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2009年の新型インフルエンザを元に描かれた短編『邪まな風』(丸本チンタ)を久々に読んだ感想

新型コロナ感染症が流行していることもあり、丸本チンタさんが別PNで発表してる短編『邪まな風』を久しぶりに読みました。

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私はこの作品のダークな雰囲気が好きで何度か読み返しているのですが、最近(2020年3月)読んだ際には、平時に読んだのとは違った感想を持ちました。

マンガ内で描かれた日本と似た状況、新型ウイルスで大騒ぎの中で読むと、色々な側面が見えてきて。なんというか…うまく言葉が浮かばない。

コメント 2020-03-30 052834

自分の中にある盲点や図星…虚を突かれる感がある為、嫌いな人は嫌いだし、叩く人は叩く作品だと思います。救いが全くないというか、主人公を崖から突き落とすような作品なので、読後感も良いとは言えず、万人向けではない。けれど、28ページの中で沢山の発見がありました。情報の密度が濃ゆい濃ゆい…。

作品情報

『邪まな風(没ネーム彩色版)』は大阪在住の漫画家・丸本チンタさんが、2009年当時の新型インフルエンザ騒動を元に描いた創作(フィクション)漫画です。”滑川ゆちか”という別PNで発表しています。

コメント 2020-03-30 052907

別PNだしテーマがタイムリー過ぎるので、この記事を書く前に作者のチンタさんに問い合わせて了承をもらっています。チンタさんによると今作は、

2009年に制作、当時お世話になっていた編集さんから「タイムリーすぎる」という理由でボツになったネーム(ラフ)を、2010年に読みやすくクリーンナップしたものです。

…とのことでした。10年前か…そんな前に描かれたとは思えない臨場感でした。編集さんがボツにしたのは正しい気がするというか。2009年頃だとただただ、叩かれるだけだったような気もします…。

登場人物やあらすじ

2009年5月。大阪や兵庫では新型インフルエンザの感染者が増加の一途をたどっていた。

東京の一戸建てに住む、とある家族ーー主婦の優香と夫、娘の詩織、介護が必要な夫の父(優香の義父)の生活にカメラを合わせるような形で物語は進みます。優香は子育てと介護のダブルケアを担っているようです。

新型インフルエンザが流行している中、娘の詩織が発熱。優香は娘と一緒に病院へと足を運びます。

コメント 2020-03-30 052757

※以下はネタバレを含む感想です

日本の問題が凝縮している、ような

28ページの短編だというのに、この濃密さは何なのか…!

中心人物である優香の様子を見ると、その救いの無さに息が詰まります。ワンオペ育児だけでもしんどいのに、義父の介護まで背負わされている…。

優香がとった行動を批判する人もいるでしょうが、私は綺麗ごとなしで現実を写し取っているように感じます。ちなみに私は最初読んだ時、優香が何を意図してそれを行っているか?…が、くみ取れず。娘の詩織と同じ気持ちで「何やってるんだろう…?」と思っておりました。人生経験が足りなかったな…。

作中で描かれる感染症(新型インフルエンザ)は創作で、コロナウイルス(新型肺炎)とは病状≒報道内容が違います。だから優香は気付けましたが、現実を思うと…。恐ろしい話だなあ。

家族に無関心な夫

特筆すべきは夫のクソっぷりかも知れません。ただ、コロナ騒動の中で読んで、印象が変わったのは夫の行動をどう解釈するか?の部分なのです。

平時に読むと、育児にも介護にも、家族に関心がないクズ男にしか見えませんでした。夫は自分しか見てない、自分しか心配しない身勝手な人間である。ただ、内弁慶というか、身勝手は家庭の中だけに限られているだろう…と解釈していました。

でも、物語の終了間際の様子を見ていると、夫は不安のあまり、パニックに陥っているように思えたのです。

ラストシーンは電車の中ですが「夫がパニックに陥っている」と解釈してラスト1ページを読むと、ヒヤリとします…。…心配になるのは優香さんのことですが…。

2009年を東京で過ごした自分には見えなかった光景

作者のチンタさんは大阪在住で、2009年の新型インフルエンザ感染拡大を経験しています。2010年に発表された今作には、サラリと「PCR検査」という言葉が出てきますが、私がこの言葉を知ったのは最近です。

2009年はスマホも普及しておらず、Twitterも広がり始めたくらいの時期。

私は東京で過ごしてましたが、マスクを買った覚えもなく、いつも通り生活してました。関西の方は大変だな…と思ったことは記憶してますが、それ以外、印象に残る記憶がありません。

この気づき、当時、全く無関心だった自分が見えたのが一番ガツンと来ました。

むやみに心配して経済活動を止めてしまうのも良くないですが、自分は大丈夫、東京は大丈夫、関東は大丈夫…と油断するのも良くないなと思います。こういう無関心が感染拡大に繋がるとも思いますし…。

作品内で描かれた家族は、救いもなく、最悪の状態です。だけど、現実にもこんな風に追い詰められた家族がいるかも知れない。

まずは自分自身や家族など守るべきものを守ってからですが、親戚、隣に住む人、街を歩いてる人、電車で隣り合わせた誰か…が、最悪の状態にならないように、気遣う余裕を持ちたいと思いました。

終わりに

読んだことがある28ページの短編を再読して、ここまで心動かされるものかと驚かされました。ブラウザから、会員登録なし、無料で読めるので、気になる方はぜひ。

ただ、上述した通り救いが見えない暗い話だとは思うし、タイムリーなので不安が増す可能性もあります。すべてが落ち着いたときに読む方が良いかも知れません。

おまけ・チンタさんのマンガは素敵なのでこちらもどうぞ

先日、発表された「Kindleインディーズマンガ大賞」でチンタさんの『サヨナラもっちゃん』が準大賞に選ばれました!やったー!

コメント 2020-03-30 042841

チンタさんが娘・もっちゃんを描くコミックエッセイです。タイトルに”サヨナラ”とありますが、不幸な展開ではありません。

Kindleですが会員登録なし・ブラウザを使って無料で読めます。


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