「夫婦で育休」が私たちにくれたもの
娘のおもちゃから流れてくるアメリカ民謡メドレーが、なかなか独特の編曲で頭から離れない。あまりに聴きすぎて、気が付くと「イーアイイーアイオー」と口ずさんでいる自分がいる。
そしてもうひとり、この独特なアレンジの民謡を私にかぶせて完璧にハモってくる者がいる。夫だ。娘が3ヶ月のときから長期育休中の夫は、私以上にこの「イーアイイーアイオー」を聴き続けているのでこのままではベースラインも含めて完コピしてしまいそうな勢いである。
「へえ!旦那さん育休取ってるんだ!何日くらい?」とよく聞かれる。
理由は後述するが、夫は1年は育休を取得する予定だ。なので「1年くらいかな」と言うと、120%の人が「え?!」と目を見開く。それはそうだ、私もそんなに長く取ると思っていなかった。
でも期間の長さはさておき、男性の育休自体はどんどん広まってほしいなあと思う。長くなりそうだけれども、誤解を生まないように丁寧に書きたい。
無痛分娩も、ネントレの方法も、育児の仕方も。どんなテーマで書くときも、いつも私の根元にあるのは「自分たちでそれがいいって決めたなら、それでいいじゃない!」ということ。
全ての夫婦にとって、ふたりで育休をとるのが「正解」ではないと思うけれど、その選択肢があること、選びたいと思ったときに少しでも不安が解消されること。そういうことを願って、この記事を書くことにした。
日本の育休制度は、すごい
夫が長期育休をとると言うと、大抵の人が「やっぱり外国人の旦那さんはいいね~」とか「外資系は違うね~」とか言うが、そんなとき私は慌てて「待った」をかける。
「いやあ、それがアメリカは育休ないらしいのよ」
実際、アメリカにも育休はあるっちゃ、ある。ただそれは州や会社ごとの規則であって、国をあげての育休はないのだ。しかも会社で取れる育休だって、せいぜい数週間から数ヶ月。なんと女性もだ!アメリカの親戚や友人は「出産の翌日に退院、翌々週には仕事復帰」という人も珍しくない。もっと休みたければ有給を使ったり休職したりする。もちろんその場合は手当なんか出ない。
一方で日本は育休が法律として制定されていて、しかも両方の親が同時にまたは交代で取れる。その期間、なんと1年!これ、アメリカ人からしてみれば「Holy S**t!」なのだ。
それでも「平成29年度雇用均等基本調査(速報版)」によれば、男性の育休取得率は5.14%(過去最高)。ツイッターなんかを見ていると「お、育休パパも増えてきたねえ」と思ってしまうのだけれど、実際はまだそうでもないみたいだ。
もちろん育休取得できない・しない理由はたくさんあるんだろう。仕事やキャリアやお金やら、家庭にはそれぞれ事情がある。
でも最近は「男が育休?取るわけないだろ」って人よりも「取りたいけど、取ってもいいの?」って人のほうが増えてきたような気がする。
というか、男性が長期育休を取れることも、同時に取れることも知らない人が周りに多すぎる。なので声を大にして叫びたい。
「夫婦で育休」おすすめだよ!
夫婦で同時に育休を取ってみて、何がいいか。もちろん物理的な負担が減るというのはあるけれど、それだけじゃない「取ってよかった!」と思えたことは、大きく3つある。
①一緒に経験値を上げることができる
②得意なタイプで戦える
③2人揃ってレベルアップできる
具体的にどういうことなのかを、ひとつひとつ書いてみよう。
①一緒に経験値を上げることができる
娘は私たち夫婦にとって初めての子だ。まず赤ちゃんという存在に慣れるまで、この半年間はもう何が何だかわけもわからず、手探りで必死に娘を育ててきた。
なんで泣いているのか、どうすれば安心するのか、何をすれば喜ぶのか。全部が試行錯誤の連続だった(今もだけど)。そのトライ&エラー、娘という存在を知っていくがむしゃらの時期に、夫と一緒に娘と向き合えたのはよかったと思う。
夫が育休を取るまでの3ヶ月間は、どうしても私ばかりが娘の変化に気がついて、夫に教えてあげたり指示してやってもらうことが多かった。
ポケモンで言うところの、私ばかりがバトルに出ているのでレベルアップしてしまい、他のポケモンがあまり使い物にならなくなる状態である。(夫にクリスマスプレゼントとして新発売ポケモンをリクエストされた。ポケモンボール型のコントローラーは値段が張るので諦めてもらった)
本来であれば一匹のポケモンに偏らず、パーティー全体をレベルアップしていくのが賢いやり方のはずである。そうしないと、その一匹がダウンしたときにすぐに全滅してしまうからだ。
いわゆるワンオペ育児で母親がインフルエンザになったり、2人目を妊娠してつわりがひどかったりして、てんやわんやなるのがこのパターンかと思う。ジムバトルには挑むのは難しい。
その点、夫婦で同時に育休を取ると、ふたり揃って経験値を積むことができる。ずっと一緒じゃなくてもいい。子育ての手探りの時期に「この場合はどうしようか」と話せるベースができているだけで、今後の子育てのときに話がスムーズになるんじゃないかと思う。
②得意なタイプを分けられる
またしてもポケモンの話で恐縮だが、どんなポケモンにも得意なタイプと苦手なタイプというものがある。いくら「ほのおタイプ」の私がレベルを上げたところで、カスミ(ハナダジムリーダー・主に水ポケモンを操る)を目の前にしたら、結構あっけなくやられてしまうだろう。
でもそこで、同じくらい経験値を積んだ「草タイプ」の夫がいてくれたら、どうだろう。水ポケモンに強い「草タイプ」の夫もいれば、カスミを倒して「ブルーバッジ」を手に入れることができる!(タッタラーン!)
(写真は夫のゲーム中に隠し撮りしたもの。新しいやつはポケモンに乗れるなんてすごい!)
育児において私たちは特に役割分担を決めているわけではないけれど、やっぱり「これ、あんまり好きじゃないんだよな~」みたいのが出てくる。例えば私の場合は「哺乳瓶を洗って消毒すること(特にくわえる部分を洗うのがめんどくさい…)」、夫だったら「赤ちゃんの服をたたんでしまうこと」だそうだ。(これを聞いたら、まず赤ちゃんの世話で何があるかをリストアップしてから答えてくれた。さすが長期育休中。)
そういうときに「ちょっとお願い~」と頼める、そしてここが大事なのだが「任せられる」人がいるというのは大事だ。これもふたりで経験値を積んできたからこそ、お互いに心配せずに任せられる。
他にも夫は調べ物が得意なので、育児に関する様々な情報を世界中から集めてくる。私はインターネットであまり調べ物をしないようにしているので、夫にそのへんは任せられて助かっている。
小さなことでも「こうしたほうがいい」「いや、こっちがいい」などガチンコの話し合いになるのが面倒ではあるけれど、自分だけでは思いつかなかったような意見が出てくるのもおもしろい。
③社会的にも2人揃ってレベルアップできる
夫が長期で育休を取っているのには、もうひとつ理由がある。育休を取るときに夫から「オンラインスクールに通いたい」と申し出があった。彼がキャリアについて悩んでいるのを知っていたし、キャリアアップのために学びたいことがあるのは素晴らしいと思った。
これを人に話すとたいてい「え!子どもが生まれて、これからお金が必要になるっていうのに反対しなかったの?」と驚かれて、私が驚いてしまった。
私は「子どもが生まれたら好きなことができない」という呪いが大嫌いだ。自分自身もいまだにその呪縛から逃れようと必死だけれど、夫にまでそれを課したくはなかった。やりたいことが見つかって、自分でできると決めたならやるべきだ。だって親である前に、彼の人生だから。個人の人生も、家族としても進んでいけるのが私の理想だ。
まあそんなこんなで夫は1日数時間パソコンに向かう。数週間に一度はテストもあるが、そんなときは私が娘を連れて出掛けるなどして対応している。これから授業や課題が増えてきたらわからないが、今のところ夫は「育児・授業・(ポケモン)」のバランスがうまく取れているように見える。
逆に、私が行きたいイベントなどがあるときは娘を夫に預けて出掛ける。1日中家を空けても、経験値を上げた夫は何の問題もない。おかげで好きなイベントに参加したり、会いたい人に会いに行ったり、社会から切り離されずに済んでいる。
家にいても病院に行ってもママ友に会っても「母親」である私が、私自身として社会と繋がれる日がある。これは仕事に復帰したときに、気持ちが切り替えやすいのではないかなあと考えたりしている。(たとえ今すでに赤子以外とうまく話せず落ち込こんだとしてもだ。)
夫婦同時に育休を取ったからこそ「中と外」を両方とも分担できる。それは長い目で見たときに、家族にとっていいことなんじゃなかろうか。
夫が何よりも嬉しそうだった瞬間
夫が育休に入る前、娘は私のほうばかり見ていた。夫が抱っこしていても私を目で追って、私が近づくとニコッと笑う。(かわいすぎる!)もちろん夫も働きながら一生懸命お世話していたので泣いたりすることはなかったけれど、やはり一緒にいられる時間に限りがあるからか、その差は明らかだった。
9月のはじめ、夫の育休が始まった。娘の変化は案外すぐに現れた。
「ねえ見て、僕のこと目で追ってる!」
はしゃいで部屋を行ったり来たりする夫の嬉しそうな顔が忘れられない。全力で娘に向き合っているこの時間は、彼にとってもまた人生の特別な1ページになっているのだと思う。
夜の授乳で眠れなかった私に代わり、午前中は夫が娘と遊ぶ。私が起きたら3人で少し散歩して、午後には川の字でちょっとだけ昼寝する。ふと目が覚めて横を見ると、そっくりな愛おしい顔がふたつ。こんな幸せなことってあるだろうか。
双方の上司や職場の理解があったからこそ、実現した夫婦同時の育休。本当にありがたい。こういう会社や人がたくさんの社会になってほしい、と心から思う。
楽しくて幸せなこの時間は、きっと一生記憶に残るだろう。最大限に楽しみたいと思う。
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