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個室って本当に必要だっけ? 遊び場、オフィス、ショールームをあえてシームレスにした | 「QRATES」のお仕事


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「個室にしてほしい」という意向に向き合った結果、真逆のシームレスな空間が最適解だと思った


アナログレコードの制作・販売とデジタル配信を融合したプラットフォームを展開している「QRATES」のオフィス兼ショールーム。

Manekineko & Partnersが包括的に手がけたこの空間は、一緒に物件探しをしていた頃から(なんと数年にも亘って!)、「オフィス、制作したレコードを聴くためのショールーム、良い音で音楽を楽しみたい大人たちの遊び場。この3要素を入れたいんだ」というクライアントの熱い思いを聞いていました。

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↑工事前の様子

設計を始めた頃には新型コロナウイルスが既に拡大していたので、社員の方に週何日来るか、などアンケートを取り、オフィスの使い方をヒアリングした結果、ここに出社するのはほとんど施主である社長のみの予定。
「広い共有スペースは不要だから、目的ごとに部屋を分けてほしい」と言われていたんですが、QRATESは「遊ぶ」と「働く」の境界が曖昧な会社で、だからこそクリエイティブが生まれているんですよね。

彼らの強みを考えた時に、雑談が生まれにくく、コミュニケーションが分断される個室のつくるのはちょっと違うなぁ……と。「彼らにとって、本当に求められているオフィスとは?」を考え抜いた末に、要望とは真逆のシームレスな空間を提案することにしました。

目的ごとに部屋を分けてしまうと、用のない時には全く活きない空間が生まれてしまいますよね。常時多くの社員が出勤していて、各個室がひっきりなし使われるのであれば別ですが、QRATESの働き方を考えるとコストがかさむ割にメリットが少ないと感じました。
何より、遊び場としてレコードを楽しみたいのであれば、直線上に音を遮断するものを置かない方がいいと思ったんです。

また、オンラインミーティングが同時多発的に行えるゾーンづくりという与件があり、部屋を区切る事も解決の一つだったのですが、こちらについてもベンチ(視点高さ:中)や、ラウンジチェア(視点高さ:低)、ハイテーブル(視点高さ:高)など意図的に高さ(視点)を変え、より良い形で、着地することができました。

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箱のポテンシャルを活かし切るための「マルゲリータ理論」

内装のデザインでまず意識したことは、この箱のポテンシャルを活かすこと。
床だけはフローリングを引いたけれど、空間の素材にたし算をしたのはそれだけなんです。築50年以上貼られていた天井は抜いて、躯体をあらわにしました。これだけで平凡だった空間の印象ってガラッと変わるんですよね。天井高を上げることで、音響の質も上がりました!

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代々木公園の真正面という借景を活かして窓際はショールームに。借景があるのとないのとでは、感じる音の迫力が全然違うんです。視界の邪魔をしないよう、カーテンすらも吊るしていません。

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料理で言えば、「マルゲリータ」。

発酵したピザ生地のように熟成された、箱の持つ円熟感。そこに箱のポテンシャルを何倍にも高める為に、トマトソースとチーズ、バジルの葉でシンプルに味付けをするかのように、素材を最も活かしてくれそうなインテリアデザインを加えているのです。

(さらにいうと、家具などは一部アンティークの高級家具を入れているので、モッツァレラチーズを使った普通のマルゲリータではなく、ボッコンチーニという水牛のチーズを使った、マルゲリータブッファロといったところでしょうか)

シンプルだけど飽きないように、
エリアごとに視点と音響を変化させるスタイリング

クライアントのこだわりで、1950年代「ALTEC」の業務用劇場オーディオの配置は決まっていました。音の反響を遮らないよう、入れた家具は必要最低限のみ。シンプルな空間なので、飽きがこないように家具には高低差をつけました。ベンチ、ラウンジチェア、ハイテーブルなど。各エリアによって、空間の見え方や音の聞こえ方が違うんですよ。シンプルなのに一辺倒じゃないスタイリングって、大事です。

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唯一オーディオの直線上から外れている奥まった空間には、レコードがぎっしり。面出しすると蓋のようにぴったり収まるレコード棚はManekineko & Partnersが一から設計したものです。近くに寄るとわかるんですけど、ぴったりハマるようにミリ単位で調節を重ねたので、かなり大変でした。こだわりの作品です。
評判がとってもよかったので、レコード棚はプロダクトとして開発中!

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設計当初、オフィスに毎日出勤するのは社長だけの想定でした。でも今では、音と眺めの良いこの空間を気に入り、多くの社員さんがわざわざ出勤しているそうです。嬉しいことですね。
可動域が広いので、オンライン会議が重なっても距離を保って気を遣わずに済むし、コロナ禍でも好きな音楽にのびのびと触れられるオフィスであり、大人の遊び場になりました。

必要最低限の設備だからこそ、白い壁をホワイトボードとして使用するなど創造力が高まり、各々が使いやすいよう、日々進化させてくれているみたいです。

◎ 私たち「Manekineko & Partners」については

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