武富健治『鈴木先生』|絶対に忘れられない漫画が、そこにはある

ささやかな問題も重大な試練も全力で挑む、まったく新しい教師像。

この学校、この教師たち、この生徒たち、リアリティを求めてしまったらさすがにそこは漫画としてデフォルメされているわけだが、だからこそ、教育の問題点が分かりやすく浮き彫りになっている。私はずっと教師たちに恵まれなかったと思っていて、同じように多くの学校では、教師と生徒は多分にすれ違っていると思う。鈴木は、生徒一人一人の「本当の声」を必死に気づこうとしている。こんなことが現実の教師に務まるか、そんな余裕はないように思えるが、教育の理想としては、嘗て学生だった身としては、一人でもこうやって本当の声に気づいてくれる教師がいれば、救われる生徒は大勢いると思う。ずっと教師に気にしてほしいなんて思わない、たった 1 人、分かってくれる大人がそのときにたった 1 人いただけで、子どもたちはずっと前を向いて歩いていけると思う。信じられる大人が世の中には 1 人でもいるということが知れたことで。最終巻『鈴木先生外典』では、みんなが鈴木の信者みたいになっているのが理解できなかった、一歩引いていた、という一人の生徒の本音を描く。私の学生時代も同じだった。教室のノリにはついていけないし、教師と生徒のお決まりの掛け合いにも一度も笑えなかったし、同窓会にも一度も参加したことがない。この『鈴木先生外典』をラストに据える武富健治は、やはり、本当に教育の問題に一石を投じたかったのだと思えてくる。鈴木のやり方だけが正解ではない、それは当たり前で、別のアプローチで生徒に向き合う鈴木ではない教師が必要なんだと、読者に真摯に訴えているように感じた。

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