悪夢のあとの目覚め
カルカッタで見たのは、路肩に横たわる病人、寺院の片隅で捌かれたヤギの血だまり、灰色の空気。
駅で物乞い囲まれる。少年は上半身裸で、腕の欠損をアピールした。
投げやりにずっと生きていた。そんな気分を吹き飛ばすには充分すぎる旅の始まりだった。
料理、仏跡、土産物屋、サリーを試着させながら胸を掴んでくる店員、バスの外に延々続く雑木林、バラナシの迷路ですれ違った牛、動かない修行僧、飛行機から見た網目状の光、スパイシーな味のオレンジジュース、スパイシーな匂いのカルカッタ空港……。
記憶に残る映像はいくつもある。
しかしカルカッタで眠気を吹き飛ばされた私の脳を、目覚めさせたのは彼の瞳だった。
田舎の村。ただ茶色く広がる大地。汚れた服の少年たちが、汚れたボールを楽しそうに追いかけている。
彼はこちらに来て、ガラス玉のような瞳で私を見た。心の底に光が差し込んだ。
それは二十年前の私に訪れた、昧爽の最初の光だった。
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