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月と六文銭・第十六章(13)

 武田はパリ出張の対応を進めていた。田口たぐち静香しずかが同行したがったが、武田には昔の会社役員の公私混同が思い出されて、躊躇した。 

~充満激情~

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 田口の体の不思議な動きは離れがたい魅力を持っていたが、出張に女性を伴うひと昔前のバカ役員みたいでちょっと抵抗があるのが武田の本音だった。

 昔の会社役員は公私混同が激しく、武田が若い頃はまだそういう不心得者が会社にはたくさんいた。公然とではないが、愛人やホステスを出張に同伴するのは可愛い方で、会議が海外の保養地の場合、家族全員を連れて行こうとしたりする強者も。

 武田が初めて民間会社で勤務した時に仕えたバカ役員は、物見遊山8割、仕事2割という考えの人で、欧州出張では美術館巡り、古城巡り、保養地を泊まり歩いたり、ムーラン・ルージュなどのショーを毎晩見に行ったりとやりたい放題だった。
 それで仕事が人の十倍できるのなら武田も諦めるが、仕事のほとんどは部下(つまり武田)に丸投げするふざけた仕事ぶりだったから、自分は絶対こういう役員にはならないと固く誓ったのだった。
 しかし、この役員の秘書のような仕事をしながら、空港コードやトランジットの効率的な方法を覚えたり、トーマス・クックの欧州鉄道時刻表の使い方を覚えたり、この役員の個人的興味で調べさせられたキリスト教の聖遺物が展示されている教会や聖書に出てくる有名な地名を片っ端から覚えた。初めはいやいやだったが、後々欧米人と話す時に役立つ知識となったことは確かだった。

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 武田は手に持っていたスマートフォンに視線を戻して、田口に機嫌を直してもらおうと思った。

tt:今度、部屋に来てください、エッチなナースさん
st🐈:あら、急にトーンが変わった🤔
 一応チオを2本くらい持っていきますね
tt:いや、それはいらないです
st🐈:じゃあ、ちゃんと教えてくれるのですね
 誰と今週エッチしたか
tt:のぞみとだけです
st🐈:なら、アナタの太い注射、期待しますね😊
tt:その時、パリのこと、相談しましょう
st🐈:👍

 田口とのやり取りは会話のようにスピードが速く、ポンポンと進む。そして、いつの間にか彼女のペースに嵌っていくのが、分かっているので、どこかで会話を切らないといけなくなる。

 また、ラインからメッセージが届いたとのアラートが表示された。武田が画面を開けるとリュウからだった。もう予定を立てたのだから、今更、何だろう?と思った。

刘:私、今持っているのはこんな感じの物です
 <写真1>花柄の上下のお揃い
 <写真2>黄色の上下のお揃い
 <写真3>青色の上下のお揃い

 家に帰ってわざわざ着替えて、現在持っている下着のセットを撮影して送ってきたようだ。元々持っている写真ならすぐに送ってきただろう。

tt:ありがとうございます
 かわいいですね
刘:ありがとうございます!
 今度会う時、どれがいいですか?
tt:青かな
 でも、部屋には行きませんので、見る機会がないかも
刘:お見せしたいので、武田さんが見えるような
 服を着て行きますね

 見せたい?見せる?いや、部屋には行かないし、服を脱ぐシチュエーションはないはずだが…。
 リュウの意図が掴めず、武田は戸惑った。見えるような服とはどういうことだ?シースルー素材のブラウスということか?

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 約束通り、武田は次の週に前回と同じ赤坂見附駅でリュウと待ち合わせをした。彼女は薄い青のブラウスにそれよりも少し濃い水色のタイトスカート、白いカーディガンを組み合わせて登場した。
 相変わらずノートPCを入れた大きめのカバンを肩にかけていたし、薄い茶色の革のハンドバッグを斜めに掛けていた。ストラップを両胸の間に掛けて胸を強調するパイスラと呼ばれるスタイルなのは武田も一応は知っていた。
 そして、このパイスラをすると胸を強調できるメリットがあることをリュウも知っていた。
 そのリュウは、大きくはないものの形のきれいな形をした胸を強調し、武田のみならず、多くの男性の目を楽しませながら、登場した。

「こんにちは!」
「こんにちは。
 素敵な青い服ですね」
「ありがとうございます。
 中もお揃いで統一しています。
 後でお見せしますね」

 リュウの言葉に武田は依然として一体何が起こるのか分からず、期待していいのか、どうしようか、頭の中でクエスチョンマークが舞っていた。
 武田はリュウを伴って大通りを渡り、オイスターがメインのシーフードレストランに入った。木目調の落ち着いた店内にリュウの青の服が映えた。

「テーブルとカウンターを選べますが」

 ウエイターに聞かれた時、リュウはスッと武田の袖を引いて、テーブルで、と囁いた。

「テーブルにしてください」

 リュウの希望通り、テーブルに案内され、武田から見て、やや斜めの位置にリュウは座った。
 彼女はニコニコしながら、メニューを手に取った。意外と貝類が好きなようで、オイスターにも大いに興味があるようで武田は安堵した。

「武田さん、私、こちらとこちらとこちらを食べてみたいです」
「いいですね、私も興味あります」
「お願いしてもいいですか?」
「分かりました」

 リュウは武田に食べたい物を頼んで席を立つ許可を求めた。

「お手洗いに行ってこようと思います」
「はい、どうぞ。
 多分お店の右奥だと思います」

 そう言って武田は店の奥を右手で示した。

「ありがとうございます」

 リュウは軽くお辞儀してお店の奥に向かった。

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 リュウが戻ってきた時、武田はケイタイの画面を確認していた。

「お待たせしました」

 武田が画面から目を上げるとリュウは自分の荷物を隣の席に移し、武田のちょうど目の前に座った。
 武田とアイコンタクトが取れたところで、カーディガンの前を開けた。そこには青いブラウスはなく、いきなり青いブラが見えていた。

「先日、武田さんが希望した色です」
「はい、確かに私が希望した色ですね」

 武田は戸惑いながらもリュウの言葉に頷いた。

「店員さんが来ない限り、武田さんに見て欲しいです。
 今、生理期で少しだけ胸が大きくなっています」

 生理の時に胸の張る女性がいることは武田も知っていた。
 例えば、のぞみは生理中は胸が張って痛いという。内側から膨らませる感じなのか浮腫んでいるのか、触れるだけで痛みを訴えることもあった。
 リュウがどちらなのかは不明だが、小ぶりな胸がコンプレックスなのか、大きい時に武田に見てもらいたいのか、時々姿勢を正して強調した。

「どうですか、私の胸?」
「きれいですね。
 形がとてもきれいです」

 リュウは店員が近づいてきたのを察して、カーディガンの真ん中のボタンを留め、胸元を閉じた。

「また、食べている間、開けますね」

 リュウは再びボタンをはずし、青いブラを武田が見えるようにした。店員が来た時には前屈みになって、腕を組んで胸元を隠した。

「リュウさん、分かりましたので、もう前を閉めてもいいですよ」
「いいのですか?」
「リュウさんも落ち着いてお食事してほしいので。
 しかも、しっかりと見せていただきましたので、本日は満足しました」

 リュウは心配そうな顔をしたままカーディガンの前のボタンを上から下まで三つ閉めて、完全に前を隠した。

「牡蠣が来ますし、お食事を楽しみましょう」
「はい!」

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