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東京暮らし #2 #Midjourney #shortshortshort

俺は女を連れて飯に出ることにした。

ちょっと待ってといい、彼女はイケてる風のホットパンツ女に擬態した。

飯を食うのに外に出る必要はない。
大戸屋だろうがスタバだろうが、社食として部屋に取り寄せられる。

このビルの2階までは店が入っている。ユニクロもある。ダイソーもワークマンもある。俺と無関係な、よく知らない名前の店が大量にある。

なので外に出る必要はない。運動不足なら部屋のマシンを使えばいい。プロテインもある。

しかしとくに理由もなく、人は外の空気を吸う必要がある。

東京はもうずいぶん古びている。
薄汚れた路地とビルにネオンが張り付いている。
そこに飽きもせず人が行き交う。
その昔、SFの中で見た二極のディストピアがここにある。

その昔、俺はITドカタだった。安月給でヨレヨレのスーツを着て、朝から晩まで働いていた。よくわからない理由でコードを書き直した。それが今は、二極のうちのいいほうだ。

「その“クソコード”直すより、AI様に最初から書いてもらったほうが速いんじゃないの?」
女は串から肉を引き剥がしながらそう言った。

普通に考えればそのとおりだが、世の中には謎のニーズがある。
なんで成り立っているのかわからない商売が山ほどある。

金がもらえるならそれでいい。
たとえ俺が回しているのが奴隷の謎の棒だったとしてもだ。
そう思って俺は、このことについて深く考えないようにしてきた。

「もしかしたら他に目的があるんじゃないかしら?」
串だけになった串を弄びながら女はそう言った。

「たとえば?」

「例えば……。ロボットに学習させるためとか? そのほうが理由として合理的じゃない?」

この女は世間を知らない。俺が生きてきた中で、この世界が合理的だったことなど一度もない。

奴隷の謎の棒のほうがよっぽどリアリティがある。力のあるものに取り入って、どれだけ「棒」を回す仕事を回してもらうか。それだけだ。

そして出来上がったのがこの街だ。古びて錆びついている。少しずつ死んでいるのが誰の目にもわかる。

しかし出鱈目をやってきたわりには悪くはない。良いという意味ではない。やってきた出鱈目に比例していないという意味だ。そしてなぜか死なずに生きている。

店を見渡せば、どのグループもノーマスクで談笑している。

いったいこの世界は誰が成り立たせている?

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