齢なのだろう。同年代よりは落ち着いている可能性は高いし、経済的余裕があることは確かだろう。それが目的なのだから、経済力のない男性だったら相手をする必要はない。
 リュウは自分の父くらいの年齢の男性の性生活をどの程度きちんと想像できているのだろうか?
 いざベッドインしたら、武田のタフさに驚くことになるだろう。なかなか射精に至らない遅漏とするか、女性がイくまで翻弄し続ける絶倫なスケベオヤジと断定するか、はリュウの判断、評価次第だ。痛くなるまで行為を続けさせられたら嫌だろうと武田も思っていたため、適度なところでさっさと射精して嫌われない程度に攻めた方が良いだろう。
 武田は返信の内容に困ったものの、約束を果たしていこうと思ったので、その通りに返信した。

tt:ランチ、美味しかったですね。
 来週の木曜日、ディナーを楽しみにしています。
 予定通り生理が終わっていたら、
 食後はお部屋で過ごしましょう。

 武田はリュウにとって違和感のない、彼女の質問に答えている形で返信した。
 武田からの返信を待っていたのか、すぐにまたメッセージが来た。

刘:楽しみにしています
 有楽町で待ち合わせして、赤色か黒色の
 武田さんの好みの下着を選んで欲しいです
 それを着て、お部屋で、私、頑張りますので
 木曜日、よろしくお願いします
tt:分かりました。
 有楽町で合流しましょう。
 劉さんは肌が色白だから赤も黒も映えるでしょうね。
刘:ありがとうございます
 私はあまりセクシーではないのですが、
 武田さんに喜んでもらいたいので、
 赤でも黒でも着ます
tt:お店で見て、似合うものにしましょう。
刘:はい!
 それでは木曜日に宜しくお願いします!
tt:こちらこそ、楽しみにしています。
刘:ピーチ&ベリーの一番セクシーな下着の写真を送ります✉
 事前に考えておいてください♡
 <写真1>赤
 <写真2>同黒
 <写真3>同緑
 <写真4>同白
tt:ありがとうございます。
 意外と白もいいですね🤔
刘:私もそう思います
 当日、4つ試着しますので、
 武田さんが選んでください
tt:👍
 武田はサムズアップ👍の絵文字を送って、やり取りを一旦終えた。

 ピーチ&ベリーで最もセクシーなタイプと言っても、武田の好きな欧州物に比べたら可愛いレベルに留まるのは否定できなかった。もちろん、武田はリュウにはそんなことは言わない。彼女なりに一所懸命なのが分かっているので、それを否定するような発言は控えていた。
 色白なリュウが赤や黒などのはっきりした色合いのランジェリーを身につけたら、セクシーに見えるのは当然のことだ。そこで、リュウには敢えて白のスリーピースを身に付けさせるのも面白いと思い始めたのだ。


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