マンゴー色の色鉛筆
彼女は美術を専攻しているガチ勢だ。
高校生ながら受賞歴も幾つかあるらしく、仕事道具には「〇〇賞金賞!」とマジックペンで記念に刻んだ物もあった。将来はその道に進むのだろう。
作品はちゃんと見たことがないが上手いのだと話は聞く。クラスの中では一目置かれる存在だった。
そんな彼女と一度だけ話したことがある。何かのタイミングで席が近くて世間話をした。
一通りよくある話題を終えたところで、彼女はおもむろに色鉛筆セットを取り出し、満面の笑みを向ける。
「見て見て!この色鉛筆!世界に数セットしかないレア物で、特にこのマンゴー色とパパイヤ色なんて他にはないんだよ!」
他の道具には、落書きがしてあるのに、これは比較的キレイに管理されている。
実は、このネタが彼女にとって鉄板なのか、他のクラスの人たちに自慢してたのを盗み聞きしたことはあった。
「へ〜こんなのがあるんだ!珍しっ!」
「でしょ?!これなんかね…!」
先程、私の振ったアニメの話題とは打って変わって、自分の好きなことに関しては立板に水である。
あの時は確か、体育祭だか文化祭だかのイベントで大広間にいた。お祭り感があったのは覚えている。
前にスクリーンがあり、長い机にはみんなの荷物が置かれ、パイプ椅子が並んでいる。
まばらに人が集まっては出てを繰り返している。各々小グループでまとまって雑談をしていた。
瞬間、後ろの方でザワついた。
緊張感が走る。
人が倒れたらしい。数人がパニックになりつつも、不断に声かけが行われている。
名前からして叫ばれているのは彼女だということが分かった。
皆がおどおどしているので、私は逆に冷めてしまい、とっさに救急の手配をした。
数分後、担架がやってきて、彼女を括り付けた。
部屋の後ろの方から、前の出口に向かうらしいので、私は無我夢中で机や椅子を押し出し道を作る。
あとは無事を祈るしかない。
彼女と同じグループの人らが自然に私に駆け寄り、様々な憶測を語った。
その後、散乱した机と荷物を片付けていると、彼女の仕事道具が落下しており、いくつかヒビが入ってしまった。
私は青ざめた。
色鉛筆セットも散らばり中身が大破している。使い物にはならないだろう。
私は彼女のグループの人らになじられた。
「これ、〇〇ちゃんが大事にしてた奴じゃん!やば!!」
大方、掛けられたのは同情や称賛の声であったが責任転嫁されたようだ。
そんな大切な物なら持って来んなよ!とやり場のない憤りを感じたが、後の祭りだ。
彼女はケロッとした顔で数日後に戻ってきた。
過労だったらしい。提出する作品の締め切りが迫っていたのと、行事の準備にも熱心だったので寝れてなかったそうだ。
先生は彼女に気を遣った言葉をかける。
私に対しては、「よくやった」と褒めてくれたので「将来、このことを就職面接の場で話したら採用してくれるかな?」とか空想していた。
その日の終わりに彼女は私の元に近寄ってきた。
脈拍が上がる。
同時に深々と謝罪をした。
「「ごめんなさい!!」」
「周りから聞いたんだけど、あの時はありがとう!迷惑かけちゃってごめんね。」
「いやいや、無事で何よりだよ。こっちこそ大事な道具壊しちゃって本当にごめん!弁償したいんだけど売ってないっぽくて…何か代わりのものとかある?」
「もう、何言ってんの笑 そんなのいいの!」
「へ?いやぁ」
「はい!これ。入院中描いたの。」
彼女は太陽のように微笑んで、紙を差し出した。
そこには、私の好きなアニメキャラの絵が描かれてあった。
マンゴー色は使われていない。
※さっき見た夢の書き起こしです
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